【或る高校教師の苦悩2】ホームルーム
(前話「出会い」の続きです。)
しばらくしてホームルームの時間になった。
生徒たちは先に教室に戻っており、その教室に俺が行って初めての顔合わせという感じだ。
今日は、授業も昼休みもなく、ホームルームが終わればそのまま午前中に下校という流れだ。
俺「よし!」
俺は、緊張とワクワクをこらえながら、教室のドアを開けた。
すると、さっきまでざわざわしていた教室内が静かになった。
教卓に立つと、学級委員長らしき男子生徒が、号令する。
学級委員長?「起立!礼!」
生徒「お願いします!」
これも前の先生が指導されていたのだろう。すばらしい。
しかし、それどころではない。
俺は、あの女子生徒のことしか頭になかった。
ただ、探すまでもなくあの子は見つけることができた。
一番後ろの列の窓際。
やはり、後ろの子への配慮ということで一番後ろの席なのだろう。
その子が立ち上がると、想像以上の迫力だった。
本当に怪物と対峙しているといった感じだ。
清楚で少し気の強そうな顔が天井近くまで持ち上がる。
肩幅の広さもすごい。
確か、学校の校舎の天井は280cmとかだったから、身長240とか250とかだろうか?
俺の身長が低いのもあるが、高すぎて想像がつかない。
でもずっとそうしてはいられない。
俺はホームルームを始めた。
俺「えーっ、先ほど挨拶しましたが、村上といいます。教科は数学です。以前は、〇〇工業高校で…」
といった感じの自己紹介を済ませ、プリントを配ったり、連絡事項を話したりする。
始業式の日ということもあり、夏休みの課題や通信簿の回収もある。
やることが山積みだ。
早く、あの子のことを知りたいのに、、
俺は、はやる気持ちを抑えていた。
いろいろと済ませ、俺はホームルームを締めくくった。
俺「2学期が始まるんでね、気を引き締めるように。じゃあ、これでホームルーム終わります。」
学級委員長?「起立!礼!」
生徒「さよならー!」
一気に教室が騒がしくなる。
あの子も立ち上がっている。
周りに、小さい女子生徒たちが数人集まって何か話しているようだ。
小さいって言っても160cmとかあるんだろうけど。
女子生徒たちは、彼女の股間あたりに頭がきていた。
ホントにセーラー服のスカートの中に収まってしまうくらいのサイズ感だ。
それだけ、あのセーラー服が大きいということだ。
そして、荷物を抱えてすぐに教室を出て行ってしまった。
俺「あっ、行っちゃった、、」
その様子もノッシノッシという感じだった。
別に太っているわけではないのだが(というか遠目で見たらかなり痩せ型だ)、近くで見ると腕や脚の太さ、肩幅や腰回りなどが常人では考えられないサイズ感なのだ。
その子の後ろ姿を眺めていると、ある男子生徒に声を掛けられた。
正直邪魔するなよと思ったけど、いけない、いけない、俺は今教師として勤務中なんだった。
男子生徒「先生、この宿題なんですけど、、」
聞いてみると、前の担任の先生(その先生も数学教師だ)が出した課題の模範解答が途中までしかなく、丸付けできないとか何とかややこしい相談だった。
俺「うーん、どうしようか?とりあえず、どこがないの?」
男子生徒「このページから無くて…」
そんな感じでいろいろ話していると、結構時間が経っていた。
一応問題は解決したけど、あたりを見渡すと教室にはその生徒と数人しか残っていないような状態だ。
「ふー、やれやれ。」といった具合だ。
ただ、俺はふと気づいた。
その相談してきた男子生徒には見覚えがあったのだ。
長身で丸坊主の野球部の生徒だ。
「あっ!始業式であの子の隣に立っていた男子だ。」
そう気づいてから、その子をまじまじと眺めてみた。
すると改めて背が高い。1年生男子にも関わらず185cmくらいありそうだ。
多分、男子生徒の中でも飛び抜けて高い部類だろう。
男子生徒「先生、ありがとうございました!」
俺「あっ、うん。こちらこそ、教えてくれてありがとう。」
適当に流していたが、この男子の身長がへそあたりに来るあの女子生徒はどれだけデカいんだ?その思いで、頭がいっぱいだった。
生徒が全員帰った教室に残り、息をつく。
遠くから、部活動の声が聞こえてきた。
昼休みは無いけど、部活動生は弁当を持ってきて午後から部活なのだろう。
俺は、科学部の顧問みたいなのだが、ほとんど活動していないようだから気が楽だ。
このチビガリの体で運動部の顧問にさせられたらたまったもんじゃない。
ふと、教卓の上を見渡す。
すると、先ほど回収した夏休みの課題と通信簿が積まれていた。
俺「ん?そういえば、通信簿に身長とかが書かれてるんじゃなかったっけ?」
そう気づくと、俺の心臓が急にドキドキし出した。
急いで、「岩倉」の名前を探す。
するとすぐ見つけることができた。
「岩倉玲奈」確かにこの名前だ。
胸の高鳴りを抑えて、通信簿を開く。
俺「どこだ?どこだ?…あった!」
そこには1学期の身長・体重・座高・視力などが書かれてあった。
1学期ということは、この子たちが高校に入学してきたときに計測したものだ。
俺「身長は…243cm!!体重は192kg!!」
俺は、あまりのサイズに声を上げてしまった。
243cmというと154cmの俺より90cm近く背が高い。
90cm差って全然想像がつかない。
逆に154cmの俺より90cm背が低い場合、身長64cmということになる。
あの子から俺を見たら、64cmの赤ちゃんに見えるってこと?
いや、違うか。
そんなことに思考を巡らせる。
しかも、これは半年くらい前のもののはずだ。
今ではもっと大きくなっているかもしれない。
俺「すごすぎる、、」
俺は、興奮を通り越して呆れてしまっていた。
そしてふと、岩倉の机に目をやる。
多分特注で高くしているものだ。
普通の学習机の下に木材を継ぎ足して、高くしているのが一目で分かる。
そして俺は、そのフックにぶら下がったかなり大きな手提げに気づいてしまった。
おそらく、その中に岩倉の体育着や体育館シューズが入っているのだろう。
俺は気持ちを抑えられず、無意識にその机の方へ向かってしまった。
つづく…