姫の一億円札を盗ったのは誰 Vol.6
俺たちは汗だくになりながら、昼過ぎには引っ越しも終盤を迎えていた。
親父の動きは70歳を越えているとは思わせないほど元気だ。
ズボンまでビッショリ汗をかいてる親父を初めて見た。
まだまだ現役で仕事をしている親父。
普段もこうやって汗を流しながら必死に働いてるんだろうな・・・
昔の親父からは想像できない姿だ。
引っ越しがとりあえず落ち着いて、親父はご飯に行こうと提案した。
みんな汗だくだったので、新居で順番にシャワーを浴びてからご飯を食べに行く事になった。
嫁は汗をかいていなかったので、先に車で待機していた。
俺は1番最初にシャワーを借りたので車に乗り込んだ。
「お金の管理大丈夫だった?」
俺は嫁に親父が預けていたお金を数えるように言った。
どうやら、ちゃんと管理できていたようだ。
そして親父もシャワーを浴び終わったのか車へやってきた。
みんな昼ご飯を食べていなかったから、そろそろ何か食べたかった。
けれど、マイペースな貴子と息子は中々やってこない。
昔からそうだが、あの2人は周りの空気をいっさい読めない。
俺の怒りのボルテージはもうマックスまで上がっていた。
普段そんな顔を見せないからか、嫁は心配そうにこちらを伺っていた。
イライラしている俺は、親父にも嫁にも気を遣う余裕は残っていなかった。
そしてやっと2人がやってきて俺たちは予約していた居酒屋へむかった。
居酒屋に着くやいなや、貴子と息子はお品書きを2人でじっくり見ている。
おいおい勘弁してくれよ。
普通は嫁か親父に先に渡すだろ。
酒飲みの二人は幸い到着前からビールから飲もうと言っていたから、とりあえずビールだけは注文する事ができた。
それから何分待っただろうか。
ようやく注文したい物が決まったのか、貴子と息子は店員さんを呼んだ。
そこでやっと嫁と親父はメニューを見る事ができた。
そんな2人に心底呆れて俺は悲しくなった。
なんで俺がこんな気持ちにさせられないといけないんだ。
そしてやってきた食べ物は机に乗り切らない量だ。
はぁ・・・
もう何も言いますまい。
なんでここまで無礼な事ができるんだ。
元々非常識な奴だとは思っていたけど、酷すぎるだろ。
まず初めにとどいたマグロの中トロのは3人前を頼んでいたが、あろうことか貴子は3切いっきに取り皿に入れた。
俺はこんな奴初めてみた。
普通は1切ずつ醤油につけて食べる物じゃないのか。
もはや結婚していた事実さえ恥ずかしくなってきた俺は、もう貴子の方を見ないようにした。
机いっぱいに届いた食べ物を食べきれるのか不安だったが、貴子は見事に平らげた。
俺は心の中で悪態つきながら、やっと帰れる事に安堵した。