木村草太教授 2024年5月7日参議院法務委員会(参考人に対する質疑)
参考人聴取からの続きです
古庄議員
参考人の皆様、ご苦労様でした。自民党の古庄玄知と申します。私、昭和60年から大分で弁護士活動をしております。
今回参議院という、こういう席をいただきまして、質問させてもらうことになりました。時間が限られていますので、まず4人の方に質問をしたいと思います。同じ質問です。時間があるので2分以内に何とか回答いただければと思います。
まず本件は、共同親権を導入するかどうかということが1番大きな問題点ですけれども、この本法案が通った場合、 離婚した夫婦間の争いは減ると思うのか増えると思うのか。また、そういうふうに考える根拠についてお答えください。
それと、仮に増えるというふうに考えた方、増えても共同親権は導入すべきだというのか、やめるべきだというのか、またその理由についてもお答えください。
木村参考人
これは増えるに決まってるというふうに考えてよろしいかと思います。
先ほど山崎参考人のご意見にもありましたけれども、今、単独親権しか選択肢はないわけですけれども、共同親権に強制的にできるという内容を入れればですね、強制的に共同親権にしてほしいという申し立てが、これまでなかったタイプの申し立てが行われるようになるので、それは増えるに決まっているというふうに言ってよろしいかと思います。
また、数値的な問題ですが、本日の資料22ページ、付録2につけてきたんですけれども、例えばフランスやアメリカの例を見てみますと、フランス、アメリカ、両方とも共同親権導入国で、共同親権の問題だけではないので単純に比較はできないんですが、例えば日本は令和4年中に全国の裁判所が受理した子の監護関係の受理数が2万件だそうですけれども、日本の人口の約半分のフランスでは、2022年の父母の別離後の未成年に関する申し立てが17万件、アメリカのニューヨーク州では人口の2000万人ということで、日本のおよそ6分の1ですけれども、案件14万件を家裁が扱っているというふうな数値もありますので、共同親権にして紛争が減るということはまずないだろうと。 また、諸外国の数値を見ても、かなりの数の紛争が裁判所で争われるのではないかというふうに考えるのが自然ではないかと思います。
また、紛争は増えるというふうになりますけれども、もちろん父母が合意した場合に、一緒にやっていこうという時に裁判所の調整を求めるということはあり得るかもしれませんが、強制型の共同親権で無理やりシングルで子育てをされている方々に、 裁判所に引きずり出して時間や労力を奪う、経済力も奪うということは、これは非常にまずいことですので、強制型の共同親権、これはやめるべき、 共同親権の要件には必ず父母の合意を要求するとすべきだと思います。以上です。
牧山議員
立憲民主・社民の牧山ひろえです。参考人の皆様、本日は大変ためになるご高話ありがとうございました。また、日程の都合上、ゴールデンウィーク中にも本日のご準備のご負担をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
(中略)
改正法の施行までの2年間で、家裁がDV加害者を正確に見抜けるように、この2年間でなると思いますか。木村参考人、いかがでしょうか。
木村参考人
DVを見抜くかどうかということは、仮に見抜ける能力ができたとしても問題であるというのが私の立場ですということですけれども、どうでしょうね。認定ができないケースというのはたくさんあると思います、どんなに裁判所が認定能力を持ったとしても。ですから、非合意の場合には強制しないという形でしか被害者が救われる方法はないと思っています。
牧山議員
今でさえできてないというものをですね、現在より事件の数が激増すると見込まれる、わずかこの2年間の間に解決できると判断すること自体、 無理があるかと思うんですね。
木村参考人は、共同親権賛成派のパブコメ開示請求によって取得して、それを分析されたと伺っているんですけれども、別居親が共同親権を求める動機は何か、親権を獲得してどう使おうとしているのか、特に離婚・別居当事者と思われるもののコメントをどのように分析されたのでしょうか。
また、そこからどのようなリスクをお感じになられたんでしょうか。
木村参考人
法務省はすべてを公開してくれているわけではございませんので、そのご質問についてはぜひ、おそらく法制審議会であれば全てを閲覧することができたはずでしょうから、 審議会の委員をされた沖野委員に伺うことが良いかと思いますけれども、 私が見た限りでは、非合意でも強制した方がいいケースについて具体的に挙げてる意見はありませんでした。
いずれも合意した場合に、離婚しても父母が仲がいいという、そういうケースで共同親権にできるといいよね、 あるいは何らかの介入によって父母が協力関係になった場合には共同親権を選べた方がいいよねという、そういう説明がほとんど、ほとんどというか、という説明しかなくてですね、強制してでも医療や教育について強制的に決定すべきであると、別居親の同意がない限り医療や教育の決定ができないような状態を非合意の場合でも強制すべきであるというようなことを、説得的に事例を挙げて説明した要望書は、私の分析ではまだ見ていないということです。
最も全部が公開されておりませんので、それはまた公開された後に分析をしてみたいなと思っています。
牧山議員
木村参考人は、いわゆる無限ループ問題を指摘されております。
学校のプールですとか、病院でのワクチン接種などの日常行為については、 同居親も別居親も親権、単独行使ができるとされているため、いつでも一方の親がキャンセルすることができるわけです。
その結果、いつまでも最終決定ができないというのではないかという懸念がございます。
もし、この問題についての防止策が法務省が想定している協力義務違反などしかないのであれば、医療、教育、保育など子どもに関わる業界にどのような事態が生じることが想定されますでしょうか、木村参考人。
木村参考人
はい。先ほど指摘しましたように、いつまでも医療や教育に関する決定ができないということになります。
今回の法案は、不思議なことに、どちらかが優先するではなくてそれぞれ単独で行使ができるということになっておりまして、 そうすると一方が習い事を申し込んで、もう一方がキャンセルする、いずれもキャンセルも申し込みも単独でできるという信じられない条文になっておりまして、これは賛否を問わず、条文の作り方として粗雑すぎると言ってよろしいのではないかと思います。
例えばですね、ドイツ法では日常行為については同居している親の側が1人で決定できるとなっておりますし、フランス法では、親権行使があった場合に、同意がないということを知っていない限りは、その相手には同意を得て行使をしているとみなしてよいというような規定がありまして、いずれもこの問題については調整のための規定を置いております。
ですから、今回の法案がなぜこのような粗雑な作り方になったのかというのは、私は非常に疑問に思っているところです。これを放置しますと、あらゆる子どもに関する日常決定が、紛争性の高い父母の場合に、キャンセルと実行の両方が入力されることによって学校や病院で大変なことが起きるということが想定されます。
そして、学校の側からすると、例えばプールに入れてくださいと父が言い、プールに入れないでくださいと母が言った場合に、どちらを拒否しても親権者の意向に逆らったということで損害賠償の対象になるということになるので、大変なことになるのではないかと思っております。
牧山議員
今のご意見お聞きすると、いろんなところで問題が生じるんだなというふうに痛感いたします。
当事者間にとどまらないというわけですよね、学校側ですとか病院側ですとか。この問題は、法文を父母から現に監護する親に修正すればそれで解決する問題だと思うんですね。法務省はなぜこの簡潔で効果のある解決策を取らないと思われますでしょうか、木村参考人。
木村参考人
それは法務省に聞いていただきたいところでありますけれども、混乱を甘く見ているということかと思います。
やはり加害性の強い方というのは、親権をいくらでも濫用するということが先ほどの山崎参考人のご指摘にもあったことですし、熊谷参考人からはずっと経済虐待が日本でたくさん起きているんだということを訴えておられます。
そういう状況の中で、加害行為にいくらでも使えるような一方的なキャンセル権を付与する、 しかもそれを合意ではなくて強制によって、裁判所の命令によって付与するということが何を生じるのかということは、具体的に想像していただきたいと思います。
牧山議員
法務省は親権者変更の申し立てが救済策になると答弁しているんですけれども、木村参考人、この救済策としてのご評価をお聞かせいただければと思います。
木村参考人
はい。親権者変更のためには、先ほどから問題となっておりますように、非常に長くの時間と労力が必要になります。
従って、トラブルが起きそうなものは事前に除去しておくに越したことはないと思いますし、 それが救済策であるというふうに考えること自体、訴訟コストが0であるという非現実的な想定を置いていると言わざるを得ません。
牧山議員
私は、やはりお互いの共同親権への意志が大事だと思いますし、これをしっかり確認するプロの第三者が必要かと思うんですね。それが裁判所になるのかと思うんですけれども、結局、裁判離婚でも親権者変更の審判でも、父母双方の合意がなく共同親権となり得ることが最大の問題であり、合意が必須となれば、ここまでの懸念は相当程度解消すると思うんですけれども、 山崎参考人、そして木村参考人はいかがお考えでしょうか。まずは木村参考人。
木村参考人
もちろん、非合意強制型がまずいというのはここまで申し上げてきた通りです。
また、合意型については、ぜひ考えていただきたいのは、これまでは子どもの面倒を見るから親権を持つという選択肢しかなかったわけですけれども、これからは、子どもの面倒は見たくない、しかし口だけは出したい、だから、別居親になった上で親権者との共同親権を持つという選択肢が生まれます。
これは非常に、共同親権にしなければ何々をしないぞというような取引に使われる可能性がありますので、合意の誠実性の担保というのはぜひしっかりしていただきたいと思います。
牧山議員
その合意を確認する意味でも、やはりプロの第三者が必要だと思われますか。(中略)最後に木村参考人、いかがでしょうか。
木村参考人
はい。ですから、合意型に限定をするのであれば、離婚時は必ず単独親権とした上で、2人で共同親権届を出すというような仕組みにすればよろしいのではないかと思います。また、合意が失われたらいつでも同居親の単独親権に移行できると、届け出だけで単独親権に移行できるという仕組みを備えれば、合意型の共同親権は十分に実現ができるのではないかと思います。
このような案を検討していない法制審議会は、はっきり言って仕事をしていないなというふうに感じます。
清水議員
日本維新の会の清水と申します。今日は大変貴重なお話をありがとうございます。まず、木村参考人にお伺いをしたいと思います。
コメントいただきました中で、欧米では共同親権が主流というスローガンばかりが1人歩きし ているというお話があったかと思います。確かに、こう見てますと、やっぱりこれは欧米の時代の流れだと、欧米の流れに合わせてというのは、こういったアナウンスメントをよく聞くように感じるところであります。この考え、この認識自体が、そもそも欧米では共同親権が主流ということ自体が違っているのか、それとも主流ではあることは間違いないんだけども、やはりDVであるとか虐待であるとか、こういった問題を含みながら共同親権というのを各国進めているものなのか、この辺りはいかがなものなんでしょうか。
木村参考人
大変素晴らしい質問、ありがとうございます。
付録の1につけてきたのですけれども、欧米で共同親権が主流かどうかというのは非常に難しい問題です。
まず、日本の共同親権というか、共同親権の率を計算するときに、婚姻中が共同親権、日本でもそうであるわけですから、どの国の共同親権率が高いのかというのは、離婚後の共同親権の率だけではなくて、婚姻中の共同親権率と合わせた数字を見ないといけません。
日本の場合には嫡出子の比率というのが非常に高くて、子どもが生まれた場合、97.6%がお父さんお母さん婚姻しているということで、父母の共同親権率100%から0歳児が始まるということです。
私の試算ですと、成人するまでに父母が離婚する確率は23%ぐらいが日本ということで、日本は75%ぐらいが出生時から成年時まで父母が婚姻中に共同親権を継続するということになっております。
この数値は非常に高いものでありまして、例えばアメリカですと、そもそも事実婚も多いので、同居や事実婚も婚姻と数えたとしても、1歳未満の子どもが父母と一緒に住んでいる割合というのは77.8%ぐらいだそうでありまして、生まれた時点でシングル家庭というのがアメリカの場合18%ぐらいということであります。ここから離婚家庭が増えていくということになりますので、 15歳から17歳時点でカップルと住んでいる、大人のカップルと住んでいるという子どもは64.3%、この中には相当数のステップファミリーが含まれると思われます。
そうするとですね、アメリカでは離婚後の共同親権率が、いろんな計算がありますが2割から3割ぐらいだろうと言われているので、離婚後の共同親権率を合わせても、 共同親権下で育つ子どもの率というのは日本に及ばないということになります。
フランスでも同じような数値がありまして、例えば2016年のフランスの3歳未満児の家族構造を見ますと、カップルと子どもが一緒に住んでいる3歳未満児で、段階で87.2%しかカップルと住んでいなくて、母子家庭11.7%、父子家庭1.1%ということでありまして、要するに欧米では婚姻率が非常に低いので、離婚後の共同親権という制度を導入していかないと共同親権率が上がっていかないというようなことかと思います。
清水議員
おっしゃる通り婚姻の形が違うというのはその通りだなというふうに思います。とはいえ、率が低いにしろ、共同親権をとっている場合は当然といえば当然だと思うんです。つまり、DVや虐待の問題というのはやっぱり各国発生しているという認識でよろしいですか。
木村参考人
その点は非常に重要な問題でして、DVや虐待を除去しませんというふうに堂々と言ってる国はもちろんありません。
しかし、実際に現地のDV保護の団体とかの声明を見ていると、非常に被害者にとって酷な状況になっているということがうかがわれます。
アメリカの研究もありますし、イギリスの研究もありますし、ドイツの研究もあります。
それらの研究を見ると、共同親権を拒否すること自体が子の福祉に反する行動をしていると見なされがちで、この結果、DVや虐待を裁判所で訴えるということ自体を被害者が忌避するというような現象が起きているという指摘も非常に多くあります。
こうした指摘は、各国、一生懸命被害者団体等をしているんですけれども、なかなか立法に届かないという現実がありまして、ぜひ参議院議員の皆さんは、その各国のDV被害者たち、虐待の被害者たちの声も組み上げて比較をしてほしいと思います。
清水議員
木村さんにもう1点お願い致します。非合意強制型の話が ありまして、これを言うと、おそらく法務省や裁判所は、裁判所が判断するという意味では非合意なんでしょうが、ちゃんと状況を見て判断した結果がこうですというような答弁になってくるんだと思うんですよね。これについてはどのように考えますか。
木村参考人
はい。どういう場合に非合意で強制すべきかということについて、法律というのは、皆さんが作っておられる法律はいつでも典型的な適用例というのを示せるはずです。窃盗とはどういう例ですかと言われれば、これが窃盗ですというふうに示せるわけです。
今回の審議を見ていると、どういう場合に非合意でも強制しなきゃいけないかということについての具体的な指摘が非常に乏しいわけです。
例えば、先ほど沖野参考人からありました、「命令されると共同親権をやってもいいかなって思う人たちがいるのではないか」。
この想定は非常に非現実的でありまして、なんていうか、本心ではやりたいんだけれども、命令してくれないとできないみたいな、私がツンデレケースと呼んでいるケースですが、このようなケースは、このために法律を作るというのはこれはおかしい。やはり合意が積極的にある場合に限るべきです。
また、同居親の監護が不十分であるケースというのが指摘されましたけれども、共同親権というのは、医療や教育についての決定を、別居親にわざわざ同意を取らないと決定ができない状態ということになるので、監護のための時間あるいは監護のための労力というものを奪っていくわけですね。
そういうようなことを監護不十分なケースでやれば、さらに監護の状態が不十分になるということが想定されます。
もしも監護の状況が不十分ということであれば、それはシングル家庭の方に対して、そうですね、資金援助であるとかヘルパーさんを派遣するとか、そうした形で改善すべきであって、別居親の同意がないと教育やあるいは病院についての決定ができなくなる状態にすることが監護不十分ケースの援助になりますという発想は、ちょっと驚きを禁じ得ないところがございます。
川合議員
国民民主党・新緑風会の川合でございます。本日は、貴重なお話を頂戴しましてありがとうございました。(中略)
木村参考人にご質問させていただきたいと思いますが、海外の事例ということなんですけど、面会交流を行ういわゆる頻度、いわゆる監護の分掌が進んでいるケースでは、養育費の支払い率が断然上がるという、そういう傾向、数値が出ているというデータがあることは先生もご存じかと思うんですけれど、養育費を確実に支払い率を上げていくということを考えた上で、面会交流を、いわゆる監護の分掌という考え方に基づいて養育費の支払い率を上げていくということの考え方について、先生のお考えをお教えください。
木村参考人
はい。よくぞ聞いてくださいましたという感じのご質問なんですけれども、おっしゃる通り、養育費の支払い担保を法的に強化するということになりますと、特にDV加害等を行っていた人が無関心になっていたところで養育費の支払いを義務付け、強制されることによって、再び加害的な執着を取り戻すというケースもあるというふうに指摘をされております。
で、今回、養育費の確保の強化というのは非常に重要で良いことだと私も思うんですけれども、それをやりますと、今先生がまさにご指摘いただいたように、無関心でいてくれた人が面会交流を求めて、再び加害的な行為をした人と被害者が関わらなければいけないっていう状況も生まれてくる可能性が出てくる。このようにアメリカのDV支援の専門家から聞いたことがございます。
ですので、ご指摘の点は、これは面会交流を増やせば養育費の支配率が上がるから面会交流を増やそうという話は非常に危険でありまして、養育費の支払いと面会交流はきちんと分けて支払いの確保をしなければいけないということだというふうに思います。
川合議員
ありがとうございます。時間が参りましたのでこれで終わりにしたいと思いますが、今の先生のご発言の中で、要は会いたいのに会わせてもらえないというところをどのように見極めていくのかということですね。
そこの部分というところも、やっぱり同時に双方の立場・視点に立って考えるという意味では必要なんじゃないのかなと私自身は思いました。
では、一言だけでお願いできますか。
木村参考人
じゃあ一言だけ。面会交流を申し立てる制度は日本にもございます。
現在、例えば令和2年に終結した面会交流事件は1万件ありますけれども、うち却下されたケースは1.7%にとどまるということで、面会交流の申し立てを利用していただくのがよろしいのではないかと思います。
仁比議員
日本共産党の仁宗平でございます。皆さん、本当にありがとうございます。
(中略)
木村参考人に、その問題でですね、世界の論文を拝見をいたしまして、 こうしたその子連れ別居に対してですね、違法な実子誘拐だ、あるいは不当な連れ去りであるというような裁判所の申し立てがされた場合に、裁判所はどのような審査をすべきなのか。そして今日、どんな基準が裁判所にあるのか、かつ、この今回の法案によって、そうしたこれまでの取り組み、積み重ねっていうのは変わるものと考えますか。
木村参考人
はい。まず、現在の裁判所では主たる監護者による別居かどうかということが重視されるとされておりまして、婚姻中からおっしゃる監護者で面倒を見てきたという人が子連れ別居をした場合には特に違法性は問わない。
一方、主たる監護者でない人であるとか、あるいは主たる監護者が子連れ別居を選択したのにそれを連れ戻すような行為については誘拐罪等が適用されるケースがあるというのが教科書的な説明かと思います。
やはり、DVというのは逃げる瞬間というのが1番危険だという指摘もありますので、 この逃げる瞬間にどれだけ逃げやすい状態を作っておくかというのが法律上非常に重要だというふうに思いますし、日本の現行法は、やはり主たる監護者の子連れ別居については刑罰等を使わないということですから、 この点は非常に諸外国に比べると逃げやすいのではないかと思います。諸外国ですと、こうしたことも誘拐罪で取り締まるということをする結果、逃げにくくなるというケースもありますし、日本のDV対策、先ほどから遅れてるということばかりが指摘されるのですけれども、ただ一方で、このDV殺人でこの女性が殺される率というのは日本は非常に低いんですね。
フランスにしてもアメリカにしても日本よりもはるかに高い数値が出ておりますので、そのいろんな原因があると思いますけれども、その一端は現在の誘拐罪の適用があるというふうに思います。
で、その上で今回の法律ですが、今回の法律では、要するに急迫の事情がない限りは子連れ別居ができないという条文にすることによって、子連れ別居がしにくくなるのではないかということを皆さん指摘されています。
法務省は、 家裁に相談する暇がなければ急迫ですということをずっと言い続けていますけれども、 裁判所は法務省の答弁ですとかここでの議論というのは基本的には見ずに条文だけを見ますので、指摘されている危険は決して大袈裟ではないというふうに思っています。
仁比議員
先生の論文でちょっと引用しますと、「裁判所は、離婚までの監護者、離婚後の親権者を指定する際に、監護の継続性、監護体制、監護環境、監護能力、監護開始の違法性、子の意思などを総合的に考慮して判断する。ここでは、同居中に子を監護してきた実績(主たる監護者がどちらだったか)も重視される」とされていますが、今の家裁の実務とおっしゃったのはこうしたことでしょうか。
木村参考人
ご指摘の通りです。
仁比議員
今の点で木村参考人にお尋ねしたいと思うんですけども、 先ほどの意見陳述の中でですね、被害者やその代理人、支援者への嫌がらせや濫訴への対策がない っていうことを、具体的にはお語りにはならなかったんですけども、指摘がありました。どんなふうにお考えでしょう。
木村参考人
はい。まず、合意がある場合に限定するというのが1番の対策です。
濫訴については、訴訟や申し立ての提起自体が違法であると認定される基準は極めてハードルが高いので、これは濫訴自体が不法行為であるというふうにされることはほとんどないだろうと考えていいと思います。
ですので、濫訴の、不当訴訟の枠組みで、訴訟の提起自体が不法行為になるというようなことが抑止力になるというのは、ほぼ現実的な想定ではないというふうに思われますし、また、共同親権になった場合に、様々なやり方で口を出すということができるわけです。
例えば、ニューヨーク州で裁判になった事案では、父母が両方が親権を持っているので両方が合意しないと旅行が行けない、このために子どものサマーキャンプに行く合意ができなくてキャンプの機会が失われたケースなどが報告されています。
あるいは、日本でもですね、非親権者の別居親である父親が娘に標準服、制服ですね、の着用を義務付けるのは違法だとして中学校を訴えた事案が現行法でもございます。現行法では親権者ではなかったということでこの訴訟は棄却されているんですけれども、このような訴訟が共同親権ということになれば法的根拠を持って主張され得るということになりますので、濫訴というのは親権者変更だけではなくて、共同親権になった場合に、その親権行使についても今言ったようなケースが起きるということであります。
その他医療系の学会も、このままでは病院が非常に意思決定は困難になるのではないかという要望書を提出している、法務大臣に提出したという報道もあります。
仁比議員
そういう状況の下で、本参議院の法務委員会に求められてる役割、審議のありようっていうのはどのようなものだと思われますか。木村参考人。
木村参考人
はい。まず、合意がある場合に限定して本当にいけないのかどうかということをぜひ真剣に検討していただきたいと思います。
また、どうしても非合意強制型が必要だというのであれば、非合意でも強制すべき場合の要件について明確に規定をしていただきたいと思います。
DV・虐待の恐れがある場合を除外するのは、それはもう当然のことでして、 何ら要件を設定したことにはなりませんし、またDV認定についても、おそれというのは、先ほど指摘したように、おそれがある場合を除外するという形ですと、過去にやDVがあっても共同親権になり得るわけです。
アメリカの文献でもいろんなことが紹介されておりまして、例えばノースダコダ州最高裁は、重症をもたらさなかった訴訟、重症のなかったようなDV、しかもそれが3年以上前であるからあまりにも遠すぎるとか、あるいは顔面を殴ったという過去があったとしてもそれはもう随分前のことであるからということで共同親権にするというようなケースがアメリカの裁判例で報告をされております。
そうすると、やっぱりおそれがある場合を除外するというのは、あまりにも狭すぎてですね、過去にDVがあった場合ですら除外できない、今そういう危険な条文を扱っているという自覚を持っていただきたいと思います。
鈴木議員
参考人の皆さん、本日は貴重なご意見ありがとうございます。鈴木宗男と申します。私は最後ですから、よろしくお願いいたします。(中略)
先ほど来、子の利益についてお話がありました。
私も4月25日の委員会で、小泉大臣に質問しております。私は子の利益について、これはいろんな受け止めがありますから、 ならば名文化した方がいいというのが私の考えなんです。
法務大臣は、 「子の利益という観点でありますけれども、子どもが尊重され、またその年齢にふさわしい養育を受け、そして健やかに成長していく、そういうことを通じて子どもの幸せが増えていく、子どもの不幸せが減っていく、そういう人間の情に根差した価値だと思います」というふうに答弁されてるんです。
私は、これ是非とも明文化してはっきりさせた方が逆に次回は入れるんじゃないかなと思いますけども、各参考人、子の利益についてどう考えるかお知らせをいただきたいと思います。
木村参考人
はい。何が子の利益かということについては、問題となってる制度ごとに違うのではないかと思います。
例えば、養育費の徴収については、確実に徴収して経済的に困窮しないこと、これは子の利益ですし、 親権、医療や教育についての決定については、その決定が適切に、かつ滞らずに行われること、これが子の利益ということになるでしょう。
先生がご指摘になった親子交流についても、やはりそこでは、またその交流の中身というものが重要になりますし、子どもが恐怖や不安を覚えないような面会が行われるということが子の利益となるということになるかと思います。
ですので、場面ごと、制度ごとに子の利益の内容は違ってくるし、その制度ごとに実現しようとしている子の利益は違ってくる。一つひとつの制度ごとに細かく見ていっていただきたいと思います。
木村教授に対する質疑は以上です。
誤字脱字や抜けがあったらすみません。