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黒猫脱走24時

トラブルメーカー、父来たる。

夏服では少し肌寒さを感じるようになったある日の朝、父が僕の家を訪ねてきた。
仕事で近くに来たから物資を届けに来たとのこと。
玄関で物資を受け取り、せっかく来てもらったからなんか話すかぐらいの気持ちで駐車場で父と話す。取り留めのない話に当然花が咲くわけもなく、10分も経たないうちに会話は終わりを迎え、僕は家の中へ戻ろうとした。

その時、父から突然話を振られる。

「いやー実は大変なことが起きちゃったんだよね。」

僕は足を止め、父の方に振り返り言葉を返した。

「どうしたの?」

父はこう言った。

「実はムギが家を出ちゃってと。」

ムギはオスの黒猫で、実家で飼っていたネコである。
やってくれたな。
僕はそう思った。

続けて訪ねた。どういう状況で、何時頃、どっち方面に逃げて行ったのか。

話を整理すると、ムギは2週間ほど前からマーキング行動が頻発していて、部屋がものすごい臭くなっていたと。
臭くなった部屋を掃除するために窓を開けて掃除をしていたら、窓から逃げてしまったらしい。
時刻は前日の16時頃ということだった。

そもそも去勢済みのオスネコのマーキング行動は聞いたことがなかったのでネットで調べてみると、マーキングの原因はいくつかあった。

  • マーキング行動が癖になっている

  • 匂いがついていて好きでやっている

  • トイレが気に食わない

  • 飼い主の注意をひくためにやっている

  • 不安やストレスが原因になっている

上3つは過去一度もしたことがないから、違う。
僕は下2つの原因が気になった。

ムギは超がつくほど甘えん坊である。
リビングに入ると必ず足元に来て挨拶をするし、後ろから人がついてきてくれることに喜びを感じるし、ご飯を食べる所を見ていて欲しいと鳴くし、とにかく、何をするにも誰かを巻き込みたい子である。

父は基本的に世話は最小限、水、餌、トイレを変えるだけ。猫の為に行動を変えることはない。むしろネコが人間の生活に合わせる必要がある。

「ちゃんとムギの気持ちに応えてた?」

僕が父に訪ねると、父からトンチンカンな答えが返ってきた。

「もちろんだよ、ムギは若年性の痴呆症かもしれない。ボケちゃったのかも。」

僕は脳の思考が一瞬止まった。

「この人は一体何を言っているんだろう。」

とりあえず父と話しても何も解決しないことが分かったので、急遽実家に帰って猫の捜索をすることを決めた。

ここからがようやく本題。黒猫脱走24時の始まりである。

黒猫脱走24時

家の用事を済ませて、実家に到着。時刻はおおよそ14時。
まず初めに行ったのは、玄関にチュールと煮干しとカリカリを置いておいた。後にこの行動は猫を保護する上でNGということを知る。

その後、30分ほどでチラシを作り、近隣住人に片っ端にピンポンをして事情を説明しながら見つけたら連絡をもらうように行って回った。
およそ家を中心に500m以内の家4,50軒には声をかけて回っただろうか。この行動も後にNGではないが、無駄ということを知る。

声掛け、ポスティングが終わった後は交番に遺失物届けを提出。
電話でも申請できるとのことで、結構ありがたいなと思った。

探偵事務所への電話。
埼玉を拠点に活動をしている名探偵キャッツという会社である。

完全成功報酬・TVメディア出演歴あり(というか見たことある。)

この辺りに安心感を覚え、予約をしようと電話をした。

窓口の人に電話をし、一通りの事情を説明すると、窓口の人からひとまず玄関の餌はすぐに戻してくださいと指示を受けた。
理由は、家の周辺をナワバリにしているネコが食べる可能性があり、もし仮に玄関で鉢合わせて喧嘩になった場合、家出ネコはより遠くに離れて帰って来れなくなってしまう可能性があるということだった。

そして、元野良猫だったので捜索範囲は広めた方がいいと考えていたが、元野良でも家の外にナワバリがなければ家から離れることはほぼ無いため、家の周辺に絞って良いというアドバイスもいただいた。

物心ついた時からネコが家にいたので、猫に関する知識はある方だと思っていたが、無知にも程があることを思い知らされた。

最後に、窓口の方からはすぐ向かうこともできるが、到着が夜になり、近隣住民に捜索で敷地内に入る許可を得ることができないため、明日捜索の方が保護できる確率は高い。そして、今の時点で予約することもできるが、営業時間を過ぎてしまうと、キャンセル料金がかかるので、順番の対応にはなるが、明日の朝イチ依頼の方が無駄になる可能性は少ないかもしれない。

という話をいただき、今日は自力で保護し、もし今日失敗したら明日朝イチに依頼することに決めた。

時刻は16:00。
ムギが脱走してから24時間が経過。
遅めの昼食と、仮眠を取る。

17:30
妻からLINE。
息子が熱を出し、車も無いから買い物にも行けずヘルプの連絡が入る。

18:00
一度実家を離れ、家へ向かう。

18:30、父からLINEが入る。

「ムギ発見‼️」

ひとまず安否を確認できて一安心。
玄関の扉を開けっぱにして待機しておくように指示をする。

19:00
妻に頼まれたものを手に帰宅。
息子の様子を見て、まだ熱は下がっていなかったが、息子は妻に託し再度実家へと向かう。

21:00
実家に到着。
ムギの捜索を再始動させる。

玄関に入ろうとするムギを発見。しかし、まだ遊び足りないとでも言わんばかりに家の中には入らず、再度逃走。
追いかけるも、裏の家の敷地に侵入し、追跡を断念。
裏の家の敷地周辺を重点的に捜索するもムギの姿は見えない。

22:00
もしかしたら家の中に入っているかもしれないと考え、家の中の捜索を開始しようと玄関に入り、玄関の扉を閉めた途端、階段からネコが降りる足音が聞こえて確信した。

「ムギーーーー!!」

「冒険楽しかったか。寒かったか。怖かったか。もう大丈夫だよ。」

とりあえずどんな感情かもわからないから思いつく限りの言葉をムギにかけた。

ムギが逃走して約30時間、無事家に帰ることができた。

ネコ好きユーザーが参加するSNSコミュニティ「ネコジルシ」でも迷い猫の登録をするところだった。

ムギは30時間の逃走でここまで痩せるのかというほど軽くなっており、脱走前からご飯をきちんと食べることができていたのかも怪しかった。

また、しきりに鳴き続けた。
その日は僕が寝る深夜2時ごろまでずっと鳴いていた。

そして、ずっと一緒に暮らしていた兄妹ネコのアズから威嚇をされ、目が合うだけで怒られる程ムギは嫌われた。
ずっと二匹で仲良くしていた為、アズがムギに威嚇している姿を見て少し切なくなった。

何はともあれ、ムギは無事家に帰ることができた。

翌日、方々にお礼挨拶をした。警察には遺失物届けの撤回を連絡した。
電話口で警察の方は「本当ですか!無事帰って来れたんですね〜!」とかなり喜んでいた。多分この人も猫好きなんだろうな。そう思った。

結局依頼をすることはしなかったが、名探偵キャッツに電話口でアドバイスをもらっていなければムギの保護は難しかった。

今まさに家出ネコがいる方は迷わずキャッツに電話してほしい。

ムギは今

ムギは今、実家で元気に、、、ではなく、僕の家に移り住むことになった。

理由は、父に任せられない。のもあるが、兄妹の仲が壊滅的に悪くなったことが一番の原因である。

父曰く、アズがキャットタワーから降りなくなり、ご飯も口にせず、日中水を飲んだりトイレをしている様子が無くなってしまったらしい。

おそらく、別の匂いがしたムギが戻ってきたことで、アズにとってアズとムギのナワバリが、別の猫のナワバリ(実際はムギだが。)になってしまったのではないかと考えている。

とにかく、このままではアズの健康状態に危険が及ぶ可能性があったので、急遽ムギを僕の家で育てることを決めた。

ムギとアズを離れ離れにすることは正直悲しい決断だと思ったが、離してみると意外にもアズは食欲が以前よりも旺盛になり、父と一緒に父と一緒に寝たりと、今までは全く見せなかった姿を見せるようになったらしい。

兄妹で仲良く最期までというのは人間のエゴ的な考え方で、猫には猫の幸せな環境というものがあるのかもしれない。

ムギはアズがいなくなったことで寂しい気持ちを感じているかもしれないが、その分僕と妻、息子の3人と一緒に暮らすことで寂しさを紛らすことはできている(かもしれない。)

最近は息子にも興味を示し出し、息子がギャン泣きしてても近くで寝ている。ある程度今の環境に慣れたのかもしれない。

一度脱走をして、感染症や、病気の心配もしたが、検査結果は全て陰性。血液検査もアルギニンが基準値より高く出たが、下痢などの症状もないし、医師からも問題ない旨を頂いているので、しばらくは安心だろう。



というわけで、黒猫脱走24時でした。
息子に続けて急遽家族が増えた我が家ですが、妻、息子、猫と愛情の矛先が3つに増えて何より。
3人と一匹家族をこれからもよろしくお願いいたします。

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