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吃音の相談先は、なぜ少ないのか
こんにちは、言語聴覚士のななさんです。
先日、このようなことをツイッターでつぶやきました。
吃音支援がいまとにかくやばいのだが、言語聴覚士はようやく児童発達支援に入りはじめたばかりという現状だな。発達障害は早期介入のシーンでそれなりの現場の支援者が充実しつつあり必ずしも言語聴覚士じゃなくてもいいんだけど、吃音はやっぱり言語聴覚士がやるべきだし、ほんとに整備されてない。
— ななさん|言語聴覚士 (@stkotori) August 20, 2020
すると、このような反響がありました。
STいるデイもあるが吃に詳しいか不明
— 啓発歌手バクテリア 8.29土14h大通公園6丁目まちなか音楽会 (@bacteria_8) August 21, 2020
吃に詳しいST少ないのが...
息子が行く児童精神科にもSTはいるがリッカムも知らない
から言友会に行きそこで教えてもらった吃に詳しいSTへ
札幌でもオススメ出来るSTいる病院は2ヶ所のみ
地方だとどうするのか
あとは小学校の言葉の教室
でも改善系ではないので... https://t.co/Q9xn6Fv8iF
この方が教えて下さったことは全部本当で、いま吃音の相談先が無くて困っている人が大勢います。
なんで吃音の相談先はないのでしょうか?
僭越ならが、一介の言語聴覚士(げんごちょうかくし)が考察してみます。
理由① 吃音が児童発達支援の対象から外れてしまっている
昨今、テレビやインターネットで「発達障害」ということばをたくさん耳にするようになりました。自閉症スペクトラム、注意欠陥多動障害、学習障害などを総称して「発達障害」と呼びます。
2012年に改定・一元化された「児童福祉法」という法律により、発達障害を持っていたり疑われたりする(支援が必要と判断された)お子さんが、受給者証というものを取得して少額負担で支援を受けられるようになりました。学齢児さんは放課後等デイサービス、幼児さんは児童発達支援事業所という福祉施設を利用できます。
この法制度を根拠に全国にたくさんの施設が開設され、従来では福祉支援の対象から漏れてしまっていた人たち(幼児さん、学齢児さん)に居場所ができました(施設や指導内容の質は、玉石混合との指摘もあります)。
しかし、吃音を持つお子さんは、通常この「児童福祉法」の受給者証の対象となりません。対象にしてはいけないと禁止されているわけではないと思いますが、放課後等デイサービスのほとんどは吃音のお子さんの受け入れを想定して設置されていません。
(※ 吃音は発達障害なのか?という議論はここでは割愛します)
理由② 言語聴覚士の就職先が吃音の相談を受け入れていない
吃音の専門家として、「言語聴覚士(げんごちょうかくし)」が存在します。言語聴覚士とは、スピーチ・セラピストのことで、理学療法士・作業療法士と並ぶ国家資格のひとつです。
必修カリキュラムには「吃音」がありますが、実は吃音の相談を仕事にしている人はほとんど居ません。なぜならば、主な就職先は病院と高齢者の福祉施設ですがそこでは吃音の相談を受け入れていません。
ここでも、法律上受け入れを禁止されているということは特にありませんが、多くの病院や医療福祉機関が吃音の人やお子さんの受け入れを想定し設置されていません(問い合わせが来たら断るとこも多いです)。
理由③ リッカムプログラムのワークショップの国内開催がとても少ない
幼児期吃音に有効性の高い、「リッカムプログラム」というものがあります。こちらは不定期〜年に1回、ワークショップを開催しており、受講することでライセンスを取得することができます。ただし、その定員はとても少なく(一度に受講できるのは50〜100名ほど)、受講者の募集を開始した当日に全ての枠が埋まりキャンセル待ちになってしまいます。ほかにも、3日間の連続受講が必要、参加費や交通費、宿泊費などを加味するとそれなりにお金がかかるなどの理由により、現在、ライセンス取得はとても狭き門となっています。
ライセンス取得者が一気に増えることは今後もしばらく難しいと思います。
理由④ DCMのマニュアルは英語
幼児期吃音の有効性が高いもうひとつの治療に、DCMというモデルがあります。このマニュアルはインターネット上で誰でも閲覧することができますが、すべて英語で書かれています。言語聴覚士になるためには英語科目の受験は必須ではないため、多くの人は英語で書かれた専門的な文章が読めません。なので、DCMについて学ぼうとする人は必然少なくなります。
理由⑤ フリーランスや個人開業で働く言語聴覚士が少ない
少なくとも制度上の理由(①と②)を解決する方法はあります。それは、言語聴覚士が個人でお客さんを取ることです。その場合、福祉や医療の制度を経由しないので高額にはなりますが、社会や制度が変わる・変えるのを待つ必要が無く、スピーディな解決策ではあります。
(※ 高額な治療費が払えない人は治療を受けられないという課題は残ります)
ですが、個人でお客さんを取ろうと活動する言語聴覚士はとても少なく、「高額でもいいから相談したい」という人の受け皿もありません。
実は、吃音臨床は言語聴覚士としての開業ととても相性がよいです。こう表現すると怒る人も居るかもしれませんが、ある意味"狙い目"です。でも、そこに気がついている言語聴覚士は、まだまだごくわずかしかいません。
吃音臨床には、どんなSTが向いているか
吃音臨床に向いているのは、どんな人でしょうか。自身や家族が吃音当事者の人でしょうか?社会を変えたいという熱い想いを持つ人でしょうか?
いいえ、そうした立派な動機は、必ずしも必要ではありません。向いているのは、「誰にも頼まれていないのに、勝手に始める人」です。
いまは、情報がそこらじゅうに転がっています。実は、吃音の臨床をするために必要な知識の獲得方法も、調べれば簡単に出てきます。ただし、誰も教えてはくれません。本当に大切な知識・実際に役に立つ知識を、待っているだけで誰かが優しく丁寧に教えにきてくれることはほとんど無いのです。
あなたの働く施設にも吃音の問い合わせがたくさん届いているはず。お断りした経験がある人もいるはず。
「協会が研修をしてくれれば始めるのに、わかりやすいテキストが出たらやれるのに、よい求人が出たらそこに行くのに・・・」と言っている人は、たぶん吃音臨床に向きません。業界が交通整理され、そうしたノウハウが綺麗に整備されるということは、誰にでも新規参入できるようになるということです。そこまで待ってから始めるのでしょうか?それとも・・・
というわけで、やたらと煽りっぽい記事を書いてみました。
吃音の人・お子さんの受け入れ先が増えるといいですよね。
切実にそう願います。
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