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《エッセイ》 机上に広げた宇宙地図

その1

 僕が住むこの町には、楽しいものが沢山ある。例えばウポポスモ、エアンドワルドとか。でもそれらの魅力を君たちに説明したところで、どこまで伝えられるだろうか?分からないので飛ばす。

 僕が住むこの町では、芸術がとても盛んだ。例えばアールルドカブ活動とか、ウツノマルだとか。町の至る所にあるんだけど、概念から説明したところで、君たちの常識で理解できるだうか?分からないので飛ばす。

 僕が住むこの町には、音楽がない。音楽ってなに?君たちに教えて欲しい。僕や僕が住むこの町に、音楽を知る人は居ない。
君たちが説明したところで、宇宙で理解できるだろうか?分からない。

 僕が住むこの町には、恋愛がない。子供を産む際に必要が無いから無い。僕の町の人たちは、雌雄の目と目をくっつけると結合した組織から子供ができる。
君たちが若干恥ずかしがりながら説明したところで、どこまで恥ずかしくなれるだろうか?分からない。

***

 今日は予備校(就労予備施設)で沢山学んだ。ナーダ(宇宙用自動車)の可動部分の仕組みの授業の第五回目で、この授業を全て理解すれば、材料さえ調達すればナーダの基礎部分が自分でも作れてしまうというとても役立つ授業だ。
 僕の夢はオポロアン(惑星の名前)よりもっと先まで充電なしで飛べるナーダを作ること。どうしてそれになりたいかというと、理由は特に無い。今よりもっと遠くまで行けたら、ナーダはもっと素敵になると思ったからだ。
 
 放課後は家で復習をする前に泉に寄ることにしている。泉で顔を洗うとスッキリしたような気分になる。だから今日もいつも通り顔を洗う。
 今日は泉がやけに臭い。ナーダの製造工場のような臭い。いいや、もっと悪い臭い。

 泉周辺を探していると、やけに木が燃えている場所がある。身体に燃え移らないように進むと、やはり、予想通りにナーダが燃えていた。これはもう修復不可能だろう。基礎の部分は原型を留めておらず、化学反応によりヨームル(オビル(ガソリンのようなもの)の製造過程で出る副産物。黒黒しい粘土のようなもの)状になっていた。勿体ない。これは工場の人を呼ぶしか無さそうだ。
 僕がヨームルが広がらないように近くにあったヌル(この世界の木の葉っぱ。木はヌメルと言うが、混乱しないようにこれ以降は木、木の葉っぱと記載する)を必死で被せていると、隣からなんだかぼそぼそと聞こえる。

「なに…してるの…わた…わたしの…く、くるま…」
 
 声の主の方を見ると、なんだか面白い形をした生き物がいた。見た目は僕らに似ているが、なんだか僕らよりパーツが細かい気がする。もしかして、新種のルル(ここでいうイヌのような生き物)かも?いや、似てない。なんなら僕らの方が可動部分とかがとても似ている。
 
 「大丈夫ですか?生きてますか?」
 反応は無い
 「死んじゃったかー。」
 残念だ。どうしてここまでナーダをボロボロにできるのか知りたかった。50年前のモノならともかく、今のナーダの耐久性は、余程の危険地帯にでも行かない限りここまで破損はしないのだ。もし破損の原因が分かったら、これからのナーダの研究に生かせただろう。

 「た、助け…助けて…し、しんで、無いか…ら…」
 
 「おお。良かった。じゃあ教えて欲しいんだけど、どうしてここまでナーダをボロボロにできたんだい?あと君は僕らとは身体が違うけど何者?どこから来たの?ほら、立ちなよ。」

 僕が急かしたのが気に入らなかったのかその生き物は、なんだか敵意の視線を向けて、身体を震わせながら叫んだ。

 「助け!!を!、…呼ん…で!!、!…」

  どうやら自分のことで必死らしい。
 
「うーん。分かったよ。君、なんだか助けがないと喋ってくれなさそうだし。呼ぶよ。アノソス(何でも屋のこと)でいい?」

 「なんでも…だ、誰でも…いい…は、早く…」

 アノソスを呼んだ。
 しばらく経ったあと、アノソスがゆらゆらとナーダを揺らしながらその生き物の救助に当たった。

 僕はその生き物からゆっくり話を聞きたいと思った。だからナーダに積み込まれる直前、住所を書いたメモを渡した。

 「こ、これじゃ…読めな…い…」

 読めない?どうしてだろう。もしかして、基礎教育課程を修了していないのだろうか。
 
 「じゃああとでアノソスの方に聞いてみて。そうすれば分かるから。」

 「う、ぁ…へ…た…」
 『…へ…た…』?なにか言おうとしていたらしいが、アノソスの迅速な運搬のおかげで言い切る前にナーダのドアが閉まった。

 
 

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