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机上に広げた宇宙地図 ②

その2

  なんだか不思議な体験をした。そのせいなのか、帰途に着く僕は何故か胸の当たりが気持ち悪くなってしまい、何故か住まいとは真逆の方向へとフラフラ何回転しながら歩いていた。回転するさなか、頭の中で映像が流れる

「なに…してるの…わた…わたしの…く、くるま…」
 不思議な響きだった。
 僕がその映像を1度流す度に右足が

「なに…してるの…わた…わたしの…く、くるま…」
2度流せば左足が

「なに…してるの…わた…わたしの…く、くるま…」
 3回目には両手を勢い良く上へ突き上げていた。

 すごい。なんだこの状態は!!

  もうその状態が癖になってきてしまって、今現在まで僕はフラフラと突き上げた両手を揺らしながら予備校に行き、家に帰るという行動を取っていた。
 予備校では教員に若干注意された。だが辞められないものはしょうがないでは無いか。僕はこの行動を取らないと、手足が痙攣するようになってしまったのだ。事情を説明すると教員は納得し、予備校始まって以来の、両手を突き上げてふらふらする事を許可された生徒となった。

 帰り道、僕はいつも通りフラフラと帰途についた。今日もまた、あり得ないくらいの遠回りをして家に帰る。だが、そのせいで昨日は住まいについたのが夕方の光浴(ここ一帯にある風習。特殊なライトを浴びる。風呂的な役割を果たす)の時間の後で、寮長さんに、次光浴に遅れたらペナルティを貸すと言われてしまった。
 記載し忘れたが、僕の住まいは寮なのだ。ここらの学生達は普通に家庭があり、それぞれの住まいがあるのだが、僕は元いたの住まいの近くでいざこざがあり、今は家族バラバラで生活している。でも特に不便はない。なんなら前よりも予備校までの通学時間が減ったので、ギリギリまで栄養を使うことがなくむしろ便利になったと思っているくらいだ。

 よし、やるぞ!→

 まずは右足を出す
 あの生物の姿が見える

 次は左足を出す
 あの生物は口を開くような仕草をする

 両手を突き上げる

 「これ、どこですか」

 目の前の生物は僕に向かって紙を差し出した。僕が書いた紙だった。
 しょうがなくそれを受け取り、
 「ここら辺ですね。案内しますよ」
 と、あの生物を寮の談話室に案内した。

 「ありがとうございました。」
 生物は唐突に頭を振り下ろしてしゃがむ寸前のような体制をした。
 一瞬戸惑ったが、
  「それじゃ、話を聞くとしようか」
 生物は、急に僕が知ったような口を聞いたので慌てていた。
 「君のやけに燃え広がるナーダに応急処置をしたのは僕だ。名前はベンチ。ヤエ工業専門予備校の3年生。今日は来てくれてありがとう。」
 「え、あ、はい。」
 この前の必死で助けを求める時が嘘みたいに声が小さい。あと言葉も聞き取りづらい。
 「君は?」
 「え、と…」
 何か「あ」とか「う、お」とか聞きづらい言葉を発し始めた。もしかしたら、この生き物の独自の言語なのかもしれない。
 それにしても、明らかに違う生物という事はヘルメットを外した姿だと、余計に目立った。この生き物は、頭に変な触手のようなものが大量についており、それらが群れを成して中々面白い形になっている。これはなんだ?僕の知識が浅いだけで、このような知能を持った特殊な生物がいるのかもしれない。
 しばらく独自の言語を発していた生物は、急に顔を上げた。
 「わ!分からないでず!覚えでないっ!ですつ。」
 と、急に大声を出した。
 威嚇したのかと思い少し身構えたが、恐らく声を出す事が久しぶりなのだろうか。文章が少々不自由そうだった。
 目の前の生物は目を見開きながら続ける
 「わ!たしは、トヨタの!トヨタ。トヨタ…の、お、う、ん…?……です。…あ!なたは、もしか、して、ヒト、では、ないのですか?あ、も、しかして、映画で見た…遠くどこかの、知らない、生命体の住む星なの、ですか?」
 「ヒト。」
 ヒト…図鑑で読んだことがある。僕たちの祖先説も囁かれている生物で、とっくの昔に絶滅したんだとか。
 「いや、知らないね。ていうか、ヒトってもう絶滅してるじゃないの?」
 「え!…え!…え!」
 僕の言葉を聞くなり、生物は表情筋をぐちゃぐちゃに動かし始めた。
 「あー!!!!わあ!!!あ!!!ああ!あ!あーー!!」
 「え、ちょっと、どうしたの」
 「うあ、あー!!!ぁあ!!!あー!!」
 生物は目から保護液(涙のこと)をだらだらと垂れ流し、頭の触手を手で掻き乱し、ひたすら叫んだ。僕が落ち着かせようとしても、興奮状態で叫び続けた。
 これでは寮中に響き渡ってしまっているので、僕はペナルティを回避するためにもこの生物を外に連れ出す必要があった。だが興奮状態の生物は力強く、全く動いてくれず、引っ張ろうとしてもやたら重量があり、僕では無理だった。
 しょうがない。
 僕はアノソスを呼んだ。


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