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『のけもの』振り返り(画像とともに)

さて、今作からnoteに手を出し、作品に関するあれこれに触れてまいりましたので、振り返りの記事をポストしておこうと思います。(使用している画像は、ナントカ世代の過去公演に掲載しているものと同じものです。)
※ 文責は脚本と演出を担当しました北島です。思いつくままの乱筆、ご了承ください。

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舞台上に敷き広げた都市計画地図。劇場で廃棄したためもう手元にはありません。

4年ぶりの新作でした。

最後に新作を上演したのが「スズキスズオの~」だったので、実に4年ぶりの新作の上演となりました。なぜ4年も沈黙していたかについては、まあお察しくださいとしか申しません。
今年に入って、ナントカ世代が重い腰をやっとこ上げて動き出しまして、3月に岸田國士の『紙風船』を原作に忠実にやってみるという超席数僅少で1日限りの公演7月には原作シリーズの原点を振り返ると嘯きながら新たなメンバーとのお試しクリエイション的な『粗忽長屋』(完全版)を上演して、11月に新作『のけもの』の発表と相成りました。

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7月『粗忽長屋』から参戦の土肥さん。高校生時代からのナントカウォッチャーという変態さん。

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今年、10年以上ぶりにナントカ世代に出演した勝二さん。

7月『粗忽長屋』→11月『のけもの』という流れはちょっと過酷でした。

半分愚痴です。
7月に『粗忽長屋』を改訂再演した後、戯曲を起こしながら諸所の手配などを進めて、9月からワークショップ的に稽古を開始し戯曲も同時執筆、10月には本格的に稽古しながら本番への準備、11月にたった3日の劇場入り(うち、2日は本番)というスケジュールは、「若さ」という名のカンフル剤をほぼ失った我々にはちょっと過酷でガス欠しながら走っていました。

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「若さ」の定義を20代までとすれば、該当するのは永榮さんと土肥さん。

しかも、針の穴を通すようなスケジューリングでした。

スケジュールの愚痴ばかりで恐れ入ります。
我々は基本的には稼業(ワーク)を持ちながら、家庭での子育てや地域活動などの生活(ライフ)もこなしながら演劇(アート)の製作にも携わろうとしている連中です。ワーク・ライフ・アート・バランスなどとテキトーなことを申し上げたことも過去にはありますが、皆さん忙しいために何しろ稽古に人が集まりにくく、針の穴を通すような稽古スケジュールの調整となりました。これに加えて、突発的な残業や家庭の事情による稽古キャンセルなどが発生する、ものすごくシビアなスケジューリングとなりました。
今回、金田一くんが東京在住のため合流が直前になりましたが、それを抜きにしても、
○金田一くん合流前に金田一くん以外の7人が全員稽古場に集まったこと:0回。
○金田一くん合流後に出演者8人全員が出揃ったこと:本番前のリハーサル日(11/1)のみ1回

という状況。

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金田一くんは本番3日前からの合流でした。

そんな事情も踏まえた脚本の構成でした。

『のけもの』はこれまで大体1幕か2幕ものが中心だったナントカ世代としては珍しく5幕に渡る物語でした。リピーターの方からも「話の筋がある」、「分かりやすい」作品だったとの声を承っています。
原作を踏まえてそういう幕切れのある作品を作りたかったというのが7割です。残りの3割は、おそらく、前述の厳しいスケジューリングが分かっていたので、メインの2.5人(延命さん、土肥さん、+永榮さん)とその他の人たち、という構成を取ることで、いわゆる抜き稽古(一部分を抜いた稽古)を中心に作れるようにと、打算的な構成も入っていたような気がします。
「おそらく」と申しますのは、鶏が先か卵が先かみたいな話で、そういう話ありきで信頼できるけれど忙しい俳優に声を掛けたと言うところもあるからです。(←分かりにくいので一読して「?」となれば読み飛ばしてくださいませ)

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信頼と実績の真野さん。彼女の場合は仕事と育児の関係から稽古は最大8回の参加という予定でお願いをしました。

実は、ナントカ世代好きな方(リピーター)にどうご覧いただけたのか、今でも不安です。

自縄自縛のようなところもありますが、ナントカ世代らしさ、という方法論があります。あると思っています、作り手側としては。
が、『のけもの』では、先の5幕構成もそうですが、これに加えて、目に見えるナントカ世代らしさというのは、意図的にですが結構捨てました。具体的には、微妙な文節を意識しすぎない、スズキスズオの不在、俳優による言い換え(事前許可)を認める、音程を強く指定しない、あたりが今回の捨てた結果の特徴でしょうか。捨てていない「らしさ」も結構あるので何とも言えませんが、感覚的には“捨てた部分が多いな”という感じです。
一つひとつに捨てる理屈と勝算はあってのものですが、細かく解説はいたしません。ただ、これによって目に見えるナントカらしさの不足を不満に思われたらどうしよう、とも考えながら稽古していて、それは今なお不安です。幸いにして「失望しました」みたいなリアクションはこれまでのところ頂戴していないので、こっそり安心はしているのですが。

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ただし、存在するだけでミス・ナントカ世代らしさが出る延命さん。

金田一くんは最初からそういう(クズという)使い方をするつもりで東京から呼び寄せました。

やはり、今回の作品で異彩というか腐臭というか、色々な意味でそういう「何か」を放っていたのは金田一くんです。彼は「クズ」というキャラクターでテレビ等で採り上げられたこともありますし、友人として彼のクズエピソードも知っているし目の当たりにしたこともあります。
で、今回は簡単に言うと「クズの母子の話」をやるに当たり、最初から彼には「あなたと全然違うクズの話書くけど、でもクズとして出て」というお願いを差し上げました。それがなぜかは省略しますが、反響が多かったので、この部分は書き残しておきたいと思います。
誤用されている意味での「確信犯」という意味ですが、果たして本当の意味での「確信犯」になったかも知れません。

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左のクズと右のクズ。同じクズなら笑わにゃソンソン

母子へのまなざしを面白がっていました。

金田一くんは大久保佳代子さんに「久々にこんなクズ見た!」となじられたそうですが、本を書いていて、あるいは稽古場で演出をしていて、果たしてお客様にとってこの母子は「こんなクズ見たことねぇ!」になるのか、「まだまだこんなクズじゃモノ足りねえ!」になるのか、どちらかに分かれるんだろうなぁ、分かれてくれたら良いなぁ、と思っていました。
どうやら前者の方が多かったようですが、後者を望む方もいらっしゃいまして、そのあたりはニヤニヤ受け止めていました。ここからは勝手な推測と暴言に近いものですが、前者の感想を持つ方はとても優しい共感力のある方、後者の感想を持つ方はすごく冷静で妄想力のある方なのではないかと、なぜだかそう思います。

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母子(まだ余裕のあるとき)。

最後の一言が怖かったです。

最後の最後になって、何を思ったのか子が「ちゃんと生きたい」という一言を残すのですが、これがどのように捉えられるのかが、正直、怖かったです。いわゆる“終わらせるための言葉”ですが、そもそもそれを提示するのもあんまり好きではないし、むしろ提示せずに終わらせる方が多いのですが。それでも、これは置いておいた方が逆に捉え方に幅がでるのではないかと、削らずに土肥さんに口に出していただきました。
いや、実際にはどう捉えていただいても、果たして何とも思わないでスルーしていただいても結構なのです。ただ、「いや、ムリやし。」と心の中でツッコミを入れる方と、子の前向きな人生やりなおす宣言と受け止める方と、実際にどのような割合になったのかは知りようもありませんが、個人的には前者が8割、後者が1割、それ以外が1割みたいな感じだったら嬉しいなぁ、と思っていました。

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子の最後の一言を引き出す進行役の永榮さん。

もしかして、私、ブレヒト好きなんじゃないかと公演が終わった後にふと思いました。

いつもは置かない「進行」の役どころとか、金田一くんの使い方とか。
でも、じゃあと思い返してブレヒトの戯曲をさらっと読んだら、「んん、やっぱり苦手だわ。」と思いましたので、きっと気のせいです。そうに決まっています。

個人的なこだわりは法律関係です。

今回はお金の貸し借り、つまり、金銭消費貸借契約の話でした。
母子は金銭を弁済するという債務を放棄して逃げ切ろうとする訳ですが、そうすると、民法と貸金業法、利息制限法あたりの法律が絡んできます。さらに、これに訴訟や強制執行が絡みますので、裁判所法や執行官法、民事訴訟法に民事執行法などもあります。その他にも訴訟手続や身分に関しては結構山のように関連する法律があるのですが、これ、誰かそろそろ系統立ててまとめていただけませんかね?
で、もちろん、松野さんが演じたようなぶっとんだ執行官などは(たぶん)いませんし、そもそもあんなに若い執行官など聞き及んだことはないです。また、金貸しを演じた御厨さんも、劇中でやってることはサラ金としては結構ぎりぎり(今どきのサラ金にはものすごく法的な縛りがあり無茶はできません)なところもあるのですが、劇中で出てきた法令関連の発言は、あえて泣く泣く無視した部分はありますが、結構正確な知識に基づいています。
これは私の稼業とも関係しますが、まぁそんな誰も気づかないし気づかないでよいところを無駄にこだわって稽古場で自慢するというのがひそかな楽しみでした。それくらいしか楽しみってないのよ。許してよ、俳優たち。

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一応サラ金(闇金ではない)設定の金貸しを演じた御厨さん。

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今回、出色のデキだったと思っている松野さん。執行官の役。

全然まとまっていないが、終わります。

振り返り、ということですので振り返りましたが、ただ思いつくままに気になるところを振り返っただけなので、この記事を見ても何のことだか分かりません。まぁ、お芝居なんて現場で目撃しなければ毛ほどの価値もないわけで、見た方で興味のある方に覗いていただければ幸いです。
ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。

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皆さん、明日からでも良いからちゃんと働こうね!

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