エジプトでパスポートを紛失してから日本に帰るまでの話③
2024/1/1(月) ルクソール
パスポート紛失から1日目(後半)
思いがけない人物との遭遇
ツーリストポリスへの道中,思いがけない人物と遭遇した。
昨日,ルクソール空港から宿まで送ってくれたタクシードライバーがいたのだ。
正直なところ,昨日の押し問答の際に,カバンからパスポートをすられたに違いないと勘繰っていたので,もしかしたら彼からパスポートを取り返せるかもしれないと,淡い期待を抱く。
「おお,昨日の日本人じゃないか。タクシーに乗らないか?」
「今日は乗らない。それよりも俺のパスポートを知らない? あの後にパスポートを無くしたんだ」
「本当か!? 車の中を一緒に探そう」
と,昨日乗った車の中を一緒に探してくれた。その時の本当に心配する表情や行動から,すられた訳ではないのかもしれないと思った。
結局,車の中を探しても見つからなかった。また振り出しに戻った気持ちであった。
やっぱりポリスは大変
ツーリストポリスはポリスステーションとは違い,人が5人ぐらい入ると満室になるぐらいこじんまりした建物であった。
壁一面に書類が入った棚が並んでおり,これらはポリスレポートかもしれない,と期待に胸が膨らむ。
再び事の経緯を警察官に説明し,ポリスレポートが欲しいことを説明する。「俺に任せろ」と言わんばかりに,書類の作成や関係者への電話などを進めてくれた。出口の見えなかったポリスレポート入手に,光明が見え出した。
しかし,友だちが多いのか,エジプト人が次から次へと現れては担当の警察官とハグをしては立ち話が続き,スムーズに事が進まない。
忘れられないだろうかと不安になり,Google翻訳でポリスレポートが必要なことを念押しする。
すると,心配するなと言わんばかりに,書類の制作を進めてくれた。パスポートを紛失して学んだことの一つとして,厚かましいぐらい主張しないと優先度を上げて対応してもらえないことである。
パスポートの紛失場所を聞かれ,おそらくカイロ空港からルクソール空港の間か,ルクソール空港からホテルでのシャトルタクシーの中だと思うと説明すると,警察官から「どこのホテルだ?」と聞かれ,ハッピーランドホテルと答える。
すると,警察官がどこかに電話をし始めた。アラビア語で何を言っているかわからなかったが,おそらくホテルに確認を取っているのだろう。
話し終えると「後でホテルのタクシードライバーが来るから」と一言。勘弁してほしいと思う。そのタクシードライバーを呼び出しても,お互い初めましてだからだ。
すると,ものの15分ぐらいで本来乗るべきだったタクシードライバーが現れた。ドライバーは明らかに不服そうであった。当たり前だ,全く身に覚えのない日本人がパスポートをなくして,あらぬ容疑をかけられているのだから。
ただ,どうやらポリスレポートを作成するには,事件と関わりのある人物と合意を得たうえで作成しなくてはならないようだ。そのため,自分が英語,ドライバーがアラビア語で,ポリスレポートの作成を進める。
ポリスレポートが完成すると,「Don’t lose it!」とタクシードライバーは吐き捨てて,消えていった。散々である。
エジプト人のパスポートを作るか?
宿に戻ると,スタッフから「君がパスポートをなくした日本人か? 警察官から電話があったぞ。大丈夫か?」と心配してくれた。
スタッフの1人が,自分の乗った航空会社に電話で聞いてくれた。だが電話は10分以上保留となって繋がらず,結局のところ何の情報も得ることができなかった。
ただ,彼らのその行動だけでとても嬉しかった。自分は会ったばかりの知らない外国人にこんなにも親切にできるだろうか。
そんなことを思っていると,スカーフをおしゃれに巻く宿の長身のオーナーから「君のエジプト人のパスポートを作ってやるから,それで帰ったらどうだ?」と真顔で言う。それは勘弁して欲しいと思い,「I am Japanese!」と返すと,「ハハハ,冗談だよ」と笑っていたが,その目はまったく笑っていなかった。
部屋に戻ると,どっと疲れが溢れ出てきた。ポリスレポートを入手するまでの経過や,いつになったら日本に帰れるのだろうかと精神的にもまいっており,そのまま布団に潜り込んだ。時刻はまだ16時であった。
宿での夜
目が覚めると宿泊者も帰ってきており,ホテルは賑わいを見せ出していた。1人で眠り込んでいても仕方ないと思い,宿泊客が集まる屋上へと姿を見せた。
宿泊客は,今日行った遺跡や神殿,食べたご飯や今後の予定などで盛り上がっていた。羨ましい…,パスポートを無くさなかった世界線がそこには広がっていた。
そんなことを思っていると,ある宿泊者から「高木さんは,今日どこに行かれましたか?」と聞かれ,正直に「パスポートを無くしたので,警察署をまわりました…」と,さっきまでの会話の盛り上がりは一気に冷め,「それは散々でしたね…」と,自分の慰め会みたいになった。
みんなの楽しい会話に水を差してしまい「申し訳ない」の一言である。自分がいることで場を盛り下げるなと思い,いそいそと自分の部屋に戻った。
そして,自分にはもう一つしなければならないことがあった。それは,両親にパスポートを紛失した事実をカミングアウトし,戸籍謄本の入手に協力してもらうことだ。
本来は昨日連絡しても良かったのだが,もしかしたらパスポートが見つかるかもしれないと淡い期待を抱いていた。が,今日の一連の探索活動からその望みも消えた。
親に余計な心配させるなぁ,と思いながらパスポートを紛失したこと,戸籍謄本の入手に協力してもらいたいことをラインで送り,どうか協力してくれますようにと祈りながら,そのまま眠りについた。
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