トルコで絨毯詐欺にあった話③
「会社はカフェからとても近いよ」
Oさんは、僕らを会社まで案内してくれた。Oさんの会社は大通りから、一本細い道に入ると見えた。3階建ての黒を基調としたシックな外装である。
立派な会社だと思っていると、日本人2人組が大きな袋を抱え、会社から出てきた。
海外で日本人に会うと、話しかけたくなる。どこから来たんですかと彼らに聞くと、彼らは一橋大学の学生で、トルコ絨毯を買いにここを訪れたそう。
大きな袋の中身は絨毯なんだな。一橋の学生がわざわざ日本から絨毯を買いに、この会社に来るなんて、評判高い会社のようだ。Oさんが勤める会社は、すごい会社なのかもしれない。
彼らに別れを告げ、店内に入るとトルコ人の従業員が2人出迎えてくれた。1人はこの会社で5年働いているベテラン。過去には一橋大学に留学経験もあるのだとか。さっき一橋の学生が来て驚いたよと微笑む。もう一人は新人で、接客などはせず上司のサポートをしている。
店内には来客用のソファーが置かれ、壁には絨毯が飾ってある。
「私の会社では主に絨毯を扱っているんだ。販売だけでなく、日本の大手家具メーカーにも卸しているよ。」
そういってOさんは、僕たちを2階に案内してくれた。2階にも絨毯が飾られ、ところせましと絨毯が置かれている。30歳ぐらいの日本人夫婦が絨毯を物色している。
Oさんは僕たちをソファーへ腰かけ、ザクロティーを準備しにいくと言い、1階へ降りていった。
店内を見まわすと、防犯カメラが何台も設置されていることに気づいた。高価な絨毯だから、防犯対策はしっかりしているのだろう。
1階からOさんがザクロティーを持ち、戻ってきた。Oさんと僕ら4人で、乾杯する。
ザクロティーはさっぱりとした味わいでとても飲みやすい。
Oさんと僕たちはザクロティー片手に、楽しい時間を過ごす。Oさんと話をしていると、3階から松葉づえをつきながら降りてくる人がいた。その人は覚束ない足取りで、一階の方へ向かっていく。
3階には何があるのだろうか。
「3階には何があるのですか?」
「3階は社長室となっているよ」
さっきの人は社長とはどのような関係なのか。
そう思っていると、3階から誰か降りてきた。
身長180cmほど、髪形はオールバック、白いYシャツにスラックスを履き、腕には高級時計。堂々たる様子に、社長だと一瞬で理解した。
「社長お疲れ様です。この子達は日本の学生で、さっき知り合ったんです」
「僕は社長のUです。よろしく」
そういって僕たち4人と握手を交わした。さらに名刺ケースを取り出して、名刺をいただく。名刺には「ART HOUSE CEO U○○○ M○○○」と書かれている。
「社長が出てくるなんてめったにないよ。君たちはとても幸運だ」
日本に絨毯を卸しており、優秀な従業員を取りまとめている社長に出会えたことは、運がいい。
「私は、悲しい気持ちなんだ。さっき松葉づえをついていた人を見なかったかい。彼は最近、不慮の事故で足を悪くしたそうで今後もよくなる見通しはない。それを聞いてとても悲しくなってね。こんな悲しいときはお酒を飲みたくなるんだ。せっかくだから、みんなでお酒を飲まないか?」
社長がどのような人生を歩んでいたのか興味深く、現地の人とお酒を飲める機会はそうそうない。
僕たちは「ぜひ」と言い、3階の方に上がっていく。
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