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猫の機嫌と読書
「本とか読まない人だと思っていました」
仕事で出入りしている医療機関には20程の医療情報システムが導入されていて私はそれらの統括を任されている。
定期的にシステムメンテナンスを実施するのだが、つい先日それがあって導入メーカーからシステムエンジニアが来院して一緒に立ち合い作業をすることになっていた。
名前をT君としよう。
このT君は以前にも別の医療機関で長期間作業を共にした経緯もあって、手が空くと適当に雑談をするくらいには知人だ。
メンテナンスと言っても手作業で何かする訳ではなく、サーバにプログラムを流してそれが完了すれば終わるような機械的なものだ。
以前に比べると手間がかからなくて随分楽になった。
正常に進行しているか、時間内に完了できるか等の目視での確認事項がいくつかあることと、不測の事態が起きた際すぐにリカバリーできるように立ち会うことにしている。
作業はいつも夕方以降から行うので時間になるまで残務をしながら作業室に控えていることが多いけれど、この日は持参していた本を読むことにした。
そして冒頭の言葉に繋がる。
「しかもWebじゃなくて本なんですね」
ひどく珍しいものでも見つけたようにこちらを見る。
紙媒体派だと告げると
「いやいや嘘でしょ」
……心外である。
「締切りに間に合わないからって論文の内職してたのいつでしたっけ?読み書き嫌いでしたよね」
それは人違いで読むのが嫌いと言った覚えはない。
やはり心外である。
私は書くことは苦手だが本は好んでよく読む。
場所を取るので電子書籍も試してみたが、どういう訳か私は読んだ気にならず本屋で同じ本を買い直す羽目になった。
やはり紙媒体の本がいい。
家の本棚には気に入って手元に残している本が隙間なく並んでいて、そこに入りきらなくなると近くのクリニックの待合に寄付させて貰っている。
そのクリニックの先生も本好きで患者さんに貸し出しをしているのだ。
この時期になると読み返したくなる本がある。
『夏の庭』
ご存じの方がいるだろうか。
私はこれまで通算4冊、この本を買っている。
上京していた頃に1冊目を購入し、それを知人に貸してそのまま知人ごと行方知れずになったため2冊目を買い直し、引越しの際に自分で紛失し改めて買った3冊目が家の本棚に並んでいる。
友人から『子供の夏休みの読書本を選んで欲しい』と頼まれてこの本を贈ったのが4冊目だ。
こうして書いてみると手元に置くことに執着しているようでなかなか面白い。
それくらい何度も読み返している本のひとつだ。
「プログラミングばっかりしてるから文化的なことは興味ないイメージでした。いつも温度低いし何にも無関心ぽいですよね」
面と向かって悪口を聞かされているのかと錯覚しそうになる。いや実際悪口だったのだろうか。何より清々しいほどに声がでかい。
プログラミングばかりしている訳じゃないのだけれど、そもそもプログラミングが仕事の彼には言われたくないとも思う。
先に書いたシステム統括の他にも業務をしているが、職務内容の大半が守秘義務だらけで話題にできるようなものがないためパソコンしかしていない人に見えても仕方ないと言えばそうかもしれない。
人が持つ印象の話なのでいちいち咎めるのも妙だが、何となくひとでなしのようにしばしば誤解をされがちではある。その辺については自分でも改めたいと最近強く思っている。
幾つになっても人生の課題は続く。
機械のように修正プログラムで解決できないのが残念だ。
T君にお薦めの本は何かと問われたので今回も夏の庭を紹介した。
きっと彼は読まないだろうけど。
そんなことより、どんなことより
最近忙しくしていたせいで留守番が多かった家猫の機嫌が悪い。
名前を呼んでもシカトする(笑)
せめて家猫の機嫌くらいは上手く取れるようになりたい。