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金木犀◇追懐③

金木犀が香る時期になった。
我が家の近所には大きな金木犀の木がいくつもあるので、窓を開けていると家中にその香りが届く。

亡き母が好きだった香りだ。
毎年楽しみにしていたので何か特別な思い出があったのかもしれない。

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今年の春に閉館した商業施設の駐車場にも金木犀が植栽されていて、先日その駐車場を利用した時に香りを辿ってうろついて背の低い金木犀を見つけた。
(近隣の本屋や調剤薬局、クリーニング店に駐車場を開放してあるので不法侵入ではないことをお伝えしたい。)

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ここは母とも何度も訪れた場所だ。
特別な出来事はない、ただの日常生活の、なんてことのない記憶が思い返されて鼻の奥がツンとした。
去年だったら間違いなく大泣きしていただろう。

誰からも手入れされなくても時期が来れば花は咲くし、時期が過ぎればどんなに手入れをしていても散ってゆく。
儚いけれど、何より強い。
人である私も負けていられないなと思う。

『えへへ』
そうやって笑う、母の柔らかな笑顔を思い出して私の口元もほんの少し緩んだ。