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ひとりごと

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日記のようなものや思い出を綴っています
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金木犀◇追懐③

金木犀◇追懐③

金木犀が香る時期になった。
我が家の近所には大きな金木犀の木がいくつもあるので、窓を開けていると家中にその香りが届く。

亡き母が好きだった香りだ。
毎年楽しみにしていたので何か特別な思い出があったのかもしれない。

今年の春に閉館した商業施設の駐車場にも金木犀が植栽されていて、先日その駐車場を利用した時に香りを辿ってうろついて背の低い金木犀を見つけた。
(近隣の本屋や調剤薬局、クリーニング店に駐

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大切な人を想う◇追懐②

大切な人を想う◇追懐②

私は母ひとり子ひとりの母子家庭で育った。父親には一度も会ったことがないので顔も知らない。
そのことを不幸だと思ったことはなくて、居ないものをねだるような子供ではなかった(そんな頃から冷ややかな性格だったのかもしれない)。
母と私は親子であって親友でもあって、私が大人になるにつれて少し頼りない母は時々、妹のような存在でもあった。
子供の頃は母方の祖父母と4人暮らしで、祖父は父親代わりをしてくれていた

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母の初盆と私の記憶◇追懐①

母の初盆と私の記憶◇追懐①

2021年8月12日
昨年9月に逝去した実母の初盆法要だったので仕事は今日から盆休みを取っている。
前日から祭壇の準備をしていたのだが回転灯の組み立て書がその役割を全く果たしていないことが何だか可笑しくて、独り言を言いながら2対の回転灯を組み立てた。
今回初めて盆提灯の回転灯を購入したのだけれど、電球の熱を利用して円状のフィルムが回転すると言う仕組みになっていて小学校の頃の理科の授業を思い出した。

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わたしのひとりごと

わたしのひとりごと

この1年半程続くコロナ禍で様々な言葉を造語も含めて耳にする機会が多かった。
3密
ソーシャルディスタンス
クラスター
新しい生活様式
PCR検査

ワクチン接種が進むと基礎疾患の有無と言う言葉が飛び交うようになる。

私はこの基礎疾患持ちの人生だ。
確定診断がついたのは13歳だったか。
全身性エリテマトーデス(SLEとかエリテマと略される)と共存して現在に至る。
自己免疫疾患なので誰かにうつすこと

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猫の機嫌と読書

猫の機嫌と読書

「本とか読まない人だと思っていました」

仕事で出入りしている医療機関には20程の医療情報システムが導入されていて私はそれらの統括を任されている。
定期的にシステムメンテナンスを実施するのだが、つい先日それがあって導入メーカーからシステムエンジニアが来院して一緒に立ち合い作業をすることになっていた。
名前をT君としよう。
このT君は以前にも別の医療機関で長期間作業を共にした経緯もあって、手が空くと

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母の胡蝶蘭

母の胡蝶蘭

昨年9月。
実母の葬儀の折、祭壇に供えた胡蝶蘭は自宅で大事に世話をした甲斐あって全ての花が散ったのは今年に入ってからなので随分長く一緒に過ごした。

愛着もあって花が過ぎてからも粗末に扱う気になれず、その後の管理方法をネットで調べて教えを乞う。
ググると大抵の困り事は解決するから便利な世の中だ。
胡蝶蘭のプロの教え通りに枝の処理をしてみたが『…と言う管理をすると芽が出ることもあります』と言う書き方

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連鎖

連鎖

深読みも不要なほど真っすぐ届く言葉に嘘は隠れていない。
何気なく添えられた一言が、ささくれた心を潤してくれることがある。
用意された定型文ではないから、余計に響いて届くのだろう。
何かにつけて優劣が競われる世知辛い世間にあって、巡り合わせのように幸福な出来事に遭遇すると自分も誰かに何かできないかと、おこがましくも思ったりする。

誰も傷ついたりしない幸福の連鎖。
そう言う連鎖が続くといい。
そして

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ある日の戯言

ある日の戯言

新年度が始まった。
仕事が立て込んでいて、ここ三週間ほどは激務が続いた。
「忙しい」と口にするのはあまり好きではないけれど、日にちと時間の感覚が怪しくなって、かろうじて曜日だけ認識しながら仕事以外では人として最低限の役割をギリギリ果たす日々だったので、来年の同じ時期の戒めとして書いておきたい。

とんでもなく忙しかった。

4月1日は、仕事で出入りしている医療機関でも新卒の看護師さんや理学療法士さ

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何時かそんな日に

何時かそんな日に

私が暮らしている地域では今月に入ってすぐ自粛が緩和され、それに伴い在宅ワークが解けた。
簡単にオンライン会議ができるため、自粛期間中は何となく気軽な会議が増えたような気がしないでもなかったが、通常営業に戻り進捗が滞っていた案件が一気に動き出した兼ね合いでなかなか忙しい。
起業しているので土日祝祭日の概念はあまりなく、定時の存在もなくなって久しい。いつでも休めるけれど、いつも仕事している、そんな感じ

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3月11日

3月11日

震災から10年。
口にするのは容易いが、それぞれに歩んでこられた10年を思うと言い現わし難い重みがある。
私が住まう土地からずっと離れた場所で起きたあの日の震災。
テレビから流れてくる映像に現実味がなく、何を見せられているのかと言葉が出なかった。
直後から日本中にいろんな影響があった。
当時勤めていた病院からもDMATが派遣された。
私の仕事で言えば、医療情報システム関連の機器の納期が一気に遅れて

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四季

四季

歳を重ねるたび、一年が瞬く間に過ぎてしまい本当に365日を暮らしてきたのか疑いたい気持ちになる。
いろんなことを見落として、それすら気付かないまま生活しているのだとしたらもったいないことをしているなと思う。

ひと雨ごとに暖かくなる時期がきた。
次の季節に移り行く僅かな瞬間も趣きがあっていい。
梅雨の雨間に目が覚めるほどの青空が覗く時期、金木犀が香ってくる時期、日に日に空気が凛と澄んでくる時期。

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思い出の絵本

思い出の絵本

 小学生の頃、学校の図書室で見つけた一冊の絵本。
それは私たちが【お古本棚】と呼んでいた、読み古された本が並べられている隅の本棚の、一番下の列にありました。
何度も修繕された跡のある、古い古い絵本です。

 この物語は雪国が舞台で、おばあさんが子供の頃に経験した不思議な出来事をもとに物語が進みます。
どこからともなく聞こえてくる、かごめかごめの歌。
歌が聞こえるほうへ誘われるように夜の雪道を歩き出

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おしゃべりなおでん

おしゃべりなおでん

もう何十年も記憶から引き出されることのなかった、子供の頃のことを不意に思い出す。
街にひとつしかなかったデパート(今だとショッピングセンターとか呼ぶけれど)の階段登り口にあったおでんコーナー。
どうしておでんだったのかは知らない。
フロアから5段ほど下に降りるとそれがあって、ドーナツ状にカウンター席がある作りになっている。確か脇にテーブル席もあったと思う。
その真ん中には大きなおでん用の鍋が3つあ

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