「森の中のレストラン」の感想(ネタバレあり)
Amazonプライム・ビデオで鑑賞。
主人公は森の中でレストランを経営している腕の良いシェフなのだけど、同時に森で自殺にくる人間に対して食事を作り、もう一度考える時間を与える「最後の晩餐」を提供している。
ちなみに最初のお客を「机くん」こと森永悠希が演じているのだけど、気の弱そうで覚悟がまだ決めきれてない繊細な雰囲気が絶妙だったと思う。短いシーンでしっかり存在感を残していくのは流石。
しかしあの感じで老人の金を騙し取ってたというのがあまり繋がらない気もする。
主人公自身もかつて自殺願望があり、一人娘を亡くした事がきっかけで人生に絶望している。
娘の死の原因が飛び降り自殺をした人の巻き添えというかなりハードな設定で、レストランに来る自殺志願者にせめて誰も巻き込まないで森で亡くなって欲しいという願いを込めてやっているらしい。
そこに死んだ娘が生きていたら同じ年頃である畑芽育演じる父親からDVを受けているサヤが最後の晩餐に来た事で止まっていた主人公の心の時間が動いていく。
このサヤが高校に行かず家出する描写とかは結構良くて、大勢の同級生達が通う道から外れていく彼女の背中を撮るカットが映画的で良かったと思う。
主人公自身も娘との思い出の料理である「バジルのパスタ」を彼女に注文されたことで少し心が揺らいでいく。
まあ正直何故彼女が「バジルのパスタ」を選んだのかめちゃくちゃ謎なのだけど。
ご飯を食べるというのは生きる為の根源的な行為で、これから死にゆく人に対してその時間を提供するというのは矛盾していて、実は主人公自身無意識的かもしれないけど救いたいという想いが根っこにある感じがする。
そういう本人が気づいていないおせっかいさというか、人のよさみたいな部分を本人が取り戻していく様な物語になっていたと思う。
それに対して主人公と真逆の父親像としてサヤの父親がいるのだけど彼のキャラクターとしての造形は微妙に感じた。
サヤや母親に対しての暴力描写とかは結構記号的で何でこんな人間になってしまったのか?あんまり想像する余地が無い感じの警棒でぶっ叩いてくるヤバい父親。
最後のサヤに対するある暴力描写があるのだけど、そういう方向の暴力描写をするに至る流れとかがあまりに唐突過ぎてなんか違和感があった。
最低の行為ではあるのだけど、そこまでに至る前フリが無いので、悲劇性より「なんで急にそんな事したの?」という戸惑いが大きい。
あと気になった点で言うと主人公の娘を巻き込んだ自殺した少年のエピソードとかの回収もスッキリしない。
奥菜恵が「自殺の理由は何だったんですか?」とその両親に訊ねて遺書を渡されるのだけど、その内容が映画を観ているこちらに明らかにされないのは結構モヤモヤする。
結局登場人物しか内容は知らないのだけど、後半に明らかになり主人公の物語のキーになっていくのかと思ってたら、特に回収されず終わってしまった印象。
その他、主人公が可愛い犬を飼っているのだけど、どう見ても大人しそうなのに何故か凶暴な番犬みたいな設定に、なっているのは笑った。
キャンと吠える度に「うおお!」とみんな後退りしするのが凄く間抜けな絵面で良い。