ドキドキしなくなった私は多分、ビビりになった。
恋してる時によくあるあのドキドキってオノマトペ。どうやら私はあの鼓動を、もうとっくに忘れてしまったみたいだ。
なんだかそのことを言葉にすると、不思議と涙が出そうになる。それは哀れな自分に対してでは、多分ない。
そんな単純なものじゃなくて、過去の私にごめんねというような、そんな涙。
名簿順で私の1つ前に並ぶ男の子。
なんていうんだろう、あういう人をムードメーカーと呼ぶんだろうか。
いつも色んな人に気を使って話しかけにいくような、そんな優しい人なんだと思う。
でもその笑顔にはいつもどこか暗い影があるような、そんな気がするんだ。
勝手にこういうことを考えてしまうのが私の悪い癖。
今日はその子と私が同じ用事で呼ばれた。
その件で呼ばれたのはこれで3回目かな。今日は放課後だったから、部活のない私たちはそのまま一緒に下駄箱へ向かった。
こんな私と二人っきりだなんて申し訳ないと思った。でもコミュ力のある彼だからだろう、少し会話を振ってくれて嬉しかった。でもやっぱり申し訳なさがついて回った。
明後日の体育祭のことについてだ。
私は放送部だから、文化祭の時と同様 クラスの人とはあまり一緒にいれない。
放送部だから準備があるの?応援席にもあまり入れないのか、と彼は聞いた。
私は朝から準備だと、応援席は暑いからテントの下に逃げるんだと返した。
彼はズルいなと言ったけど、まあこれが放送部の特権だからさ、とね。
応援席は名簿順だから、右隣に彼がいることになる。それは少し嬉しいかな。まあそれでも長くは居られないんだけどね。
ああ、こんなに考えてしまうのに。
やっぱり胸の高鳴りは全くだ。
本当に人を信じることに怯えてしまったんだよね。
まあどうせ受け身の私だから、その先に幸福が訪れることは奇跡でしかない。
体育祭、また少しは話せたらいいな。
たまにはこんなくだらない話をしてみる。
あと、今日は満月なんだって。