バジンのお話
ここは定食屋、もう日が沈み暗くなっているのでのれんは片付いている
そこにくたびれた様子の体躯の大きな男が訪ねた
「すんませんお客さん、今日はもう店じまいでして…」
頭に布巾を巻き頬に四角い絆創膏を貼った男がそう言う
「水を……1杯だけ………」
男はそう辛そうな声で言う
すると店主はすぐに水を出す
「…お客さん大丈夫かい?何か作ろうか?何がいい」
「……なんでもいい…」
「それが一番困るんだがなぁ。ま、軽いのでいいか」
店主は鍋を火にかける、出汁の良い匂いが店に漂う
「ほいよ、お待ちどおさま」
店主は山かけうどんを男に差し出した
男はすぐにうどんをすすりあっという間に食べ尽くす
「うまかったろ?その山芋はどっかの嬢ちゃんの荷物運んでやった時に分けてもらったもんでな、とんでもなくうめぇんだ」
そう語る店主の頭を男はうどんの入っていた器で殴った
そして店主に短刀をつきつけ声を荒らげる
「金ぇ出せ、じゃねえと殺す」
「…なるほど、ここらで噂されてた狸男ってのァテメェか」
男は盗賊だった。様々な家にボロボロな姿で入り襲う、その姿が化け狸のようにデカいことから狸男と呼ばれていた
「分かってんならとっとと金出せジジイ」
「……はぁ…」
「ため息なんぞついてんじゃねぇぶっ殺すぞ!」
狸男は店主に短刀を突き刺そうと振りかぶる
「喰え、きつつき」
「キツツキ?」
狸男は妙な気迫の店主が発したキツツキという言葉に手を止める。が、何も起こらない
「なんだよ…ビビらせやがって、死ね!」
止めた手を再び振り下ろすが狸男の攻撃は店主にかすりもしなかった。それは何故か
無かったのだ、短刀を持っていた狸男の右腕が。細かく言うなら右腕の肘から先が。
「っっ!?うあぁぁあぁっ!腕!俺の腕…」
慌てる狸男だがすぐに冷静さを取り戻す、右腕が痛くないのだ。右腕が痛くないことから狸男は幻術に掛けられていると錯覚した
「幻術なんぞ使いやがって…」
「俺はそんな無駄なもん使ってねぇよ三下」
店主の雰囲気が一変する。
「うるせぇ!」
狸男が踏み込むと、視界がガクンと下がる
次は両足がない。だが痛くない
「…妖刀『鬼突』…その剣が喰らったところは獲物にストレスを与えないため、また血が溢れて旨味を逃がさないために「涎」でコーティングされるんだ…いまのお前のように。」
「てんめ…」
男の頭は失くなる
「あまり叫ぶな、最近ようやく常連が出来たんだ。変な噂が出来たら困る」
扉がガラガラと音を立てもう1人男が入ってくる。般若の仮面の下半分を切り取ったような仮面をつけた男が入る
「…あぁお前か、凶ちゃん。特別部屋へ入れ」
「黙れ殺すぞ、唐揚げ」
「悪ぃな凶、ちょっとからかっただけだ。軟骨でいいな?生憎モモは切らしてる」
「何でもいい、それより話だ」
「あぁ例の……鬼突が死体を喰い終わるまでにまとめろ、無駄は嫌いだ」
「……って事だ、分かったな?」
「あぁ、了解した。…おい凶」
「なんだ」
「これが駄駄羅遊びになるくらいなら俺はお前を殺す、それだけ分かっておけ」
「お前がそんな無駄な事考えるなんてな…心配いらん、俺は必ず作る。暴力の支配する世界を…」
「ならいい…ほら唐揚げ。美味いだろ」
「…普通」
「くたばれ」
裏イザヨイ戦争へ続く