ロン外伝
ヴァサラ戦記二次創作
「全く……素直に逃げれば良かったものを……」
男はロンの頭を踏みながらぽつぽつと呟く
「これで終わりだ、己の無力さを噛み締めながら…
死ぬがいい」
「ここがモミジの村……」
ヴァサラ軍1番隊隊員のロンは最近、行方不明者が多発しているというモミジの村に訪れた
同じくヴァサラ軍6番隊のサイチュウからの情報によると行方不明は山の神の祟りだとか、テロ集団の仕業だとか、極悪非道な妖怪の力とどれもバラバラな情報ばかり。
この情報を仕入れてきたサイチュウとの任務のハズだったが、サイチュウ…いや六番隊は急遽用事が出来たらしく結果、ロンの単独任務となった。
「(行方不明者の多くはおそらく単独犯によるもの…サイチュウから貰った情報は確かなもんばっかだったけどここまでブレるか?)」
ロンは貰った情報が記された書類を読みながら頭を抱える
「まず聞き込みから…だな」
ロンは酒場に図書館、新聞屋、行方不明者の友人など丸一日、様々な所へ聞き込みに行ったがやはり主な情報は「祟り、テロ集団、妖怪」と仕入れた情報と被るものが多かった
「(マジで3組が全く同じ目的で動いてるのか?確かに単独じゃないなら行方不明者がここまで多いのも無理ないけど……でもな……)」
飯屋でロンが頭を机に突っ伏し唸りながら悩んでいると足元に1枚のチラシが落ちた
「なんだろこれ……壁登りコンテスト??…しょーもな…」
任務が上手くいかない苛立ちと興味のなさからそのチラシをくしゃくしゃっと手荒に丸めてゴミ箱に放り捨てる。
「(あっ)」
だがロンは何かを思い出したように行方不明者のリストを急いで漁る
「(これ……これも、これも……やっぱそうなのか…。こっちもだしな……つーことは…)」「はぁ……」
ロンは大きなため息をつき、宿に戻ろうと店を出る。すると
「てめぇ金出せよ!」
路地裏で金髪のガラの悪い男とモヒカンの男が杖をついた男に詰め寄っている
「金は持っていない、急いでいるんだ。そこをどいてくれないか」
「あぁ!?持ってねぇわけねぇだろさっさと出せよ!これが見えねぇのか?」
モヒカンの男がナイフを出して見せびらかす
「なぁ、あんた達」
ロンは2人の不良に声をかける
「あぁ!?んだこのチビ」
「てめぇが金くれんのかぁ?」
「こんな事してる暇があるなら働いたらどうだ」
「なんだテメェ!!」
モヒカンの男がナイフでロンを刺そうとする
ロンはそれを避け、左手でナイフを持つ方の手首を持ち、右手で肩を持ち地面に抑えつける。
「この野郎!」
金髪の男がロンを蹴ろうとするがロンはモヒカンの男を持ち上げる。すると金髪の男の蹴りがモヒカンの男の顔面に綺麗にヒットする
「うごぉっ……」「わっ、悪ぃ!」
金髪の男が後ろに下がった瞬間ロンは素早く金髪の男の股間に蹴りを入れる
「ぐろぇっ…」
つま先がめり込みそこにあるモノが押し上げられる感触と激痛により金髪の男はその場で倒れる
「おいっ……早く立て!…覚えてろよ貴様、ボスが黙っちゃいないぞ…」
そう言い放つとモヒカンの男は金髪の男を抱えてどこかへ去っていった
「大丈夫でしたか?」
「あぁ、ありがとう。強いんだな」
「まぁ…」
「俺はノヴァ、旅人だ。目が悪くてね、よく絡まれる」
旅人、ノヴァは服についたホコリを払うと、腕をぐるぐると回しぐ〜っと伸びをする
「大変ですね。宿まで送りましょうか」
「いやいや大丈夫だ…それより…」
「?」
「もしかして君はヴァサラ軍か?」
「えぇ、そうです」
「なら、また近いうちに会うかもしれんな。助けてくれてありがとう。これはお礼だ、ではまた」
「えっちょっ」
そうロンに渡された袋の中には大量の札束が入っており、慌てて返そうとしたがもうそこにノヴァはいなかった
「…なんだったんだ」
そしてロンは宿に戻る
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「唯我独尊…貴様遅いぞ…何してた」
「すまんすまん…少し、面白そうな奴がいたんでな…」
「ソイツが標的?ならさっさと殺ろ☆」
「お前の雇い主はこっちの四字熟語辞典だ、コイツの指示に従え」
「はいよ♪」
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翌日宿から出たロンはいつもより少し…いやかなり気分が落ちていた。それは自身の珍妙な格好のせいであろう。
珍妙な格好…というか何故か妙に似合った女装なのだがこれにもきちんと理由がある
「(行方不明…というか誘拐の被害者はどれも女性、しかも何らかの競技などで優秀な成績を収めてる。犯人どもは優秀な女を狙うって事だろう。なら壁登りコンテストで優勝して奴らを誘うのが合理的…ではあるな)
ロンは思いっきりため息をつく。人手が足りないと肩を落とし
(サイチュウ…ではなくともあと一人ほど助けがあればな…)と思い女装がバレないかハラハラしながら会場へ向かう
…でコンテストはどうなったのかというと、もちろんロンが優勝。それもぶっちぎりで。
当たり前の事なのだ、なぜならロンはヴァサラ軍で普段から厳しい訓練によって鍛えられているし、そもそも妖怪なのだから。しかしコンテストには妖怪は参加してはならないというルールはないのでロンは遠慮なく優勝した、が気分は良くない
そもそもこのコンテスト、悪趣味なもので頑張って登る女性達を男達が下から下衆な視線で眺め楽しんでいた。……数人知ってる顔がいたのは見て見ぬふりをした
ロンは優勝したあと周りを警戒した、控え室のような場所にいるときに攫ってくるのかと予想していたがそうではなかった、どうやら敵は中々臆病らしい。
しかし登ってる最中で何人か不審な人物を見つけ、特徴を覚えたのでこちらから攻める事も出来る…
「(あの不審者共は確実に全員別組織だ…なんなら1人は単独犯…ぽかったな)」
ロンは布を眺めながら思考を巡らせる。持っている布は不審者の服から奪ったものだ
ロンは鼻が利く。布の匂いを嗅ぎ分けてそれを突き止めた
「(……はぁ…)」
ロンには悩みがあった。いかんせん敵の数が多すぎるのだ。
特に黒いローブを纏った男の組織。敵の数は100はいるだろう。それも大の男だ。
それだけの数、ロンには対応しきれない、複数人での戦闘や隊長達ならば楽々と戦えるのだろうがロンはそうはいかない。まだそれほど強くないし極みだって1年前に突然開花したばかりで不安定であり使いこなせていない
「…はぁ……………」
とても大きなため息をつく
考えていたらもう日が沈みかけていた。その時、突然ロンの宿の扉が開く
ロンは急いでカツラを被り警戒する。その扉から入ってきたのはローブの男。
「…最悪だな」
「我々に着いてきていただこう。捧げものに、あまり乱暴はしてはならぬと祖に言われている」
「(捧げ物……祖……宗教関連か…傷つけたくないなら…)…捕まえてみたらどうだ?3人では足りないかもしれないが」
そう言い放つとロンは窓から飛び降りた。ロンの泊まっていた部屋は2階だが下には大量にゴミ袋がありクッションになるしもし回収されていてもロンの肉体強度ならこの程度耐えられる
ボスン!!!とゴミ袋を飛び散らせながら着地する。先程までいた部屋の窓からローブの男が覗き込んだので手をパンパンと叩き煽ってやるとすぐに追うように飛び降りてくる
「アホだな、コイツら」
ロンは素早くゴミ袋を全てどかし走り去る
当然飛び降りた追っ手は地面とぶつかった衝撃で動けない。が2人しかいない
もう1人は宿の入口から出てくる
「(全員落ちてくれれば早かったんだが…そうもいかないか)」
すると残った一人は何かを破裂させる
パァン!!!と耳を突く音が日の落ちてきて赤く染まる村に響く
街の路地裏からローブの軍団が現れる
「……マジで?」
予想以上に現れたことにロンは目を丸くする
「そういう事ね…やけに匂いが残ってたわけだ、ずっと潜んでたのかよ…」
ローブの軍団はロンに素早く向かってくる
中には縄や人1人を包み込めるほどの袋、そして短剣や棍棒を持っている者もいた
「…ッスーー…(無理、逃げよ)」
建物の多い方へ逃げる。ヴァサラ軍として何も知らぬ人を巻き込むのは避けたかったがここで自分が捕まってしまうとなればこの事件は解決しないし狙われているのはロンのみでローブ集団は他の者には目もくれない。うれしいことに村の人達も大体がもう家に帰っている。
「まだいるかな…いやいろ、いなかったら俺は終わる。いなかったらまた今度シバく。」
ロンは誰かを探す。その誰かに気を取られ囲まれている事に気づかなかつた
やむなく戦闘になる。戦闘を始めると人々はだんだんといなくなるし、多少大袈裟に動いて注意を引いた。
ヌンチャクで殴り、締め上げる。剣の峰で打ち、気絶させる。足で蹴り、引っかけコケさせる
だが数が多すぎるいくら気絶させても蟻のように湧いて出てくる
身長の高い男を踏み台にし数を確認すると驚愕した
「(多すぎる…まだ全然いるな)」
が同時にロンは希望を見つけた……希望と言うにはロンはそれをあまり頼りにしていないが。
ロンはひとまず囲まれていた場所から抜け、その希望の元へ走り、背中を掴み、半ば誘拐のような形で屋根の上にその男を連れ去った
「ち、ちょっ!?なんなんよ!??」
「手を貸して欲しいのですが」
希望というのはヴァサラ軍を引退した七福という男だ。先程のコンテストで見つけていた。その時既に劣勢になれば無理やり戦わせようと考えていたが
「はぁ?嫌に決まってるじゃんよ、金にならん。あ、お前女装してんじゃん。女の子になっちゃったんか?」
ロンはこの男が好きでは無い。口を開けば人を馬鹿にする言動を取るし、的確に嫌なところを付いてくる。今も笑いながらこんな事を行ってくる
「…口止めの件覚えてます?」
「あ?金ないなら受けんって言ったろ」
「実はもうすぐ払えそうなんですが…そこに少し色を付けるので手伝ってはいただけませんでしょうか」
「……」
やはり無理だろうか。ロンは次の交渉…いや脅迫のために準備をしていたが意外な答えが帰ってきた
「いいぜ、やったるよ」
「やっぱダメk……って、へ?」
「手伝ってやるっつってんだよ」
「…ありがとうございます」
感謝を述べると七福を地面に下ろす
そこでロンは異変に気づいた。敵の数が減っている。
70はいた軍勢がみるみる減っていっている
「いやーいいタイミングで臨時収入が入るとはなぁ儲けもんよ」
「…どういう事です?」
ロンと七福は戦闘を開始しながら話す
「今日は知り合いと話してたんよ、んでソイツ中々強いから俺は戦わずに金ゲットって事」
すると七福の方に謎の人物が近づいてくる
頭に西洋の鎧に使う兜を被り、左手に盾を。右手に剣を持った人が来る
「…七福!どうなってるんだ。お前がここは良い村というから来たのだ!この雑魚共はなんだ!?」
その男?は剣をしまうと七福に殴りかかりそうな勢いで詰め寄る
「いや違うんよ、アイツが任務でヘマこいたらしくてさ。可愛い後輩だろ?助けてやろうや」
七福がそう言うとロンを指さす
もう1人はロンの方を見る。表情は見えないがロンは確実に睨まれているな、と確信した
「貴様!ヴァサラ軍か?街に被害を及ぼすような行動はするな!危険だろう!?」
「すみません…」
ロンはあまりの圧に謝らざるをえなかった
そしてその声に驚いたのかローブの軍団は散り、アジトらしき場所へ撤退する
「おっし!帰った!働かずに支払い上乗せ!」
相変わらずムカつく笑顔だとロンは思った
「…あなたは?」
「…そういう時は、まず自分から名乗るべきではないのか?…まぁ良い、私はイナ、偽名だがそう呼べ。本名は内緒にしているのでな」
「変人だよな」
「イナ…さん。……巻き込んでしまいすみません。俺は1番隊のロンと言います」
「ロンか…ヴァサラ軍だろう?もう少し住民に気を使って動くべきだが大袈裟に動いて注意を引いたのは良かったと思う。…それと…」
イナは言いにくそうにしているが口を開く
「…その格好は……趣味…か?いや、なにも否定する訳では無い、個人には様々な事情がある。…もし気分を悪くしてしまったら……すまない」
ロンは何か盛大な誤解をされている気がするのでとりあえず任務の事を全て話した
七福は隣で笑いを堪えていた
「なるほど…事情は分かった。ではこのイナ、そして七福が来れなかった隊員の代わりとなろう」
イナはそう言うとロンに対し跪き、頭でロンの手の甲を小突く。ロンは少し慌てたがイナ曰くルーティンの様なものらしい
そして七福はそのイナを小突いていた。どうやら今回の任務全てに手を貸すつもりは無かったから帰ろうとしたがイナが睨む(兜を被っているから表情は見えないが)と観念したようだった
「はぁ…なんでこうなるんよ……戦うつもり無かったっつーのに…怪我する度に10万払えよ、イナ」
「なら、私がいる限りお前に傷一つ付けぬと約束しよう。」
「うぇぇ…お前にんな事言われても嬉しかねぇ」
「私も本来ならお前を守るつもりはない。だがお前が傷つけば彼女が傷つくかもしれんし、私が殺されてしまうかもしれんだろう……私は彼女に殺されたくないだけだ。誰がお前を好んで守るものか」
「お前マトモに見えてキモイよな」
「ん?」
「ナンデモナーイナンデモナーイ」
2人は昔ながらの仲なんだろう、ロンは2人の掛け合いを見て直感だがそう思った
ロンが嗅いだ匂いの情報を頼りにイナが探索をすると単独犯らしき者がいるであろう小屋、そして姿を隠した見張りがついていて見つけにくい小屋をあっという間に見つけた
そしてその後、おおまかな作戦を2人に伝えた。
敵はさっきのローブ集団と森にいる1人だけの者、そして少数の妖怪。
そして戦力の安定しているらしいイナが何も情報がない妖怪の元へ、ロンと七福はアジトから敵を遠回りして森へ誘い、妖怪、ローブ集団、森の単独犯をぶつける作戦をとり各々配置に着いた
「…イナさんとは知り合いなんですか?」
「まぁな、アイツも元ヴァサラ軍でな。歳はアイツのが下だけど同期っちゃ同期な。」
「あの兜はなんなんです?」
「あぁ……シャイなんよ、アイツは」
「はぁ…1人で大丈夫ですかね…」
「大丈夫だ、守りにおいてアイツに並ぶのは数える程しか知らんしな。… そいじゃ、そろそろ始めんぞ」
「頼みます」
七福が爆弾…というよりは花火の八尺玉のようなものに火をつけアジトのありそうな場所に投げる。
火薬が炸裂する、悲鳴が聞こえるが感じる気配からして人は減っていない。
「なんだァ!!」「敵襲か!?!?」
扉の…いや扉のあった壁の吹き飛んだアジトからワラワラとローブ集団…命還教が現れる。その中にはボスと思われる者もいる
「おし、かかった。あと頼むわ」
「了解です、七福さんは先に単独犯頼んます」
「言われんでもよ」
地面に仕込まれたロープをロンが掴み、思い切り引っ張ると、ボスを含めたローブ集団40人あまりを縛る。そのうち何人かがロープをナイフで切ろうとしているのが見えたのでロンはグイ、とロープを思い切り引っ張り少数の妖怪の元へと引きずる
引きずられた勢いで集団のほとんどが気絶しボス格の男のみが隙を伺っている
「ロン!上だ!!」
「っえ!?」
ロンは背中に激痛が走った後浮遊感を感じる
ロンの視界の端に見える漆黒の羽、背中の刺さるような激痛
「っ!天狗か!!」
「貴様が贄か…おなごでは無いが……貴様ならば申し分ない養分になるな」
ロンは身を捻り掴まれている衣服をちぎり、拘束から抜ける
落下中を天狗は狙うが横から投擲された盾が邪魔をする
「ロン、傷は」
「大した傷じゃないです。治ります」
「天狗の相手は私がする、あと…気づいてるか?」
「デカい気配来てますね」
「アレと宗教連中をぶつけろ、七福はこっちに寄越せ。アイツがいれば天狗は速攻終わる」
「了解です」
ロンは命還教をおびき寄せ七福の元へ向かう
「………もうよいか?」
「待ってくれているとはそんなナリして優しいんだな、不意をつかれても負ける気はしないが」
「貴様も喰ろうてやる、ありがたく思え」
「かかってこい、鶏肉」
「…っんだよコレェ!!」
七福は化け物のような形相をした植物の塊に追われていた…
数分前…ロンと別れた直後、遠回りをして単独犯の元へ向かった。ボロい小屋の中に入ってみたが誰もおらずそこにあった財産を少々持って引き返そうとした時、緑髪の小さな女性…いや少女が襲ってきたのだ
「ほんっとにしつけぇな!」
落ちてあった大きめの石を拾い木に投げる、すると木が腐っていたのかメキメキと音を立てて木が倒れて植物の化け物を八つ裂きにする
「この程度では止まらんよ」
裂かれたところから化け物が分裂し七福に襲いかかる
が、黒い球から湧き出る爆炎が植物の化け物を包む
「止まらんと言うておろう」
「っうえ…!?」
炎を纏った蛇のような植物が七福の顔を狙って飛ぶが不幸中の幸いか、七福がつまづき体制を崩したことで神回避を行うことが出来た
「(情報と事前準備が足りなさ過ぎるんよ…運はたっぷり溜まってるからなんとかなってっけど…)」
「運がええみたいじゃの…」
「お前が雑魚なんだろノーコンロリババア」
「減らず口を…貴様はこのカラメの下僕たちの餌にしてくれる」
カラメが七福に仕掛けた攻撃はロンによってかき消される…もっともロンは防いだというより事故ったような感じだったが
「ふぅ、ラッキー…でなんでお前が飛んでくるんよ」
「しまりました。あの教祖、中々強い」
そうしてこの場には『命還教教祖』ナガレ、単独人攫い『祟り神』カラメ、ロン、七福が揃った
「七福さん、俺一人で緑の人抑えられると思います?」
「100無理、こうなりゃイナんとこ行ってとことんめちゃくちゃにすんぞ」
「…それが良さそうですね」
「『森林喝采』、百鬼絵巻」
カラメの足元から人型から獣型まで多彩な植物が現れ3人に襲いかかる
「和の極み 牌舞 『中』」
「運の極み 日日是好日 『神回避』」
「天地還拳」
ロンと七福は回避しイナと天狗の方向へ
ナガレは植物を手刀で断ち切りカラメの懐へ潜り込もうとしているが中々進めないようだ
「待たぬか水色坊主」
「待てって言われて待つバカはいねぇよ、見た目若ぇのに頭ん中腐ってんの〜?」
「避けるの俺なんですから煽んないで!!」
七福に向かっているハズの攻撃は風によって全て逸れてロンへ向かっている
「イナ〜!コイツら吹きとばせ!」
「っあ!?…なるほど……後ろを頼む!!」
イナが回転し盾によって、植物をカラメごとピンポン玉を弾くように吹き飛ばす
その隣をぬけてイナに向かう天狗の羽の刃をロンと七福は叩き落とす
「さて…囲まれたがどうするか、当初の作戦通りにはいきそうにないな」
「なー、どうすっか…てかあの鶏肉どうやって引きずり下ろす?」
「貴様を投げて体重で落とすくらいしか思いつかん」
「そんな太ってねーわ!使えねぇなてめぇぇええええええっ…!?」
「なっ!掴むな、貴様っ!?」
地面が隆起する、カラメが大量の植物を地中に忍ばせていたのだ
「そのまま真っ逆さまで極楽浄土へいきなされ」
「なっ……!、いや好都合だ七福!!極み全開にしろ!!!飛ぶぞ!!」
「お前こそしくんなよ!」
「誰に言っている!!」
空中に放り出されたイナは身をひねり盾を構える
それとタイミングを合わせたように隆起した地面を駆け上がってきたロンがヌンチャクを力いっぱい振る
盾とヌンチャクが衝突し、イナと七福が浮く
それを押し上げるように強烈な風が吹き、天狗のいる場所まで届く
「空にひきこもんなよ焼き鳥さん」
天狗の翼に3つほどの大穴が現れる。と同時に七福が首を絞め地面に落とす、「運良く」天狗が下敷きとなり七福はノーダメージだった
「あっぶねぇ、ラッキー…」
「ナイスだったぞロン」
「どーも…」
「貴様らァ…」
「水色坊主と兜坊主は…処刑じゃのう…」
「これだけの血と肉…神もお喜びになる…」
闘気と殺気が入り交じり、じめりとした空間が生まれる
が、すぐにその空間は壊される
「うぅむ、祭囃子かと思ったが……どうやら違ったようだな」
鬼かトカゲか、はたまた御伽噺の龍のような模様の紙のようなもので顔を覆い…ロンには見覚えのある杖を持った男がその場にはいた
「ノヴァさん…?」
「その声は…ヴァサラ軍の方、やはりまた会ったな。…さて、どうしようか……」
ノヴァが消えた。瞬きひとつの間に。
それと共にカラメも消える。
カラメのいた場所は彼女の操る植物ごと連れ去られたかのように抉られている
「はっや…すぎ…」
「こちらに敵意がないようで助かったな」
七福とイナの2人はその速さを捉えていた
「天地還拳…」
ノヴァに呆気にとられている間にナガレが七福へ向かう
が、ロンが止める
「こいつは俺が。2人は厄介な天狗を頼みます」
そう言い、ロンはナガレを掴み別の場所へ移動する。
「2人…2人か……貴様らをねじふせ、あの小僧を喰らうとしようか」
天狗は懐から何かが体育座りしたような形の人形を取りだし、握り潰す。その手からドロリとした黒い粘液が垂れ、頭部だけが狼となっている人型に成る。
生まれ落ちた2匹のソレは七福の方を向き牙を剥き唸っている。
「良かったな七福、お前をご所望のようだぞ」
「こんなに嬉しくねぇシャルウィーダンス初めてだわ」
「私が天狗を落とすまで耐えろよ」
「分かってんよ!」
「行くぞ、兜男」
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「っう…!!痛……」
「頑丈な贄だ。捧げれば大地の神もお喜びになるだろう…」
「大地の神……?」
「この国に眠るとされる大いなる神だ、人はみな死してその神に還る。私たちはその神を呼び、汚染されている大地を守る」
「…まるで意味がわからん」
「我が神を愚弄するか!!!」
先程までと同じような戦闘が続くがロンの劣勢は覆らない。それどころか怒りにより強さを増したナガレの猛攻はロンを追い詰めている。
が、ロンの居合により流れは変わる
「…これで…聴牌だ」
「そのような浅い斬撃で私を倒せるものかぁっ!」
「………っ中!…ツモ!!」
ロンの極みは、条件を満たさなければ発動しないものである。
和の極みには34の技があり、その34の技を組み合わせて特定の並び、『役』を作ることで初めて発動する
「和の極み『牌舞』…四暗刻単騎」
それが発動した途端、ロンの技のパワー、キレ、速さが大幅に上がる。ナガレも受け止めきれず後ろに下がる。
「フゥーー(……やっぱタイマンならコレだな…集中力が跳ね上がる)」
「(奴は何をした…まぁいい、速くなっただけだ。まだ捌ける範囲だ)」
今度は積極にロンが攻める。ヌンチャク、刀、素手と多彩な技を使い攻めていた先程までとは違いヌンチャクと足技だけを使い、距離を詰めないように戦っている
ナガレは多少反応が遅れつつも、一撃入れる隙を伺いつつロンの攻撃を防いでいる
一瞬地鳴りが起こり、前のめりに攻めていたロンの体勢が一瞬崩れる。
「天地還拳 心侵掌底…!!!」
「がほっ……ぉえっ……」
ロンは鳩尾付近に掌底を喰らい、膝をつく。
相当な一撃だったらしく、あばら骨はミシミシと音を立て呼吸も一瞬困難になるほどだった。
「このまま貴様の心を壊してやる」
ナガレも意識を失ったようにその場で膝をつきその場に静寂が生まれるが、それは一瞬で戦闘に戻り2人は距離をとる
「くっそ、スッタン(四暗刻単騎)解けた…」
「…はぁ…はぁっ、はぁ………一体なんなのだ…貴様…」
ナガレは先程までとは違い、ロンに対し明らかな恐怖を抱いており息を荒らげている。
「だぁっ!!!」
隙だらけのナガレの鳩尾にロンは全力の蹴りを入れ、気絶させる
「ふぅ………いった…独特な拳法だったな…ツボ押しみたいな…ぐぅ、中に響いてる…」
ロンは痛む体を押さえながらイナと七福の元へ向かう
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七福は闇雲に牙や爪で攻撃してくる真っ黒の狼人間と天狗による風の攻撃を避け続けていた
「くっそ…反撃のチャンスないじゃんよ……イナ!さっさと天狗足止めしろ!!」
「任せろ、今見切ったところだ。」
「減らず口を」
「天鎧盾術、烏落とし」
急降下してくる天狗の爪をイナは盾で叩きつけそのまま回転し胴体へタックルをいれる
「元上司の攻撃の方が20倍は早い」
「チィッ…」
天狗の体は飛行を行うために軽くなっており、イナのタックルでも十分に吹き飛ばすことができた
「十分か?」
「遅いんよ、運の極み『日日是好日』神狙撃」
七福が乱雑に石を鷲掴みにして狼人間に投げつけると、ただの石を投げたとは思えない威力で狼人間の頭を貫く。
狼人間はドロドロに溶けて絶命した。
「きんもちわりっ…最悪……」
七福は手についた狼人間だったものの粘液をイナの背中に擦り付けた
「シバくぞ」
地響きが起こる。地面から先程の狼人間と同様に粘液に包まれた大鯰が現れ、七福へ突撃する
「やっば…」
巨体に対して七福の運は意味がなく、そのまま吹き飛ばされるが七福に怪我はほぼ無い。イナが盾でガードしていたが衝撃がデカすぎたのか、イナはダウンしてしまった。
「これで分かったぞ、水色。貴様の力…いや運ははあまりに広範囲で強力な攻撃には無力のようだな」
「分かったところでテメーの攻撃じゃやられねぇーよ焼き鳥」
七福が銃を打つが、天狗が手を払うと銃弾を風が包み空中で止まる
「デコイだっつーのバァカ!」
飛ぶ天狗の背後に、こぶし大の爆弾が落ちてくる。
その爆弾は爆発し天狗を包み込む。
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「おぅおぅやってるな、天狗にすれば良かったか」
迫り来る様々なツルの攻撃を紙一重で避け続ける
「くぅ…死に晒せぇ!!『天喰植罪』!!!」
空を覆い尽くす程にツルが伸び、そのツルは全て一つ一つが槍のように鋭く尖って、触れる木や動植物をことごとく抉って波のように迫っていく
「これは良き技だな。ハラハラする」
1粒だけの冷や汗を拭いたあと、ちぎった一際太いツルを掴み、ツルの波に投げつける
「その程度の攻撃で私の奥の手を止められるわけなかろう、抵抗せず死ぬがよいぞ」
このままツルの波がノヴァを飲み込むかと思われたがツルの波はドンドンと狭まっていき、その中心には投げつけられたツルが回転しながらツルの波を一纏めにしている。
「さて…これは返すぞ」
ノヴァが纏まったツルを足に傷をつけながらも蹴り返すとそのままカラメに向かっていく
飲み込まれたカラメはツルの波の中で身動きが取れないようになった
「我は平和主義だからな、命までは奪わんさ。貴様を懲らしめたのも、真っ先に殺意を向けたからだ。」
ノヴァはカラメを取り出すと縄で縛り木に吊るしあげた。
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「2人とも大丈夫ですか…」
「ボロッボロだなお前、俺は傷1つ無く倒せたっつーの」
いつものムカつく態度で七福はからかってくるが確かに体には傷1つない、ロンはその実力を認めざるを得なかった
「………イナさんは?」
「私はここだ、すまないが包帯はないか?少ししくじってしまってな。」
「あぁはい、今出しま」
「もう終わったつもりか?」
爆散したはずの天狗のが再び現れる、近くにいたロンとイナはすぐさま剣を構えるが先程とは比較にならない速さの爪で切り裂かれ、吹き飛ばされる
「まさかあんな事になるとは…驚かされたぞ」
天狗は風の斬撃を七福へ放つが届く直前に地面から大鯰が現れ、七福には届かなかった。
斬撃に触れた大鯰は、瞬く間に細切れになり絶命した。
「おっと、貴重な戦力を減らしてしまった」
「(冗談じゃねぇぞ…あんなもん俺の剣術でさばけるわけねぇし……運のストックも少ねぇ…どうすっかな)」
「貴様の力は未知数だからな、念には念をだ」
天狗は一際大きな人形を潰し再び化け物を呼び出す
それはおそろしいほどの巨体をもつ大鹿で、先程の狼人間や大鯰とは違い体のところどころに火が灯っている
「(あの大柄な体だ……機動力はそんなねーだろ、極み最大出力でアイツら連れてなんとか逃げれっか…?)」
そう七福が試行錯誤していると大鹿の炎と天狗の風により、炎の竜巻が生み出される
「…これは流石に無理じゃねぇ?!?おいさっさと起きろよてめぇら…!!」
七福はロンとイナをひきずりなんとかその場から逃げようとする。
そのうち、イナはなんとか意識を取り戻す
「七福、状況」
「鹿と天狗、炎の竜巻。俺ら死ぬ間近!」
「よし、なんとか竜巻は凌いでやる。鹿はなんとかしろ」
七福はロンを連れ鹿と天狗の死角に入り、イナは逆に竜巻と真正面から向かい合う
「フゥーーーー……正式な一門でない私がコレを使うのは傲慢だが……そんな事言ってる場合じゃないな」
イナは構えを変えて盾と剣を重ね、集中力を高める
「天鎧盾術。+閃花一刀流……『ミソハギ』…!!」
盾で打ち消すように竜巻を止めながら剣で切り裂き、竜巻を分解しようと試みる
「無駄だな、一個人で消せるものでは無い」
竜巻を相手にするイナは無抵抗のまま、羽を身体中に突き刺される。
そして遂にイナはその竜巻に吹き飛ばされた
「ぐがぁぁっ……!」
「ちっぽけな剣と盾で止めようとすることがおこがましいのだ、下等生物」
「…この剣術は私の憧れの剣術だ…愚弄する事は誰であろうと許さん。」
「それがこのザマだろう」
そう言い放つ天狗の体に一筋の線が入り、そこから血が吹き出る。
「……貴様の風を利用して斬撃を飛ばさせてもらった…。ハハッ…随分驚いたようだな、笑える顔だ、ぞ…」
「……下等生物が笑いおって…その頭砕いてくれる!」
すると、大鹿が雄叫びをあげながら倒れる。天狗がふと見ると左前脚が失くなっている
「っしゃ行けロン」
天狗の付近の木からロンが飛び出して翼を突き刺す
「落っ…ちろぉ…!!」
だが天狗はロンを打ち落とす。その際に肩の肉を抉り、それを食らうと翼の傷は瞬く間に治っていく
「なぁにしてんだバカ!」
「アンタが声出すからでしょバカ!!」
「……付き合ってられんな、もう一度竜巻で…」
天狗が再び炎の竜巻を作り出そうとするが生まれない。それもそのはず、大鹿が力尽きているのだ。胸の辺りにぽっかりと穴が開き溶けずに絶命している
「んなっ……!?」
「ねぇノヴァっちぃ〜、ネラぽんが取って来いつったのこれだっけぇ〜?」
顔に刺繍のようなタトゥーと、派手なピンクと黄色の髪の男がノヴァと話している。その手には大鹿の心臓のようなものが握られている
「あぁ合っている。他にもあるか?」
「ん、溶けそうだったけど溶け切る前に取ってきたよ〜☆」
「有能だな、というかネラはどこだ。一緒では無いのか?」
「めっちゃ飯食ってた」
「……さては我の金だな、あとでシバくか。お前は先に帰っていろ。」
「らじゃ〜☆」
天狗は派手な髪の男を追いかけるがノヴァに蹴り飛ばされる
「そこのお2人、コヤツは任せていいか?我はそこの彼の手当をする」
「あの人味方だと思いますか…?」
「……違うとしてもあの天狗に敵意を向けてっから交戦にはなんねーだろ…賭けだな。おぉう!!頼む!!」
よし、とノヴァが返事をするととてつもない速さで天狗の背後を取り、森の方へ蹴り飛ばす
「っくぅ……最高傑作を壊しおって…許さんぞ桃色頭…」
「残念ながらそれは叶わないがな」
ロンがうずくまっている天狗に対して回し蹴りをする。翼による防御を蛇のようにすりぬけ顎を蹴りあげると天狗は軽くふらつく
「運の極み『日日是好日』 超連鎖っ!」
七福が天狗に銃を撃つ。その銃弾は風によって流されるが木に当たり、ドミノ倒しのように連鎖し木が何本も倒れ天狗にダメージを与える
「小癪な……こうなれば…奥の手の奥の手だ…」
天狗はいつの間に回収していたのか、狼人間と大鹿の残骸を取り出すとそれを飲み込む。
天狗の体は粘液に包まれ、その粘液が体に染み込むと天狗の腕が狼のように、肩や背中には大鹿の角と炎が出現した姿に変貌した。
「なんですあれ…」
「腕は多分そこまで強くない。角と炎だけ気ぃつけとけ」
「了解です」
「『神羅焔 狼突』」
炎を纏った狼の腕で2人に殴りかかる、2人は避けるが殴られた地面はグツグツと沸騰している
「ロン、まだ聴牌しねぇの?!」
「まだ無理っす少なくともあと8回は攻撃しないと…」
「よそ見してていいノカ?」
振りかざされた拳を七福は鞘で、ロンはヌンチャクで防ぎ止めるが、それすらも燃やされガラ空きになった所を風の大玉に吹き飛ばされる
2人は吐血し足元もふらつくようになった
「……(隙はあるけど突っ込んだら燃やされる…狙うしかないか…?)」
ロンは極みを解除する
「何やってんだお前…!?」
「自殺志願カ、望み通りにしてやろウ」
「スゥ…和の極み『牌舞』」
極みを発動したばかりのロンは天狗に吹き飛ばされる。がロンは再び極みを解除し再発動する。それを何度も何度も繰り返す
その度に足を斬られ肩を砕かれ鼻を折られる。
「クッソ…『日日是好日』 一撃!」
七福の投げた刀は肩に刺さるだけでなく、偶然風に煽られ、天狗の腕を切り落とす
「ぐぅああっ…!」
「和の…極み、、『牌舞』…」
幾度目の発動か、再びロンにオーラが纏われる。
だがそのオーラは今までとは違い金色に輝いていた。
「やっときた……」
「(マズイ、なにかマズイ!距離を取らねば…)」
天狗がロンから離れようとするが、既にロンの拳は、天狗の急所を捉えていた
「和の極み『牌舞』『天和』…!!!」
今までのロンからは考えられない威力の一撃、その威力は副隊長。いや、隊長にも劣らないだろう
だが反動が大きいのか、ロンは天狗を吹き飛ばすとそのまま倒れてしまった
「ぜぇっ…はぁ、はぁ……体いった…」
「ロン大丈夫か。無茶すんなぁお前……とりあえず戻って治療…」
と七福がロンを持ち上げようとしたが七福は吹き飛ぶ。
ロンは嫌な予感に心臓を直接握られるような悪寒と不安感に襲われながらも顔だけを動かし何が起きたのか確認する。
そこには天狗が立っていた、ロンの打ち込んだ一撃と落とされた腕は優秀な再生力をもってしても未だ治っておらず、折れたあばら骨が皮膚を貫いて飛び出ていた。
天狗はロンの頭を踏む。
七福が向かうが運も残っておらず何度も風に吹き飛ばされる
全く……素直に逃げれば良かったものを……」
男はロンの頭を踏みながらぽつぽつと呟く
「これで終わりだ、己の無力さを噛み締めながら…
死ぬがいい」
ロンが死を覚悟したその瞬間に天狗の姿がある男と重なる。
かつてロンが故郷を飛び出し、人攫いの被害に合った時に出会った悪魔のような男。ルチアーノ。
ロンの頭に嫌な思い出が蘇る、ボロ雑巾のように何度も踏まれ、気絶するまで腹に熱したナイフを刺され、憂さ晴らしに殴られ、隣にいる奴隷が死ぬ度に自分もそうなるのかと怯えた思い出。
だが妖怪の本能なのか力のあるものには多少なりとも憧れを抱く。ロンの中にもほんの少しあの悪魔の支配力に憧れを抱く自分がいた。
天狗が渾身の力でロンの頭を踏み潰すために足を上げようとしたその時
「おい」
先程までの死にかけのロンとは全く違う威圧感と怒り、強烈な力のこもった声が天狗の体を硬直させる
「どけろ」
天狗は直ぐにでも踏み潰そうとしたが体が直感的に後ろに下がる
(バカな……何故私は後ろに下がった…。……まさかこの小僧に恐怖しているというのか…この私が?)
ロンは死にかけでダラダラと血を流し腕も震えている、今なら一般人でも殴り倒せるだろう状態のロンに恐怖したこと事実に天狗は驚愕する
「あ"〜……気分がいい」
ロンは頭をボリボリと掻きながら立ち上がる
ロンの体は依然ボロボロだがロンは何故か全能感に満ちていた
「ありがとよ焼き鳥、お前のおかげで気づけた。できるなら一生気づきたくなかったが」
ロンが天狗に一歩近づくと天狗の額から大量の汗が噴き出る
「俺に足りなかったのは筋力でも運でも極みのコントロールでも無かった…」
天狗はたまらず手刀でロンの首を狙う
「待て」
ロンの鋭い目付きと強烈な殺気で天狗の体はつい止まってしまう。そんな隙を晒した瞬間天狗はヌンチャクで頭を打ち抜かれ、その攻撃を受けた箇所は骨が砕け肉が抉れている。
「俺に必要だったのはこれだ。…最初から俺に必要だったのは、極みどころか敵さえ支配する悪魔的支配力。走馬灯ってのは役に立つもんだな、ぶっ殺してやりたかったカスに今は感謝すらしてるよ。もちろんそいつがここに居たらぶち殺すが」
ロンは普段静かな方なのだが、死にかけでおかしくなっているのか、それとも覚醒してハイになっているのか、いつもより高揚した声でペラペラと喋る。
「さぁ…いくぞ。和の極み 『牌舞』」
先程までと変わらないスピードでロンは天狗に向かっていくが天狗の体は鉛のように重く動かない
「らぁっ!!」
和の極みの扱いの難しさのせいでロンは伸び悩んでいたが
「ぐぬぅっ……」
和の極みを支配し、和の極みの全てを完全に理解したロンにとっては
「ぐはっ、ごふっ…うぐぁあっ!」
至極簡単な事であった
「ツモ、大三元」
「舐めるなぁあ!!」
「遅いぞ、雑魚」
天狗の体が萎縮しているのか、それともロンの体が回復してきているのかは分からないがロンは天狗の攻撃を少しよろけるだけで避ける。そしてロンの攻撃は鳩尾、顎、こめかみと捉えていき、天狗の頭の上でくるりと回転して強烈なかかと落としを放った
天狗はよろけ、地面に手をつく
「ん?どうした小銭でも落ちてたか」
ロンはケラケラと笑いながらそう言う
「っぐぅ…!!」
天狗は風の壁を張る。どんなものも触れれば捻じ切れる風の壁、それが完成する前にロンは手をバリア内に突っ込んで天狗の首をつかむ。
バリアが完成した事でロンの腕はズタズタになるがそのまま天狗を離さない
ロンの瞳はいつにもましてギラギラと輝いていた
「芸がないな、つまらねぇ。」
するとロンは首を掴んでいた手を離す
それと同時に何故かロンは七福の銃を手にしていた
「はっ!?なっいつの間に」
遠くで待機し、戦いを見ていた七福が懐をゴソゴソと探り、「レンタル料足しとこ…」と相変わらずな調子で呟く
ロンはその一瞬で天狗に向かって撃つ。
銃弾は右鎖骨の上あたりに命中し疲労していた天狗は膝をつき命中した場所を抑え呻き声を上げる
「…〜っうぅぅ…ぐあ……」
「大人しく捕まれ、俺を今から殺そうがお前はもう終わりだ」
ロンは少し雰囲気が戻っている。極みによるブーストが切れたと同時に覚醒状態も終わったらしい
「私は……私はまだ終わってなど……」
「それ以上動くな、死ぬぞ」
ロンの同情のような言葉にオオテンは怒り狂い空へ羽ばたく
「私は終わってなどいないぃ!!貴様らをこの村諸共終わらせてやるっ!!!」
先程イナが受けた炎の竜巻が天狗の手に集まってゆく。が先程の攻撃よりも遥かに大きく膨らんでいくこのままではいずれ村ごと飲み込むだろうと思うほどだった
「っ……ロン!!!」
声を上げたのは治療の終わり駆けつけたイナだった。イナは折れた剣と盾を揃えて構えている
その考えをロンは即座に理解しイナに向かっていき剣と盾に足を乗せる
「お願いします」
「舌を噛むなよ、ヴァサラ軍としての意地をやつに見せてやれ!」
イナは剣と盾を上に振り上げロンを天空へと飛ばす
ロンはその勢いのままに天狗の左の翼を切る。が天狗はぐらついたものの落ちない。
その時妙に目立つ水色の頭を見つける
「七福さん!!」
「分かってんよ…来い!!」
七福はそういうと空中のロンに向かって両手を広げる。ロンは空中から体制を整えて七福に向かって飛び蹴りを食らわせようとする
「ちゃぁんと金払えよ」
「期待…はしないでくださいっ」
飛び蹴りは七福の顔面目前で止まる。ロンの服が木の先端に引っかかっている。その木はかなり柔らかかったのか勢いよく元の形に戻る。
その戻った勢いでロンは再び空へ舞い今度は天狗の右の翼を全力で斬る
「(頼む……落ちてくれっ…!)」
天狗は落ちない
「くっそ……」
ロンは青龍刀を咥え自分の頭を掴む
「(もう隠す意味なんてない、俺はヴァサラ軍だ。この村を守る。それだけだ…!!)」
するとロンの頭は胴体から離れる、だが胴体は動いている
「んんぅぅううううう!!!」
ロンの胴体は頭を天空へ投げ飛ばす。ロンは頭のみの状態で青龍刀を天狗の肩に突き刺す
青龍刀はぐちゅ、と音を立ててさらに奥へと突き刺さるが、天狗は高度を下げるだけで落ちない
「(どうする、どうするどうするどうするどうするどうする!)」
ロンは切り離した頭をフル回転させ必死に考える。そこで体の痛みが無いことに気づいた。
体はとっくに地面に激突し動かなくなっているはずなのに、その痛みは来ない
体の方を見るとノヴァが体を受け止めて立っていた
「行くぞ、お主の力、やつに見せてこい!!」
ノヴァは体をぶん投げる。すると空中で体と頭がくっつきそのまま天狗のところまで飛ぶ
「遅い!無駄だ!!死ね!!!」
炎の竜巻がロンに向かう
「運の極み…」
「天鎧盾術…」
「「偉神守!!!!(イージス)」」
ロンを2人の共鳴によって発生した青のオーラが包み炎の竜巻を打ち消す
「和の極み…『牌舞』…!!!」
ロンはオオテンを通り越し背中を狙い定める
「なぁっ…やめっ」
オオテンがロンを目で追い振り向くがもう遅かった
そこには烈火のごとく燃え盛るオーラに包まれるロンが拳を構えていた
「天保…国士無双…!!!!」
全オーラを拳に宿しオオテンの顔面に思いっきり、ロンの中にある全ての力を込めて拳を打ち込んだ
「……がっ……ぐぅっ…」
天狗が体に纏っていた炎の風がロンを狙う
「っ……うぅ…あああああ!!!!」
ロンは引き剥がされたがもう一度拳を天狗の腹に打ち込み、そのまま天狗を地面に打ち付けた、地面は凹み小さなクレーターのようになっている
天狗は、気を失っている
落下中のロンだが落下地点に巨大なクッションのようなものが投げ飛ばされ、無事に着地する。
「ようやく仕事をしたか…サボり魔の四字熟語辞典め」
ロン達がいる随分先の崖の上にある居酒屋の付近にナムとネラと呼ばれる特殊な模様の包帯を巻いた男が立っていた
「唯我独尊め、こんなことに俺を使うとは……まぁいいか。貪夫財殉、飯の続きだ。行くぞ」
「うぃ〜…」
これにて、ロンのモミジの村での任務は完了した。天狗とカラメ、ナガレを捕縛し後から来たヴァサラ軍の隊員に引き渡した。
ロンは疲弊しきった体で七福、ノヴァ、イナに頭を下げてお礼をした。
「協力ありがとうございましたっ……」
「ほんっと重労働すぎんよ…こりゃあ多額の請求しねーと割に合わ」
「黙れ恥さらしが。…気にするな、ロン。我々が協力すると言ったのだ頭など下げなくて良い」
イナは七福の口を塞いで言う
「我は自分から首を突っ込んだからな、気にする事はない。……さて我は用事がある。帰らせてもらうぞ」
「本当にありがとうございました…」
そして皆は解散した。ロンは六番隊で治療を受け、今回の件を報告した。
「よくやった、あとは休め」
ラショウからそれだけ労いの言葉を貰い、ロンは絶対安静とされ六番隊に入院することになった
おまけ
「ロンさん、大丈夫でした?」
「なんとか無事だが……お前こそ大丈夫か?サイチュウ」
今回同行する予定だったサイチュウは大量に包帯を巻いた状態でロンの隣で横になっている
「ええ、なんとか。つい先日イザヨイ島に行ってたんですが、その時に少し襲われただけです。俺が負ったのは火傷に裂傷…あとは平衡感覚の麻痺くらいです。」
「結構な重症だろそれ」
「大丈夫です、それより任務行けなくてすみません。」
「なんとかなったから大丈夫だ…」
「アンタら絶対安静の意味わかってんの?寝なさい」
「「ハーイジョウオウサマー」」
「さぁて、貪夫財殉。お前との契約もここまでだ。久々の大人数での食事は中々美味であったぞ。」
「はいよ〜♪…ねぇ、稼ぎのいいとこない?」
「…ならばイザヨイ島に行ってみろ、イカれた奴らがイカれた依頼をしてくる。とんでもない金額でな」
「マジィ?そんな天国みたいな島あんの?」
「天国というより地獄だがな。まぁ我の言葉に偽りは無い、とにかく行ってみろ」
「へいへ〜い、お世話になりましたっ☆じゃね〜」