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はたちの誕生日に死のうと決めていた

突然だが私ははたちの誕生日に死ぬ予定だった。
結論から言うと死んでない。生きている。

初めて自分の死を望んだのは小学5年生の頃だった。
洗面台の前に立って、タオルで首をきゅっと締めてみた。

人間そう簡単に死ねないので、親に見つかってめちゃくちゃ怒られた。

中学生に入って、高いところから飛んでみたいという衝動に駆られることがあった。

ジェットコースターが苦手なので絶対楽しくないだろうと思った。

中学3年生のとき、転校生がやってきた。
隣の席の女の子。

「私、レッグカットしてるの」

ある日彼女はそう言った。
彼女は夜な夜な太腿にカッターを滑らせているらしい。

何故私に話したのか。
構って欲しかったのか。
理由を聞いて欲しかったのか。
心配して欲しかったのか。
私にはわからなかった。

いまさら確認する術もない。

私はそういう自分に傷をつける行為はする気になれなかった。
見つかったらめんどくさい。

「どうしたの?」

と聞かれるのも、

「何かあったの?」

と聞かれるのもめんどくさい。
特に何もないから。

とりあえずはたちまで生きて、はたちの誕生日にお酒とタバコを経験して、それから死ねば良いや。

みたいな。そんな考えで生きていた。

高校生になって歌を歌うようになった。
いつしか作詞作曲までして、ライブハウスに出入りするようになった。

「あなたの歌が好きだよ」

と言ってくれる人もいて、花束をもらったりもした。
楽しかった。
歌っている瞬間だけはまだ生きていたいと思った。

しかしライブハウスで音楽を続けていくのは難しい。

大抵のライブハウスには「ノルマ」というものがある。

チケット代1500円でノルマ7枚だと、1500円のチケットを7枚売ってください。ということ。

このくらいのお客さんは入れてね。
というライブハウスとアーティストの約束みたいなもの。

では7人来なかったら?

来ない分は自腹。
例えば3人しかこなかったら4人分6000円が自腹。
あと当たり前だが交通費とその日の食費も自腹。
場所によっては機材代で+3000円とか、そういうところもある。
1人も来なかったら1万を超える。

いくらお金があっても足りない。

じゃあ7人を超えたら?

これはライブハウスによる。
何にもないところもあれば「バック」「チケットバック」と言って8人目からのチケット代を受け取ることができたり、8人目からのチケット代の何割かを受け取ることができたりする。

売れてない。ということはお金がかかるのだ。
これがスリーピースバンドとかだったら3人で割れるのだが、私は1人だった。バイトのシフトにたくさん入らない私は本当にこのノルマに苦しめられた。

いつしか音楽をTwitterやYouTubeでするだけになってしまった。
それでも「生きている」のは苦ではなかった。

はたちの誕生日が近づくにつれ、

「このまま死んでしまうのはなんとなく勿体ない」

そんな気がしていた。

「そういえばピアスを開けたかったんだ」

ふと思い立って、病院に電話をして、誕生日にピアスを開ける予約をした。
両耳で5000円だった。ノルマより安い。

ピアスを開けるのはまじで痛かった。
本当に痛かった。

しかも数週間経って左耳が腫れた。
血が溜まって固まったとかなんとかよくわからない説明を受けて血が溜まっているところを切られた。
これがまた痛くて痛くて。

もう2度とピアスは開けない。

「死にたくて死ぬ計画を立てていた私が死ぬ日」

と言う意味で開けたピアス。

死にたい夜はあるが、死ぬ計画はもう立てない。