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暗箱奇譚 第12話【完】

 こうしてやっと自分を取り戻した今、今度はこれからのことを考える。自分がなんであるかを理解したのに、何を迷っているのだろう。人としての人生に未練があるのだろうか。いや、今までのことを振り返ると、未練どころか恨み言ばかりだったじゃないか。
 あんなにひねくれてしまったのは、長い間独りで見続けた結果だった。狂った世界に、狂った人間達。自分で決めた事なのに、あんなに闇堕ちするとは思わなかった。
 そんな中、俺の前にニカは現れた。ニカは俺にとても優し———あ!!

「なんて恥ずかしい事を!!」

 俺はベッドで悶絶した。あろうことか、俺は守るべき主に告白し、振られた腹いせをぶつけてしまったのだ。いくら記憶がなかったとはいえ酷すぎるし、恥ずかしいし、情けない。
 こうして自分の黒歴史に触れ、俺は何度目かの後悔をしている。ニカのことだから、軽く流してくれているが、とんでもない事をしたものだ。合わせる顔がない………。
 本来ならば、自覚をしたあの時に直ぐ謝罪しなくてはならなかった。まあ、あの時は酷くバタついていたし、一刻も早く呪いを何とかしなければならなかった訳で。
 それも片付いた今、俺は守護者としてニカをノブナガと共に仕えるのが筋だが。

 始末屋のことが気がかりだった。
 ニセモノの神による怪異はおさまったけれど、もともと怪異は発生していた。それは歪んだ世界による影響(バグ)だと思うが、いくら神のシステムを持つAIが管理することになったとは言え、すぐに正しい形に戻るわけではない。長い時間が必要だ。その間にも怪異は起こる。
 守護者である今の俺は、以前とは比べものにならない力を取り戻した。ノブナガほど攻撃に特化してはいないが、そこらの人間よりは役に立つはずだ。なんせ、神を守れるほどの力を持っているから。(とはいえ、神技に敵わずニカを死なせてしまったが)

 足を引っぱってばかりだった俺が、ようやく始末屋として役に立てられそうだ。ニカには、しばらく始末屋として暮らすと伝えよう、そう思ってようやく眠りについた。
 眠りに落ちながら、俺はぼんやりとニカの店には怪異の情報が集まると、先輩が言ってたのを思い出していた。ゆがみを正そうとするものの元に、ゆがみである怪異の情報が集まるのは、なかなか面白い話だな……と思った。

 ———後日。
 俺はニカの部屋にいた。相変わらずニカもノブナガも和装だ。ニカは和装を着崩していて、もう少しキチッとしてほしい気持ちはある。
「へえ、始末屋として暮らすんだね」
「うん。………勝手言ってゴメン」
「ううん。折角だし、満喫しないと」
「ありがとう。ニカはノブナガと一緒にここに残るの?」
「今の所はね。気が変わってどこか行くカモだけど」
 ニカならどこに行っても楽しく過ごせるだろう。なんとなく、1つどころに留まらない気はしていた。
「ノブナガ。ニカのことを頼む」
「………ああ。こっちのことは気にするな」
 俺は二人と別れて、始末屋としてしばらく過ごすことにした。いきなり力を使うと疑われるので、修行したということにして少しずつ力を解放しながら。
 こっちに戻って来た先輩と、再び組んで仕事をしたが、多分先輩も俺のことを不思議に思いながらも、なにも言ってこなかった。ただ、力よりも、俺の性格が落ち着いたことに恋人でも出来たのか?と疑われていたのには閉口した。

 そんな生活を送っていた、ある日———。

「こんにちは、羽鳥さん」
「え………おま………なんでここに?」
 そこには、あの夜見がいた。あの日以来だ。
「実は、こちらに配属が決まっていたんですが、使者にされてしまって。その節はご迷惑をおかけしてすみません」
 ぺこりと頭を下げる。俺が呆気にとられ口がきけないでいると、先輩がフォローしてくれた。
「もうあんな事にはならないから安心してくれ」
「は、はあ」
「じゃあ、夜見の面倒を頼むぞ、羽鳥パイセン」
 先輩はからかうように言って、俺の背中をポンとたたき去って行った。———え?面倒?
「よろしくお願いします。羽鳥パイセン」
「………え」
 俺は、この瞬間、夜見の先輩として面倒を見ることになったようだ。万年人手不足の始末屋に、人材が派遣されるのはありがたいが、あの夜見………。いや、彼はAIに操られていただけで、本来の彼の行動ではない。とは分かっているがどうしても警戒してしまう。
 
 このあと、俺は夜見と組んで様々な怪異と対峙することになるが、それはまた別の話———。

 夜見と組んで、仕事をすることになってからニカの店に連れて行くと、ニカは相変わらずの様子で出迎えてくれた。ノブナガは、俺と同じく夜見に警戒はしていたが。
「夜見くんは、使者の時の記憶はあるの?」
 ニカがさり気なく聞くと、「ええ……まあ」と、夜見は答えた。
 え?記憶あったのか。マジか。
「大丈夫です。羽鳥パイセンの事は内緒にしてます」
「………どうも」
 俺は、なんとも言いがたい感情を押し殺して礼を言った。俺のこと分かってて黙っていたのか。早く言って欲しかった。人間のフリしてるのバレバレだった。
「じゃあ、俺が人間じゃないって分かってて組んでるの?」
「はい。始末屋の中でダントツ強いので安心です」
「あ、そう………」
 そういう意味で組んでたのか。夜見の人となりがなんとなく分かってきた。
「そういえば、ここは怪異の情報が集まるようですね。何か聞かせてください」
 夜見が話を振ると、ニカの目がキラキラと輝いた。………その手の話が好きなのか?
「いいよ。これはとある地方都市に現れる鬼の話なんだけど………」
 ニカは、様々な怪異をよく知っていた。しかも語り部としても優秀で、しらずと話に引き込まれてしまう。そんなこんなで、夜見と俺はニカの店に行くたびに、その手の話を聞かされることになった。嘘か本当か分からないけど、実話としての怪談を———。



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