長い、長い、休日 第13話
【カネチカの話3】
俺が家に戻ると、まだ先輩は帰ってなかった。どこに行ったんだろう?気配を探るが分からなかった。仕方がないので、タナカに聞くことにした。奴隷なら主の居場所は把握しているはずだ。
「タナカ…さん。先輩はどこ?」
いくら奴隷になったとは言え、いきなり呼び捨てはどうかと思って一応「さん」付けした。
「分かりません」
「なるほど。先輩に口止めされてるのか」
「いいえ」
「え?じゃあ本当にわかんないの?」
「はい」
しれっと答えるタナカの態度に、引っかかるものを感じたが、これ以上聞いても答えてくれそうにないので、もう少し待ってみることにした。先輩に似合いそうな服を沢山仕入れたので、ファッションショーをして貰わなければ。早く帰ってこないかな。
と、俺がワクワクしていると、タナカが深いため息をついていた。
「なに?」
「……なんでもないです」
タナカは最初に会ったときから、表情が乏しくて感情がよく分からなかった。先輩の奴隷になってもそれは変わらず、むしろ酷くなってる気がする。
「いいから言いなよ。気持ち悪いから」
「失礼しました」
そう言うと、自室に戻ってしまった。なんなんだ一体。
「ま、いっか。———にしても遅いな。先輩に限ってとは思うけど…」
今は原生生物(ヒト)のガワだし、もしかするとガワの関係者に接触されたのかもしれない。眼鏡で補強はしているけど、本来の力を使えるわけではない。例え違ったとしても、こんなに遅くなる理由はない。何か良くないことが起こったのかも。
例の池の周辺は今は立入禁止になってるが、もの好きな連中がやってきては追い払われている。そこで亡くなった人物が外を彷徨いてるのを見られるのはマズイ。まあ、そんな事は先輩だって十分分かってるはずだ。
そんな状況なのに、長い時間帰ってこないとなるとよほどのことがあったのだろう。いや、だとしたら奴隷のタナカが何か行動を起こすはずだ。アイツは今、自室に籠もっている。ということは、身の危険はないと言うことか。
「うーん。もう少しだけ………って、やっぱ捜そう!」
そう思って家を出ようとしたとき、先輩が戻ってきた。
「先輩!どうしたんですかこんな遅………」
俺は言葉に詰まった。
先輩の様子がおかしかったからだ。
「先輩?」
「カネチカくん。遅くなってごめんね」
先輩はそう言って俺から離れる。無意識に俺は先輩の腕を掴んでいた。
「先輩、何があったんですか?」
「………何もないよ」
目を合わせてくれない。これは先輩が嘘をついているときのクセだ。
「先輩。俺には言えないことですか?」
言えないことは誰にだってある。俺にも。
だから、俺は極力聞かないことにしている。先輩は特にそういうことがあったから、あえて聞かなかった。でも、言って欲しい。俺は知りたい。
困らせるから聞かないけど、本当は言って欲しい。
それでも、言えないなら俺は聞けない。
「カネチカくんには、嫌な思いをさせてばかりだな」
先輩はようやく俺を見つめた。その目はいつも悲しい。
「嫌じゃないです。先輩は俺のことを考えて言わないだけです」
「カネチカくん。俺は君が思うような奴じゃないって言ってるだろ」
「俺が先輩をどう思おうと自由です。例え先輩の言う意味と違ってても」
これは、俺の本当の気持ちだ。先輩は、俺が思い描く人物ではないと拒絶する。最初は謙遜しているのかと思ったけど、本心だと知って俺は悲しかった。
距離を置いているのは先輩だ。
俺は先輩が好きだけど、先輩は俺が好きじゃない。
その事に気付いた時、すごく悲しかった。
でも、嫌っているわけではない。と分かったので、それだけが救いだ。
「言いたくなったら教えて下さい」
何度この台詞を繰り返しただろう。その度に、先輩を困らせる。
「………うん。じゃあ、頼みがある」
いつものパターンと真逆だったので、俺はポカンとしてしまった。
「え?あ。はい!」
先輩が俺を頼ってくれた。そのことに俺の胸は高鳴っていた。
「今すぐ俺のガワを調べてくれ。おかしいんだ」
どういうことだろう?と思ったけど、完璧に修復したものの、先輩がここまでいうのなら何らかの異常があったのだろう。俺は先輩を空き部屋に連れて行きベッドに寝かせた。
「………どこも異常は………ん?」
何だろう。この異常な密着具合は。ガワと先輩が癒着してるみたいだ。これじゃあ外せない。
「先輩………なんでこんな。ガワが癒着してます」
「そうか…。やっぱ罠だったか」
何の話だろう?と、思った時、先輩はとんでもないことを言った。
「船が地球へ落下したのも、俺が呼び出されたのも、マサキがあそこにいたのも全部。始めから仕組まれてたのか」
マサキって誰なのか分からなかったけど、あの事故は意図的に仕組まれたことらしい。先輩が原生生物(ヒト)と癒着してるのにも関わっているようだ。
一体誰がこんな事を?何のために?
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