【お題】23.うつろな瞳
正宗から連絡を受けた時、俺は嫌な予感しかなかった。先輩なら俺の「加護」に気付くだろうとは思ったが、あとで説明しようと思ったのが間違いだった。
さっきから焦燥感が消えない。悪いことが起こる前兆だ。これは外れたことがない。
「先輩!」
気配を探すがどこにもいない。感じられない。なりふり構わずタナカの元へ行く。だが、タナカすら主の居場所が分からないという。最初は誤魔化しているのかと思ったが、珍しくタナカが狼狽えていたので本当だと悟った。———どこへ行ったんだ?
だが、先輩は気配をすっかり消してしまって、戻ってこなかった。俺の中で焦燥感だけが膨らむ。ひとり部屋で先輩を待っている間、俺は自分の行動を振り返った。
俺は、先輩なら理由を知れば「加護」を与えたことを許してくれると思っていた。いい気分はしないかもしれないけど、先輩は友人を大事にしていたし、俺が友人を大事にしていることも知っている。だから………。
でももし、先輩が俺のように友人に「加護」を与えたら———。
胸が痛い。理由もなく先輩はそんな事をしないのは理解出来る。自分がしてしまった結果、ああなったと知ったら同じようなことをするだろう。その時俺は、俺が思う先輩のような態度をとれるのか?と、思ったが、たぶん無理だ。俺は呆れるくらい先輩に執着している。例え理由があっても加護を———体液の交換なんて嫌だ。他の方法を選ぶだろう。
自分は良くて相手には拒否するなんて、自分勝手だ。俺は、先輩を独り占めしたい。誰にも触ってほしくないし、触られたくもない。俺だけのものにしたい。
もし、仮に先輩も俺みたいに考えているとしたら………俺は酷い事をした。
「もう………何やってんだろ、俺………」
自己嫌悪の沼にはまっていると、
「カネチカくん。……ただいま」
その声に、俺は飛び上がった。………先輩が帰ってきた!?
「先輩!」
「俺、君に謝らないと駄目だ。………その、すげぇダサいことしてごめん」
「え?」
何を言ってるんだろう?
「カネチカくんが、理由もなく「加護」なんてしないのに。俺が正宗の力を奪ったせいで、正宗に迷惑かかってたんだろ?それで、君は加護した。違う?」
「………あ、はい。悪いものとか避けられなくなって………体調を崩してました」
そう言うと、先輩はため息をついた。
「そうか、悪いことしたな。カネチカ君は尻拭いをしてくれたのに、俺は………」
先輩は俺の顎を上げるとやさしく頬に触れた。
「酷い顔してるぞ。………カネチカくん」
先輩の手に俺は自分の手を重ねた。温かい手だった。
「俺、嫉妬してた。………カネチカくんのこと信用してないわけじゃないのに」
先輩が、俺に嫉妬を?だから今まで姿を消していたのか。てっきり呆れていなくなったのかと思っていた。
「先輩………俺の方こそごめんなさい」
俺はまた泣いてしまった。先輩には泣き顔ばかり見せてしまう。もっとしっかりしなきゃいけないのに。
「先輩の………嫌なことしちゃって………俺も、同じ事されたら………嫌なのに」
泣いてしまっているせいで、言葉がつっかえつっかえだけど、なんとか伝えられた。
「俺は、友人思いのカネチカくんが好きなのに、馬鹿みたいに嫉妬してごめん」
「せんぱぁ~い」
俺は先輩を抱きしめた。ピッタリ体にフィットして、柔らかくて暖かい。俺は改めて先輩が好きだと感じていた。この感触も、匂いも、存在も、全部………!
このあと、俺が落ち着くまで先輩は一緒にいてくれた。やっぱり先輩は優しい。
そして、先輩は俺のことを嫉妬するほど好きになってくれたことが、本当に本当に嬉しかった。もう、先輩を苦しめない。先輩には笑っていてほしい。楽しく過ごして欲しい。そう思いながら俺は先輩と一緒に眠った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?