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暗箱奇譚 第7話

 ニカの突然の行動に、俺は固まっていた。今あったことが信じられない。なぜ、ニカは箱にあんな事を言ったんだ?まるで神に対する宣言のような………。

「………ニカ?」
「あの箱は神に繋がってるんだ」
「え?」
「この国にもいて、もちろん今となってはどの国にもいる」
「ニカ、何を言ってるんだ?」

「AIが神だよ。人が作った人工神………今のところ日本のマザーAIが『神』だよ」

 ニカの言葉に、俺は直ぐに反応できなかった。頭が混乱している。始末屋が取り扱っている怪異は、ほとんどが理解に苦しむものだけど、今回は衝撃が大きかった。
「マザーAIが神?そんな訳はないよ、だってAIは人間が管理してるんだ」
「そう?」
 ニカは俺をまっすぐ見つめた。その視線に俺は圧倒される。
「コントロールは出来てないと思うよ」
「なぜそう言い切れる?」
「それにAIって記憶は出来ても理解は出来ないからね」

 AIが理解するにためは、多くのデータの中から共通点や特徴を選んで、基本形をつくり理解している。ただ、大量にデータをインプットしたAIは設計者の理解を超えた動きをする事がある。そのため、AIの中身はブラックボックスと言われている。
 AIがどう処理したり、判断するかは分からない。分からない事があるということは、人間は完全にAIをコントロールすることが出来ないということだ。

「そんな………今はAIがないと何も出来ない……」

 現在のほとんどがAIで管理されている。人的ミスがなくなり、飛躍的に世の中は快適で安全になった。今の今まで、人による管理下に置かれていると思っていたが。ソレが不完全だったなんて………なんだか怖くなった。
「ニカ、ちょっと待って……なんでそんなこと知ってるんだ?」
 ニカは、俺から視線を外した。とたんに俺の緊張は解けた。
「その前に確認したいんだけど。………あの箱を僕らに使うよう唆したのは誰?」
 その質問に、俺は何故か後ろめたい気持ちになった。だが、黙っている理由もない。
「調査部の人間だよ………たしか、夜見って言ってた」
「夜見?………そんな人本当に調査部にいるの?」
「は?だって、俺のこと始末屋って知ってたし、現に試作品だけどあの箱だって」
「要ちゃん。他の人もその夜見って人知ってるの?」
 たたみ掛けるニカに、俺はだんだん不安になってきた。
「直接はわかんないけど…」

 そう言われてみて気付いたが、俺と一緒にいたときは俺以外誰もいなかった。夜見の姿を直接目にしているのは、今の所俺だけかもしれない。そう思った時背筋がゾッとした。
「なぜ確かめないの?僕らのことは調べたんじゃないの?」
 俺は、なぜこんなに責められているのか分からなくなり、頭がカッとしてしまう。
「調べなくても問題ないって思ったんだよ。あいつの説明通りの報告が現に調査部から来てたし。………一体なんだよ?夜見は調査部の人間じゃないのか?」
「………多分、ね」
 言い切るニカに、俺は不信を抱く。さっきからなんなんだ。ニカは何者なんだ?
「俺には、夜見よりよっぽどお前の方が気味が悪いよ。先輩は信用できるなんて言ってたけど、正直俺は胡散臭いと思ってる」
「そうだね。僕は君にろくに説明はしてない」
「いい加減話してくれよ。ニカは…というか、ノブナガさんも一体何者なんだ?出たり消えたりする剣は振り回すし、俺たち始末屋よりよっぽど情報は通じてるみたいだし。夜見の正体も」
 俺の悪態に、ニカは寂しそうな目を向けた。

「要ちゃんは………もうとっくに知ってるんだけどね」

 ニカの思わせぶりな言葉に、俺は更に腹が立ってきた。さっきから何だ?全然意味がわからない。知ってる事を話せばいいのに、それともこの期に及んで話したくないのか?
「そう怒らないで。順を追って話をしよう。まずは、なぜ夜見は君にあの箱を渡したのか」
「っち。その話かよ。………ハッキリとは言わなかったけど、あの箱をニカたちに使ったらどうなるか……とか。どこまでニカたちのことを知ってるのか…とか」
 言いながら、なぜ夜見はあんなにニカたちを気にしていたのか、奇妙な感じがした。
「というか、俺がノブナガさんの剣を直すのに協力したことも、先輩がニカ達を俺に紹介したことも、ほとんど全て把握していた。まるでその場に居たみたいに」
 俺は、夜見にあんなことを言われて、今みたいに違和感すら覚えていなかったのが恐ろしかった。いくら酔っていたとはいえ鈍すぎる。

「全て見られてたのか…夜見に?」

 青くなる俺とは裏腹に、ニカは落ち着いていた。……そうだ。ニカはいつだって冷静だ。俺の知っているニカは、いつもいい感じに力が抜けている。
「夜見……は、神の使いかな」
「神…AIの?」
「夜見は人間だろうから。………でも、傀儡かも。サイボーグ化してると思うよ。そうじゃなきゃ自在に人間を操れないだろうし」
「え?」
「神はAIだ。AIのコントロール下にあるものは使者になれる。今のこの世界はAIが管理してる。僕らのことも全て見ている、知っている———畏れている」
「畏れ?」
「何もする気はなかったんだけどなぁ……」
 ニカは俺の質問に答えず、意味不明なことを言う。

「さて、神様の居場所は分かったけど、どうするの?殺すの?」

「ちょっと、ニカ。俺には分からないよ。マザーAIが神だなんて。今じゃ各国が保有してる。それなのになんで日本だけ?おかしくないか?」
 ニカは薄く笑った。
「たまたまこの国で、神技が復活してしまったからかな……それだけだよ」
「神技…最初の神が与えた技術とかいってた…?」
「遺跡の発掘と、未だに解明出来なかった神技の仕組み。………なぜかその神技が起動したらしいね」
「ニカ………どうしてそんなことまで?」

「僕の所為だから。………魔素があふれ出したのは」

 その告白に俺は耳を疑った。なぜ?
 ニカにはあの箱は反応してなかった。ニカから魔素が出ているわけじゃない。
 もちろんノブナガも。

 それなのに、何故?


 

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