見出し画像

【お題】3.雷雨

 タナカもカネチカも不在のある日。
 
 俺はソファに寝そべりながら、映画を眺めていた。いつの間に寝てしまったのか、気付くと部屋は暗く、画面も何か別の物が流れている。
 時間は19時過ぎ。あくびをしながら俺はカーテンを閉めようと窓に近づいた。………と、突然辺りが光る。そのあと直ぐに腹に響く雷の音が聞こえた。
「……びっくりした」
 そう言ってカーテンを閉めると、土砂降りのような雨が降る。ひとり留守番をしている夜に雷雨とは。あんまり気持ちのいいものじゃない。
 部屋の電気を付けて、念のため戸締まりを確認して、俺は気分転換もかねて風呂に入ることにした。カネチカほどじゃないが、風呂は割と好きだった。

 雷雨の音が大きくて、テレビの音が聞こえにくい。俺はテレビを切って、風呂が沸くまでごろりと横になった。こういう態度がタナカには「ぐうたら」しているように映るらしい。
 今までしていたことは、好きでやっていたわけではないし、かといって何か新しいことをしようという気すら湧かない。………そもそも俺には何が出来るんだろう?
 ぼんやり考えていると、風呂が沸いたようだ。

 全て洗い終わって、ゆっくり湯に浸かっていると。
 パチン!
 という音と共に、電気が消えてしまった。突然の暗闇に一瞬動揺したが、いずれ復旧するだろうと考え直して、俺はそのまま湯に浸かっていた。相変わらず雷雨は収まる気配はない。

 真っ暗な中、風呂に入った経験はなかったので、なんだか変な感じだった。目を開けても閉じても何も見えないので、俺は目をつぶった。………あれ?
 俺は目を開けた。相変わらず真っ暗だ。しかし、何かの気配を感じる。
 今は、俺一人のはずだ。この家には俺以外誰もいないのだ。
 なのに、なぜ気配を感じるんだ?
 
「ひ!」
 嫌なタイミングで、俺の首筋にぽたりと水滴がおちた。俺は情けない声を出してしまった。
 と、不気味な気配がこちらに向かってくる。
 なんだなんだなんだ?!俺は身を固めて、得体の知れない気配に構えた。

 バン!
 勢いよく浴室のドアが開けられ、何かが入って来た。——不審者!?
「ぎゃ!」
 突然俺の目の前に光が当てられ、俺はまた情けない声を上げた。目がぁ!目がぁあ!

「………主様。大丈夫ですか?」
 その抑揚のない声に、俺は一瞬で緊張が解け、そのとたんブクブクと浴槽に沈んでしまった。
「主様!?」
 流石に驚いたのか、沈む俺の頭を(頭って!)ひっつかんで引き上げた。
「げほげほ!」
「入浴中に寝るとヘタしたら死にますよ」
「………タナカくん。頭、離して…」
 なんとか解放され、俺はようやく息をついた。携帯のライトで俺をあてているのは、タナカのようだが真っ暗で見えない。
「今夜は帰ってこないんじゃなかったの?」
「停電になってるって知って飛んできたんです。………来て正解でした」
 どうやら心配して様子を見に来たらしい。が、扱いが酷くないか?
「声かけてくれよ。ビックリしただろ」
「浴室から変な声が聞こえたので、様子をうかがってたんです」
「君なら俺の居場所分かるだろ」
「そうですね」
 くそ、絶対驚かそうとしたな!と、思ったが俺はあえて言わなかった。
「上がるから俺を当てなくてもいいよ」
「はい」
 そう言ってタナカはライトを消した。………いや、足下当てて欲しかったな。
 仕方なく俺は真っ暗な中、なんとか浴槽を出て着替えを探す。手を伸ばすと…
「何です?」
 タナカに触ってしまった。
「着替え探してるの。ライト点けてくれ」
 と、目の前に強烈な光が。
「ぎゃ!」
「オオゲサですね」
「足下を当ててくれ。目が………うう」
 俺が二度目のムスカになってると、タナカがタオルを渡してくれた。まだ目がチカチカする。
「なかなか、復旧しないな」
 俺が体を拭いていると、タナカもタオルを取り出して俺の頭をガシガシ拭く。もっと優しくして欲しい……。荒々しいぞタナカくん。
 そんな俺の不満が伝わったのか、タナカが答える。
「主様の毛量が多いのでこれくらいしないと」
「俺って毛の量多いの?」
「毛量が多い人って性欲強めらしいですよ」
「えっ!………俺の体じゃないからな!元の持ち主がそうだって事だからな!」
「何動揺してるんですか、図星でしたか?」
「タナカくん!そういう事言わない」
「はーい。主様はシャイですね」
「シャイじゃないし!」
 と、言い合っている内に、パッと電気が復活した。
 ホッとする俺たちの目の前に、寂しそうに立っているカネチカに同時に驚いた。

「………カネチカくん。いたの?」
 俺が声をかけると、こくんと頷いた。
「いつから?」
「………タナカさんが浴室に入ってからです」
「なんで声かけなかったの?」
 俺の質問に、カネチカは辛そうな表情を浮かべた。
「すごく………楽しそうだったから………」
 カネチカは声をかけるタイミングを逃してしまったようだ。彼も心配して来てくれたようだ。なんか、悪い気がしたので、特別に俺の方から抱きしめてあげた。

「先輩………いいんですか?」
「もちろんだよカネチカくん」
 俺はカネチカの髪を撫でた。………が、今俺は素っ裸だったのを思いだした。
 まずい!
 と、思った時はすでに遅し………!

「じゃ、僕は戻ります」
 タナカは「性欲強めですね」という目つきで俺から離れた。待て、違う誤解だ!俺は、抱きしめた行為に対して答えただけで、ソッチの意味で言ったんじゃないんだ!!

 ———という心の叫びは、雷雨にかき消されていた。
 カネチカくん、今夜は用事があったんじゃないのか………!?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?