3-13

 ご飯を食べながら、昨日のことを思い返した。

 マクヒョンに感じ悪くしたこと、酔って帰って、ヒョンに話は明日にしようって言われたこと。

 それと……。

 勝手に一緒に眠ったこと。

 そこまで思い出して、今さらハッとした。

 スープが変なところに入って、むせる。

 僕が咳き込んでいると、ダイニングに入ってきたマクヒョンが背中を叩いてくれた。

「ゆっくり食べなよ」

 そう言って冷蔵庫から出した水をくれる。

「はい」

 ヒョンはそのまま出て行くと思ったのに、僕のそばの椅子に、腰掛ける。

「ヒョンご飯は?」

「もう食べたよ」

 ヒョンは僕のそばで、スマホいじってる。いつもなら、自分のマットで寝転がってやってることだ。

 それなのに、用もないのにダイニングの椅子に座ってるなんて、なんか不思議だ。

 ヒョン、何か言いたいことがあるのかな。

 昨日の話、しないと。ちゃんと謝らなきゃ。

「あのね、マクヒョン」

「ん?」

 ヒョンがスマホから顔を上げる。

 視線がぶつかっただけで、どきんっと心臓が跳ねる。

「昨日のことなんだけど……」

「うん?」

 ヒョンが頬杖をついて、僕をまっすぐに見てる。

 話そうと口を開いたけど、よくよく考えたら、ただ謝らなきゃっていう以外、ノープランだった。

「ヒョン、ごめんなさい」

「うん?」

「あの、ヒョンに嫌な思いさせて」

「……もういいよ、昨日も謝ってくれたじゃん」

 ヒョンの反応は、なんだそんなことか、って感じだった。

 ヒョンがあっさりと承諾してくれて。

 ありがたいような、なんか寂しいような。

 僕はやっぱり自分の気持ちがわからない。

 ジニョンイヒョンみたいに、食い下がって欲しかったのかな。そうやって気持ちを話すしかない状況になること、どこか望んでたのかな。

 あんまりうだうだと考えたくなくって、僕はご飯に集中することにする。

 ヒョンも、隣に座ってるけど、スマホに夢中みたいだし。

「あのさ、ユギョミ」

「はい」

 僕が食事を終えた頃。スマホに視線を落としていたヒョンが、僕を見る。 

 これ見て、ってスマホでも見せるのかと思ったのに。

 その目があんまり真剣で、悲しいような顔してて。びっくりして息を飲んだ。合った目が離せない。

 

「ユギョミ、また俺のせいで辛くなっちゃった? 俺がユギョミに辛くさせてんのかな?」

「えっ」

「昨日のユギョミ、すごい辛そうに見えたから。また俺が何かしたから、俺のせいなんだと思って」

 そう言って、マクヒョンが冷たい手で僕の手をぎゅっと握った。

 そんな風に、ヒョンが考えるなんて。

 思ってもいなかった。

 そっけなくして、感じ悪くしたのは自分でわかってたから。

 ムカつかれたと思ってた。怒られるって思ってた。

 心配してくれてるだなんて、想像もしてなかった。

「謝るのは、俺の方なんじゃないの? でも分かんなくて」

 先に目を逸らしたのはマクヒョンの方だった。うつむいて、唇を噛んでる。

 びっくりして、ドキドキして、言葉が出てこない。

 ヒョンに、謝ってほしくなんかない。

「違うよヒョン、マジでヒョンは悪くないから」

「でもさ」

「ほんとにほんとに、謝ったりしないで、ヒョン。悪くない」

「そうなの?」

「ごめんなさい、ヒョンにそんな思いさせて」

 僕はヒョンが握っているのと反対の手で、ヒョンの手を握った。反対の手もやっぱり冷たくて、ヒョン寒いのかなって思う。

 一緒に旅行した日だって、酔ってつい口が滑ったことだった。

 そのことを、ずっとヒョンが気にしていたなんて、考えてもいなかった。

「ユギョミ……俺には言わないじゃん。辛いこととか、悩みとか。あっても、一緒にいても。相談する相手は、俺じゃないじゃん」

「えっ」

 ヒョンがとつとつと話す言葉に、意表を突かれた。

「俺が頼りないから……しょうがないけど……昔はなんでも話してくれたじゃん、でも、昨日もジニョンイには話せても、俺にはダメじゃん」

   ヒョンの言葉に、胸が締め付けられる。

   そんなつもりなかった。

   仕事のこととか、学校のこととか、ヒョンにこれまで話して来たし。

   ただ、僕がヒョンに話せなかったことは、恋の事だけだ。

 ふわふわとした憧れが、いつの間にか本気の恋になって。

 好きでいられるだけで嬉しかったのに、悩むようになって。

   そうやって抱えきれなくなった時は、マクヒョンの側にいられなかった。

 そんなこと、ヒョンは何にも気にしてないと思ってた。気がついてすらいないと思ってた。

   ヒョン、いつからそんな風に考えてたの?

   僕はびっくりして、何にも答えられなかった。

いいなと思ったら応援しよう!