3-22 (了)
「一緒に寝たかったのに」
僕は小さな声で恨み言を呟いた。
さっきまで、言えないって思ってたのに。
そばにいたいって気持ちが強くて、もう恥ずかしさは消えた。
「ユギョマー」
「はい」
「俺も……気持ちは一緒だけど……襲われたくなかったら、さっさと寝なよ」
「えっ」
お、襲う? マクヒョンが? 僕を? どういうことっ。
「おやすみ」
「お、やすみなさい」
僕の声、多分動揺が透けてたけど。
とりあえず寝た方がいいみたいだから、目をぎゅっと閉じてみる。
だけど、妙にざわざわと落ち着かない気持ちで。
目が冴えて、全然眠れないじゃん!
「ヒョン、寝た?」
「……寝た」
「起きてるじゃん」
「ヒョン、寝た?」
「……」
「マクヒョン」
寝ちゃったのか、マクヒョン。
結局、なかなか眠れなくって。
眠ろうと努力はしたけど、我慢できなくなると、マクヒョンに声をかけた。
ヒョンが寝ちゃったなら、そっと一緒に寝ても、いいかも。
ってパッと思いついて、そーっと自分のベッドで体を起こす。
暗い部屋でも、目が慣れてきて、それなりに見える。
床に足を下ろして、忍び足でマクヒョンが寝ているベッドに上がる。
ベッドが沈んで、ヒョンの体が揺れた。
「何してんの」
あっちを向いてたマクヒョンが急にこっちを向いてそう言って、僕はビクッとするくらい驚いた。
「ヒ、ヒョン起きてたんだ」
「いや寝そうだったけど、ギョミ何してんの」
「マクヒョン寝たならいいかと、思って」
マクヒョンをまたぐように四つんばいのまま、ヒョンを見下ろす。
もう、いっかなー、このまま流れで一緒に寝させてくれるかな、って。ヒョンの横に移動しようとしたのに。
「あっち戻りな」
そう言ってヒョンが僕の胸を腕で押し返してくる。
「なんで」
「理由はさっき言った」
「でも」
「怒るよ、ユギョミ」
むっ、僕だって怒るし。
「わかりましたっ」
駄々こねた子どもみたいだってわかってるけど。僕は不機嫌な返事を返すと、自分のベッドに戻った。
今度はムカついて眠れないじゃん。
「マクヒョンのケチ」
「ユギョミのバカ」
「バカはヒョンじゃん」
「ユギョミのためじゃん」
「そんなの知らないし」
本当はそんなこと言いたいんじゃないけど。ヒョンに怒ってるんじゃなくって、がっかりして悲しいだけだ。
ただ、ほんとーに今すぐマクヒョンを抱きしめたいだけなのに。
でも、ダメだって言うから悲しい。
なんか、売り言葉に買い言葉みたいになって。
そのままお互い無言になった。
目が冴えて、余計に眠れない。
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
僕のスマホと、マクヒョンのスマホで同時にカトクのメッセージ音が4回鳴った。
グループトークだ。
『ヨンジェ殺す』
『ジニョンイヒョンごめんなさい~』
『ヨンジェ殺したら俺がお前殺す』
『ジェボミヒョンのバーカ バーカ バーカ』
「ぷっ」
マクヒョンも見たらしい、同時に吹き出して、僕もヒョンもクスクス笑いが止まらなくなった。
さっきヨンジェヒョンが間違って送ったカトクを、遅れて今ジニョンイヒョンが見たんだろう。
「これはジニョンイかわいそう~」
「ヒョン、きっと撮影大変なのに、ひどい」
「うん、ひどすぎる」
酷いとか言いながら、笑いの止まらない僕たちも酷いけど。
なんか、一緒に笑って、重い空気が飛んで行った。
「ユギョマー」
「はい」
「手」
見ると、ヒョンがベッドの端ギリギリで、こっちを向いて手を伸ばしてた。
僕も、同じように端に寝てヒョンの手をぎゅっと握った。
「ユギョミ、好き」
「ぼ、くも、好き……あの、ねヒョン」
「ん?」
「ヒョン、僕のこと、好きだったの?」
「まだ疑うの?」
「ううん、そうじゃなくて、ヒョンが僕に好きって言ってくれたとか、知らないんだけど」
「なんで知らないの? 何度も言ったのに」
「いつ?」
「ユギョミが俺に好きだって言ってくれるじゃん。その時にいつも俺も好きだよって、言うじゃん」
「え?」
言う、言うけど、意味が。
「昔っから、ヒョンのこと好き、って言ってくれるじゃん。ユギョミがヒョンとして慕ってくれてるの分かってたけど」
「それって」
ちょっと待って。
僕は、ただ自分が言うのにヒョンが合わせてくれてるんだと思ってたのに。
「わかった?」
「うん、わかった」
僕はヒョンの手をぎゅっと握り返した。
「ユギョミ、ちゃんと知っててよ。好きだよ」
「うん、僕も。マクヒョン大好き」
そう言うと、マクヒョンがクスクス笑う。
「恥ずかしいね、恥ずかしいけどいい気分」
「うん」
「おやすみ」
好きって言われたら、心のモヤモヤも、何もかも飛んで行った、僕単純すぎるけど。
今度は幸せな気持ちで、素直に目を閉じた。
「おやすみなさい」