3-21
「ユギョミ、先に話して」
「あ、うん……あのね、マクヒョンには、ずっと好きな人がいるって思ってた。だから、ずっと片思いだって思ってたし、それで、だからほんと今もまだ、信じられなくて」
「あんなキスしたのに、信じられないの?」
目だけしか布団から出てないけど、マクヒョンが驚いた顔してるのがわかる。
「それは、」
「いないよ、そんなの。好きな子がいたのは、ユギョミじゃん」
「え」
「好きな子がいるって、俺に言ったじゃん」
「え?」
ヒョンが何のこと言ってるのかわからなくて、頭が?で埋め尽くされる。
そんなこと、言った?
「好きな子がいて、自分が幸せにしたいって」
「え……あっ、ああっ、言った、言ったかも!」
記憶を手繰り寄せる、どんどんはっきりしてくる。ヒョンが部屋の隅に隠れてた時だ。
「マクヒョンだよ」
「……ん?」
「好きな人って、ヒョンのこと」
「え、え? そうなの? ジニョンイはもういいの?」
「え? なんでそこでジニョンイヒョンが出てくるの? てか、ジニョンイヒョンをずっと前から好きだったのは、マクヒョンじゃん」
「……俺が? なんで?」
「え、だって、前からジニョンイヒョンのこと好きだって言ってたし、一緒によくいたし、ポッポとかもして」
「あー、あれは、まあ俺もよくわかんないけど、ちょっとホームシックだったし。ジニョンイいろいろ親切にしてくれて。すごい助けてもらってたからな」
「本当に、好きじゃない?」
「好きだけど、家族とか友達以上に好きっていうのとは違う」
「ほんとに?」
「うん、ていうか、なんでそんなことが気になるの?」
僕にとって、ものすごく重要なことだったのに。ヒョンは、不思議そうに僕を見てる。
本当に好きじゃなかったの? 僕の勘違いだったの? 信じられない。
「ユギョミ、手」
そう言うと、ヒョンが手を伸ばしてくる。僕も手を伸ばして、ヒョンの手を掴んだ。
「あのさ」
「はい」
「ユギョミ、これからは、もっと俺を頼ってよ」
「今までだって」
「昨日も、そうじゃん」
マクヒョンの言いたいことが分かった。
「あれは、あの、」
全部勘違いだってわかったら、あんまりにも恥ずかしすぎる。
僕はヒョンの手を掴んだまま、布団に潜る。
「マクヒョンが、ジニョンイヒョンのベッドで寝てたから。ベムがジェクスニヒョンのベッドで寝るみたいに、寂しくてそこで寝てるんだと思って。ヒョンがジニョンイヒョンのこと好きなのが、辛くて。悲しくて、んで、ヒョンたちに八つ当たりして。それでジニョンイヒョンに怒られて、マクヒョンにちゃんと聞けって言われて、でも、できなくて。それで」
僕がもごもごと布団の中で話してると、急に布団をパッとめくられた。
びっくりして見ると、マクヒョンが起き上がって僕を見下ろしてる。
「ひ、ヒョン、どうしたの」
「いや、その可愛い話、どんな顔して話してんのかなと思って」
「はっ?」
こんな、馬鹿みたいで恥ずかしい話。可愛いとか言われたらもう、いたたまれない。
耳が熱い。
「無理、顔見て話せない。恥ずかしすぎる」
僕はヒョンの手を離してうつ伏せになった。
ヒョンがクスクス笑う。
「じゃあ、そのままでいいよ。そのまま聞いてて」
「……うん」
「俺、さっき怒ったじゃん」
「うん、」
「ユギョミが正直に話してくれたから、俺も話すよ。さっきさ。ユギョミが俺には出来ない相談を、ジニョンイにはするんだ、って思って。昨日も、ユギョミの様子変だったし帰ってくんの遅いから心配だったのに、楽しそうに帰ってくるし。朝だって、起きてすぐにジニョンイのこと探してるし。ムカついて」
ヒョンの話を聞いて、僕は驚いて思わずガバッと起きた。
「ヒョン…。それって」
「ヤキモチだよ、ただの」
そう言うと、ヒョンはまたベッドにバタンと倒れて、布団に潜ってしまう。
「マクヒョン、顔見せてよ」
「やだよ。」
「ヒョン、好き」
「それ反則」
ヒョンが布団の中で笑ってる。
「マクヒョン」
「ん?」
「一緒に、寝ない?」
なんとなく、心の底から湧きあがってきて、すんなり口から出た。
「今日は……ダメ」
「なんで?」
布団の中から返って来た答えに、がっかりしてしまう。
「今日は、俺、なんかダメ」
「何がダメなの? 僕、ヒョンと一緒に寝たい」
子どもみたいに駄々こねてるってわかってるけど。今すぐに抱きしめたいのに。
今日はくっついて寝たい。
「ユギョミごめん、俺今、気持ちコントロール出来ない。今一緒に寝たら、ただ寝るだけで済まない」
「えっ」
その言葉が意外すぎて、僕は返す言葉が見つからない。
ただ寝るだけじゃないって、どういうこと? それって。
「マクヒョン」
「今日はひとりで寝る」
ヒョンはキッパリと言い切ると、背中を向けてしまう。
「ヒョン、もう寝ちゃうの」
「寝る」
「もっと話したかった」
「うん、また明日」
今日、今話したいのに、それからぎゅってヒョンを抱っこして寝たかったのに。
なんかヒョンが言いたい事は分かるけど、残念な気持ちが強すぎて。
なんか、なんか納得できない。
「なに、拗ねてんの」
悶々とした気持ちを抱えたまま、天井をじっと睨んでいたら、マクヒョンがこっち向いてた。
「うん、拗ねてる」
マクヒョンが吹き出して、クスクス笑う。
「んーーー、うん。やっぱダメ。ユギョミ電気消して、んで寝な」
「ヤダ、ヒョンが消して」
僕の気も知らないで、クスクス笑ってて、余裕なマクヒョンが憎らしい。
なんでもいいから反抗したくって、僕はマクヒョンに背中を向けた。
分かってる、ああいう言い方する時のヒョンは、意見曲げないんだ。
ヒョンがクスクス笑いながら、電気を消して。
部屋が真っ暗になった。