3-15(2)

 部屋に戻って、ベッドに横になる。

 ジニョンイヒョンは帰ってこない日だし、ジェボミヒョンたちも、ベムたちも、部屋にこもったまま出てこないし。

 昼間、また話をしようって言ったけど。

 本当にするのかな。

 しばらく一人でマクヒョンを待ってたけど、戻ってこない。リビングにもキッチンにもいない。

 何か用があるとかじゃないけど。ヒョンがいないと、落ち着かない。

 僕は宿舎の中をウロウロする。

「マクヒョーン」

「ん? どした」

 ヒョンは、洗濯機のそばにスツールを置いて、腰かけてた。

「何してるの? 洗濯?」

「うん、おばちゃんに言うの忘れてた」

「何洗ってるんですか?」

「布団。ココにおしっこされてさー、」

「あ、それでブランケットだけだったんだ」

「うんそう。またされたらやだなーって思って、ジニョンイ帰ってこないと思ってたから。バレないと思って昼寝してたら、怒られたし。あれ何? 怖いんだけど、なんであんなタイミングで帰ってくんの?」

 そう言ってケラケラ笑うヒョン。

 え? なんか。僕が思ってたのと違うくない?

「ヒョン、あのね」

「うん?」

「あのね、」

「なに? 聞きたいことあるの?」

 ヒョンが焦れたように僕を見上げる。僕は首を振った。

 ジニョンイヒョンのこと、好きなんだよね? そんな風に簡単には聞けない。答えがわかってても。

 ジニョンイヒョンは、はっきりとマクヒョンに確かめろって言ったけど、やっぱりそんなこと、無理だし。

 だけど、マクヒョンの反応を見たいとか思ってしまう自分もいて。

「ジニョンイヒョン、撮影頑張ってるかな」

「うん」

「こっちこんなに寒いから、きっともっと寒いですよね」

「うん」

 マクヒョンは、スマホに視線を落としたままで、僕の方を見ない。

 ヒョンの声のトーンがなんか低くて。

 僕が何か、失言したのかなって、思う。

 マクヒョン、なんか怒ってる?

 今の話の流れで、怒るようなこと、ないよね?

 なんか、心臓が嫌な感じに鳴る。

「ヒョン、昼間の話、なんだけど」

 ちょうど、洗濯機のアラームが鳴った。ヒョンは僕の方を見ないで立ち上がると、背中を向けて洗濯機の蓋を開ける。

「マクヒョン」

「……。昼間の話は。もう、いいよ」

 背中を向けたまま、そう言うヒョン。

 もういいって、何?

「それ、どういうこと?」

「ユギョミのこと、混乱させてごめん。気にしなくていいから」

 背中を向けたままで、ヒョンの顔が見えなくて。不安でたまらない。

 ヒョンの言ってる意味がわからない。

「それ、どういう意味、気にしないとか、無理……僕は、マクヒョンみたいに大人になれないです」

「……俺が、大人?」

「だって今だって……僕はそんな簡単に気持ち切り替えられない。気にしないでいられる訳ない。だから昨日だって、ジニョンイヒョンに怒られて」

「ジニョンイにならッ」

 僕の言葉を遮るように振り返ったマクヒョンが、声を荒げてそう言って、僕は驚いて目を丸くした。

「ジニョンイに話せても、俺には言えないんだから、しょうがないじゃん。俺に話せよって無理強い出来るわけないじゃん。俺にだけ頼れとか言えないっ。そういうの、理解しないと、どうしようもないだろッ」

「え」

 急に感情を露わにしたマクヒョンに、僕は何も言えなかった。

 ヒョンは眉間にしわを寄せてる。

 ヒョンは唇を噛んで、うつむいてて。苦しそうで。

 なのに、僕は何の言葉もかけられず、ただ立ち尽くしていた。

    ヒョンが今言った言葉を、理解しようと必死で頭を働かせる。

 ヒョンはまた背中を向けると、布団を出して乾燥機に放り込む。

「違うんだよ、こういうこと、言いたくないの。だから、とりあえず、もういいから」

 そう言うと僕の前をすり抜けて出て行く。

    僕は何も言えずに立ち尽くしていた。

    ヒョンの言った意味がわからなくって、頭が働かない。

    だけど、行かせちゃだめだって、ただそれだけがパッと頭に浮かんだ。

いいなと思ったら応援しよう!