3-15
音楽が鳴って、ダンスして、歌っている間は大丈夫。
ただそのことだけ考えて頑張れば、頑張る分だけ成果が出る。
だから、僕はただがむしゃらに踊った。
「何ユギョム、今日めっちゃ張り切ってんじゃん」
「昨日ベロベロで帰ってきたとは思えなーい」
「ヒョンっ」
ヨンジェヒョンにバレてたのに驚いて、思わずジェボミヒョンに聞こえてないか、確認してしまう。
なんか、怒られそうな気がして。
ジェボミヒョンとマクヒョンは、何か二人で話し込んでる。
音楽が鳴り止むと、ダメだ。
マクヒョンのことばっかり気にして見てしまう。
いつもは僕の視線に気がつかないマクヒョンが、今日はすぐに気がついちゃうから。
僕はおどおどと視線を外す。
昼間にマクヒョンが言ったことを、何度も思い出してしまって、頭がぐるぐるする。
そして、あの瞳。
ヒョンが僕のことを大切に思ってくれているのは、知ってた。
メンバーとして、家族みたいに弟みたいに。
ヒョンのあんな情熱に満ちた顔知らない、あんな風に僕を見るなんて。
思い出すと、体の底から突き上げるように、ぞくっとした。
ヒョンが好きなのはジニョンヒョンなんだよね?
ダメだ、勘違いするな。
「ユギョミ、帰るよ?」
ふと周りを見回したら、みんな荷物を持って出口に向かってた。
立って僕を待ってくれてるのは、マクヒョンだ。そこに立ってるのはいつものマクヒョンで。
昼間の事は、僕の夢か何かなのかと思えてくる。
車でも隣に座ったけど、ヒョンはいつもみたいにスマホ見てて。僕のことを気にしてる様子はない。
僕の前に座ってるのは、ヨンジェヒョンで、いつもみたいに大声で歌ってる。
ヒョンって、いっつも幸せそうだなー。
なんか、愛されオーラが見えるっていうか、ジェボミヒョンに愛されてて、そのことみんな知ってて、ヒョン自身も知ってて。
なんか、一緒にいるとハッピーな気分になる。
ヨンジェヒョンが歌うのをやめると、シンと静まり返った車内。
いっぱい踊ったし。なんか、眠くなってきた。
そう思った時だった。
ピロンっ
カトクの着信音が鳴り響く。
マクヒョンのも、僕のも同時だった。
グループトークかな。
そう思ってチームのグループトークを開く。
「え、待って待って! やばっ開かないで!」
ヨンジェヒョンが焦ったように僕らを振り返ったけど、スマホに目を落としたら、もうメッセージ開いてた。
『ジェボミヒョーン♡一緒の車に乗ればよかったなー、明日休みだね、今日はヒョンの好きな事なーんでもしてあげるからねっ♡あー早く家つかないかなー早くエッチな事したいなー』
……
……
「ぶはっ ヨンジェっ! 死んだな!」
そう言うと、マクヒョンがお腹を抱えて死ぬほど笑いだした。
正直、僕ももう我慢できない。
青ざめて僕らを見てるヨンジェヒョンには悪いけど、僕らは息も絶え絶えに笑った。
「ど、どうしよ、これ、削除無理? え、あっちみんな読んだのかな、ジェボミヒョン、ジェボミヒョン、」
真剣に悩んでるけど、もうヒョンのこと連呼してんのも何もかも面白すぎて、僕は涙を流しながら笑った。
ふと窓の外を見たら、隣にジェボミヒョンの乗った車が走ってて、大きく窓を開けたジェクスニヒョンとベムがこっちを見てるのに気がついた。
僕も窓を開けた。
「ぎゃはははー! ヨンジェ最高!」
窓を開けたら、僕らと同じく大笑いしてるジェクスニヒョンとベムが見えた。
ジェボミヒョンは、よく見えないけど、寝てるわけじゃなさそうだ。まっすぐ前を見てる。
「こ。こわっ」
僕は思わず本音が漏れた。
「ヒョン、ヒョン、ジェボミヒョーンごめんなさーい!」
ヨンジェヒョンが半泣きで窓を開けて大声で叫ぶ。
かわいそうなんだけど、やっぱり面白すぎて僕はマクヒョンと顔を見合わせて大笑いした。
ヨンジェヒョンが落ち込んで静かになって、僕らも笑いがおさまった。
なんか、本気でかわいそうになってきたな。
なんて声かけていいのか。
そう思ったら、マクヒョンが僕をじっと見てるのに気がついた。
どうしたのかと思ったら、ヒョンが手を伸ばしてくる。
「泣いてんじゃん」
柔らかく微笑みながら、僕の目元を指で拭う。
そっと触れる優しい手に、どきどきしてしまう。
「だって、面白かったから」
僕は小さな声でそう言った。
「ソコッ、いちゃつかないでよ!」
一応、ヨンジェヒョンに気を使ったつもりだったんだけど、前から攻めるような声が飛んできた。
「いちゃついてなんかっ」
恥ずかしくてそう言い返したら、ちょうど宿舎の前に到着した。
みんな車から降りたけど、ヨンジェヒョンはまだ降りてこない。
そう思ったら、ジェボミヒョンがドカドカと近寄ってきて、ヨンジェヒョンを引っ張り出した。
「ヒョン、ごめんね、」
これからヨンジェヒョンめっちゃ怒られるのかなって思った。
「もういいよ怒ってねーし、メンドクセー。いいか、俺らこれからめっちゃエロいことするから、絶対部屋来んなよなっ」
ジェボミヒョンは僕らに向かって、吐き捨てるようにそう言うと、ヨンジェヒョンの肩を抱いて、さっさとエントランスに入っていった。
「え、なにあれ、めっちゃかっこいいじゃんっ」
「俺一生ついてくヒョンっ。ベム! 俺らもエッローいことしようっ」
「うんっそうしよーっ」
そう言うと、二人はきゃっきゃと笑いながら走ってく。
え?え?え?
急な展開であっけにとられる。
なんか、いつの間にか僕を除いてみーんな大人だ。
ついていけないんだけど、この展開。
「んじゃ俺たちも?」
そう言って急に笑顔でマクヒョンに顔を覗き込まれる。
あんまりびっくりして、僕はのけぞった。
「冗談だしっ、バーカ。めっちゃ嫌そう」
ヒョンはそう言って笑うと、歩いていく。
そりゃそうだ、冗談だ。
冗談だってわかってるのに、始まった胸のドキドキが収まらない。
「べつにやじゃないし」
前を見ずに下を向いてとぼとぼと歩きながらそう言ったら、エレベーターの前で、すぐ前にマクヒョンがいた。
い、今の聞こえた?
ヒョンは何も言わなかったから、聞こえなかったのかな。