3-10

「ヒョン~、ただいまー」

 僕は、ヒョンの顔を見たら嬉しくなっちゃって、ぎゅうっと抱きついた。

「え、ユギョミめっちゃ酔ってない? ジニョンイどんだけ飲ませたの?」

「いや、焼酎一本だけ、こんな楽しい感じに仕上がっちゃって」

「ユギョミ、部屋行くよ」

「うん、ヒョン一緒に行こう」

 たった数時間離れてただけなのに、なんか、なんかマクヒョンのことめっちゃ好きすぎるんだけど。

 僕はヒョンの背中に覆いかぶさるように抱きついて、後をついてく。

「ユギョミー、楽しいの?」

「うん」

「でも、明日も練習じゃん、そんな飲んじゃだめじゃん」

「ごめんなさいー、なんかジニョンイヒョンと飲んでたら、楽しくって」

「ふうん」

 ヒョンの声が冷めてて、怒ってるんだって思い出した。

「マクヒョンあとはよろしくー、ごめんね、ユギョミ酔わせて」

 ジニョンイヒョンが笑いながら僕らを通り過ぎて、自分の部屋に入ってく。

「ヒョン、あの、あのね」

 マクヒョンの怒った顔を見たら言えなくなると思った。

「なに」

「あの、今日はごめんなさい、嫌な思いさせて。怒ってるよ、ね」

 ヒョンにぎゅっと抱きついたまま、そう言った。

「ヒョン、ごめんなさい、ほんとに、」

「なんで謝るの?」

「僕、練習の時、ヒョンに感じ悪くしてた、から」

「自覚、あったんだ」

「ごめんなさいごめんなさい」

 僕はヒョンにぎゅっと抱きついて、ふわふわの髪に顔を埋めた。

「ユギョミ、顔見せて」

 ヒョンが僕の腕を外して、向かい合わせに立つ。

 手を引かれてベッドに一緒に腰掛ける。

「俺、なんかした?」

 ヒョンにそんな風に聞かれてると思ってなくて、僕は慌ててぶんぶんと首を振った。

「みんなとは普通に喋ってたじゃん、ジニョンイととはご飯まで行って、俺には」

 マクヒョンの小さな声を聞いて、僕はハッとしてヒョンを見た。

 顔を見せろって言ったのに、ヒョンは伏し目がちに唇を噛んでる。

 ジニョンイヒョンにさっき言われたことを、思い出す。

 やっぱり、僕がマクヒョンを傷つけたの?

「ヒョン、ヒョンがなんかしたとかじゃなくて、僕が、悪くて」

「その原因って、俺じゃん絶対」

「や、」

 そう、そうなんだけど、言えないよ。この状況、まるでジニョンイヒョンにぶちまけた時のデジャヴみたいだ。

 なのに、酔ってるせいでなんか頭うまく回らないし。

 マクヒョンからは石鹸のいい匂いがするし、なんか、もう何にも考えずに好き好きって言いたい。

「いいよ、明日話そう」

 僕が黙ってると、マクヒョンが急に立ち上がった。

「ヒョン」

 ヒョンが離れて行ってしまうと思って、僕はとっさに腕を掴んだ。

「いいから、今日は酔ってるじゃん。明日の練習もあるし、早く寝なよ。俺怒ってないから」

 そう言って振り返ったヒョンの顔が、思ってたのと違って、胸がぎゅっとする。

 怒って突き放されたんだと思ったのに、ヒョンの話し方も優しくて、泣きそうになる。

「なにその顔」

 ヒョンが笑う。

 僕に笑ってくれてる。

 それだけで、胸がいっぱいになる。

「ほら、これ脱いで、手伝ってやるから、早く寝て」

 ヒョンに着てたジャケットを脱がされる。ああ、服着替えなきゃ。

「ジーンズも手伝う?」

「い、いいいです、自分でやるから」

 そう言うとヒョンはケラケラ笑って、僕がいつも寝る時に履いてるジャージを投げてくれる。

「水飲む?」

 ヒョンに聞かれて頷く。

 マクヒョンが部屋を出て行って。

 僕はその間にスキニーを脱いでジャージに履き替えた。

 マクヒョン、もう怒ってないのかな。

 僕が酔ってるから話しても無駄だって思ってんのかな。そうだよね。

 ジニョンイヒョンも、理由も知らずに許さないって、言ったし。

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