3-16
部屋に戻って、ベッドに横になる。
ジニョンイヒョンは帰ってこない日だし、ジェボミヒョンたちも、ベムたちも、部屋にこもったまま出てこないし。
昼間、また話をしようって言ったけど。
本当にするのかな。
しばらく一人でマクヒョンを待ってたけど、戻ってこない。リビングにもキッチンにもいない。
何か用があるとかじゃないけど。ヒョンがいないと、落ち着かない。
僕は宿舎の中をウロウロする。
「マクヒョーン」
「ん? どした」
ヒョンは、洗濯機のそばにスツールを置いて、腰かけてた。
「何してるの? 洗濯?」
「うん、おばちゃんに言うの忘れてた」
「何洗ってるんですか?」
「布団。ココにおしっこされてさー、」
「あ、それでブランケットだけだったんだ」
「うんそう。またされたらやだなーって思って、ジニョンイ帰ってこないと思ってたから。バレないと思って昼寝してたら、怒られたし。あれ何? 怖いんだけど、なんであんなタイミングで帰ってくんの?」
そう言ってケラケラ笑うヒョン。
え? なんか。僕が思ってたのと違うくない?
「ヒョン、あのね」
「うん?」
「あのね、」
「なに? 聞きたいことあるの?」
ヒョンが焦れたように僕を見上げる。僕は首を振った。
ジニョンイヒョンのこと、好きなんだよね? そんな風に簡単には聞けない。答えがわかってても。
ジニョンイヒョンは、はっきりとマクヒョンに確かめろって言ったけど、やっぱりそんなこと、無理だし。
だけど、マクヒョンの反応を見たいとか思ってしまう自分もいて。
「ジニョンイヒョン、撮影頑張ってるかな」
「うん」
「こっちこんなに寒いから、きっともっと寒いですよね」
「うん」
マクヒョンは、スマホに視線を落としたままで、僕の方を見ない。
ヒョンの声のトーンがなんか低くて。
僕が何か、失言したのかなって、思う。
マクヒョン、なんか怒ってる?
今の話の流れで、怒るようなこと、ないよね?
なんか、心臓が嫌な感じに鳴る。
「ヒョン、昼間の話、なんだけど」
ちょうど、洗濯機のアラームが鳴った。ヒョンは僕の方を見ないで立ち上がると、背中を向けて洗濯機の蓋を開ける。
「マクヒョン」
「……。昼間の話は。もう、いいよ」
背中を向けたまま、そう言うヒョン。
もういいって、何?
「それ、どういうこと?」
「ユギョミのこと、混乱させてごめん。気にしなくていいから」
背中を向けたままで、ヒョンの顔が見えなくて。不安でたまらない。
ヒョンの言ってる意味がわからない。
「それ、どういう意味、気にしないとか、無理……僕は、マクヒョンみたいに大人になれないです」
「……俺が、大人?」
「だって今だって……僕はそんな簡単に気持ち切り替えられない。気にしないでいられる訳ない。だから昨日だって、ジニョンイヒョンに怒られて」
「ジニョンイにならッ」
僕の言葉を遮るように振り返ったマクヒョンが、声を荒げてそう言って、僕は驚いて目を丸くした。
「ジニョンイに話せても、俺には言えないんだから、しょうがないじゃん。俺に話せよって無理強い出来るわけないじゃん。俺にだけ頼れとか言えないっ。そういうの、理解しないと、どうしようもないだろッ」
「え」
急に感情を露わにしたマクヒョンに、僕は何も言えなかった。
ヒョンは眉間にしわを寄せてる。
ヒョンは唇を噛んで、うつむいてて。苦しそうで。
なのに、僕は何の言葉もかけられず、ただ立ち尽くしていた。
ヒョンが今言った言葉を、理解しようと必死で頭を働かせる。
ヒョンはまた背中を向けると、布団を出して乾燥機に放り込む。
「違うんだよ、こういうこと、言いたくないの。だから、とりあえず、もういいから」
そう言うと僕の前をすり抜けて出て行く。
僕は何も言えずに立ち尽くしていた。
ヒョンの言った意味がわからなくって、頭が働かない。
だけど、行かせちゃだめだって、ただそれだけがパッと頭に浮かんだ。