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彼女の名前は知らないまま

私は、シンガーソングライター。
日々、歌詞を書き溜めている。
何かあればすぐスマホのメモに書き溜めている。

すごく暑い夏の日
私は、下北沢にいた。
1人で古着屋を回り、休日を楽しんでいた。
古着屋を出て、喫茶店に向かおうとした瞬間
いきなりゲリラ豪雨に襲われた。
近くのパン屋に逃げ込んで
パン屋の中から外を眺めていた。
すると、髪の毛がストレートで黒い
真っ白のロングワンピースを着た子が
傘をさして走っていく姿が見えた。
その瞬間、あぁ、彼女はなんて綺麗なんだろうと思った。
彼女はあんなに長くて白いワンピースの裾を1ミリも汚さず
走っていったのだ

私は、その場で直ぐに歌詞を書いた。
家に帰り、メロディーを付け
次のライブでのセットリストにいれた。
次のライブは下北沢でのライブだった。
10組ほどのシンガーソングライターが集まるライブだ。
もしかしたら、彼女が来るかもしれない。
そして、彼女に会ったらあの時のことを話して
この歌を聴いて欲しい。

ライブの日、彼女の姿はライブハウスになかった。
ライブハウスに行く道、帰る道。
彼女をずっと探していた。
けれど見つからなかった。

毎年、夏になると下北沢に行き、彼女を探した。
けれど、もう二度と彼女は現れなかった。
あれから8年。
私は、音楽を辞め、普通の主婦をしている。
未だに街で黒いストレートでワンピースを着た女性を見ると
彼女かと思ってしまう。

私は、ゲリラ豪雨でも決して裾を汚さず走る彼女の名前を8年経った今でも知らない。

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