演劇『M.Butterfly』感想

韓国でも繰り返し上演されていて、日本版も数年前に上演されていた演劇「M.Buttrefly」。おそらく今年1番かもというぐらいに心を虜にされてしまったので、感想を書きとめようと思います。

シノプシス

《1964年》中国北京
フランス領事館職員ルネ=ガリマルはオペラ「マダムバタフライ」の自決場面を演じる中国人俳優ソン=リリンの優雅な姿に魅了される。

ある日、ソンの手紙を受け取り、会いに行ったルネに、ソンは衝撃的な秘密を告白し、気持ちを伝える。
ソンと会うにつれてルネは狂ったように、今まで気づかなかった男性性と優越感が生まれ、自身が夢見てきた従順で「完璧な」愛人に魅了されていき…

《1986年》フランスの法廷
長い時間を経て、フランスで再会した二人。
全てのものを諦め、ソンとの愛を選んだルネは、国家機密流出の容疑で法廷に立たされ、あれほど無視してきた真実の前で、混乱と幻滅に苦しみ…

연극열전公式サイト『M.Butterfly』より引用・和訳

というものの、私の韓国語の実力はまだまだなので、間違って聞き取っている部分などがありましたら、コメント等でご指摘いただけると嬉しいです。

※以下ネタバレを含みます。


2017年にブロードウェイで改作されたバージョンという本作。
今までMナビを一度も見たことが無いので、改作前と比較することができないのがとても惜しいところ。

舞台はルネが何故収監されているのかを語る場面から始まります。舞台は白いカーテンに覆われていて、冒頭にルネがそのカーテンを巻き取っていき物語が始まりました。
今回の舞台は全体的に白で統一されていて、ルネの机だけが黒色でした。演出家さんのインタビューによると、舞台デザイナーさんが提案されたアイデアで、真っ白ではなくて敢えてどこかくらい不安な感じがする濁った白色で、演出家さんは「鮮明ではなく何かが潜んでいるルネの頭の中のような感じがした」と。「机と椅子はまさにルネの空間だから、監獄の雰囲気を出そうと暗いカラーで表現した」そうです。

ルネが自身の物語を観客に聞かせる、という体で物語が進んでいきます。
物語の途中途中で登場人物が物語の外の話をするので、これが最初わからず難しかった…。
リリンが「私達の劇的な再会の場面で話を止めないで、一度でも観客にその裏で何が起きたのか聞かせましょう」ルネ「嫌だ!」のような場面があったのかと思うのですが、この観客というのはルネが語りかけている西洋人たち(実際の観客である私達もしくは映画版でいうと監獄の囚人仲間)ということなのですよね?
ところどころ劇の外の会話が出てくるので頭がこんがらがってしまいました。2回目でやっと把握…。

まず1回目のキャストはこちら。こちらはプレビュー期間。

ジェギュンルネ×ジェファンリリン

2024.0323 昼

ずっと念願だったMナビなので、とにかく胸がいっぱい!
ジェギュンルネがとにかく子犬で髪の毛もふわふわしててトイプードルみたいでした。
Mナビスタッフさん方がキャストのイメージキャラクターみたいなのを決めてらして、ジェギュンルネは映画「ペット」の主人公のわんちゃん。
自分がどこにいるかも分からないけどとても楽しそうな表情のわんちゃんのようで、一見純朴で素直な子犬系ルネでした。今まで全然モテてきてなさそうだけどちょっとかっこつけてて、いい感じにダサいような。(ルネはそういう役なので、褒め言葉です)
そんな真っ白なルネが、男の扱い上手なソンと出会ってどんどん狂っていくのは必然だったのか…。

そして今回お目当てだったジェソンさん。
ジェソンさんはミュージカル『燃ゆる暗闇にて』の中継を見た時にとても演技が上手で、今回はなんとしてでも見たかったお方です。
ジェソンリリン、ご本人が好きなラーメンと炭酸飲料を我慢してダイエット頑張ったとおっしゃっていましたが、とてつもなく線が細くて女性にしか見えなくて本当に驚き。冒頭のオペラシーンも違和感全くなくとてもお上手で、声のトーンだったり仕草だったり指先まで洗練された美しさ。
ルネの視点のお話なので、彼の目から見たソンは、まさしく当時のアジア的なミステリアスで美しい謙虚な女性で、強くて奔放で自由な妻のアネスや留学生のルネとは正反対の女性像でした。

チャンパオや白いレースのワンピース(搾取の匂いがするあのワンピース…)等の衣装ではあんあにも細いのに、服を脱ぐ場面ではあんなにも筋肉質というギャップがまたルネの受けた衝撃を物語ります。

ジェソンリリンがすごく印象的だったのが、法廷でリリンが裁判官の問いに答える時に涙を流しながら怒っていたところ。この中で1番強調されていたのが「私たちがどのようにセックスしたのかが大事なのか」と裁判官に問うところのように感じました。
東洋人は完全な男にはなれないと言いながら、幻想の中の女性として生き続けることもできず、大勢の西洋人の前で裁判官からしつこく質問されるのはセックスについてだなんてどれほどの屈辱だったのでしょうか。あまりにも苦しすぎます。

もう一つあまりの涙に胸が痛くなったのは、裁判後のルネとの対決のシーン。
ルネに対して「날 좀 봐 이 바보야!!!! 」とルネに掴みかかる勢いで、自分の胸をバンバン何度も何度も叩いていたジェファンソン。最後の方は声にならずパクパク口を動かしながら訴えていたのです。
でも当のルネはというと、リリンのことを全然見てくれないのですよね。でもリリンが背中側にいるときは声を聞きながらすごく愛しそうにしたり、抱きしめられたときも目を隠されたときも、夢心地のような顔をするのがまた苦しい。嫌だとだだをこねる幼稚園児のようなルネ。もう完全に殻にとじこもってしまっています。

2回見た今考えると、この回のリリンは、男性である自身のことをルネが愛してくれるかもと希望を持ってたんだろうなぁと思ったり。というか私がそう信じたいだけなのかもしれない……。
男性にもなれずに、女性にもなれない、中国にもパリにも居場所がないリリンが、「君を心から愛している唯一の人間だ」と自分に語るルネを見て、もしかしたら…と思って 最後のルネとの対峙を迎えたんじゃないか。
あんなに希望にいっぱいの目をした若いルネにそう言われるときっと信じたくもなるんじゃないか。と感じた切ない1回目。

スビンルネ×ジェファンリリン

2024.0428 昼

ぺスビンさんのルネがかなり口コミも良く、ご本人も熱望されてたルネ役だと聞いて急遽もう一回増やしたMナビ。今回もジェソンさんのリリンとでした。
前回見たのがプレビュー期間ということもあり、リリンが躓かずに段差を上がれたり、扇子も落とさずほっと安心。

そしてソンの路線が前回とはとんでもなく変わっておりました。今回のソンはきっとルネが自分自身を認めてくれるのをかなり諦めていた印象でした。負け戦だったのか…??

言葉聞き取るの必死で以下の場面しか見れてない可能性が出てきましたが、こちらもまた印象的な場面が大きく二つ。
一つ目が、ルネに服を脱がされそうになり、「난 인심했어요.」と妊娠を伝えるところ、このシーンでリリンが茫然とした表情で涙を流していたのです。この場面、リリンは愛するルネのために幻想を生き抜くことを決意したのかなと個人的に感じた部分でした。他作品ですがスリルミーといいとりあえず何でも愛があってほしいと信じたい私なので、今回も「愛するルネのため」だったと超個人的に信じたいだけかもしれませんが。
でもその理由が愛だけではおそらく無くて、幻想を生き抜くことは即ち男性である自分自身を否定することにもなるし、もうどうしようもなくなってしまっちゃうし…

もうひとつ目は、裁判後のルネとの対峙の時の消えかけの「날 좀 봐 이 바보야…」この台詞ってこんなにも悲しく言うものだったのですか…?
スビンルネ、確かにソンのことは見ているけど、完全に幻想の女性としてのソンを見てしまっていて、目が合っているようで合っていない。

スビンルネは勉強放送でリリン3人の違いについての質問に対して、「ジェファンソンは一番ガスライティングの感じが強い」とおっしゃっていたのですが、これがまたリリンの気持ちが見事に伝わっていなくて苦しい。
ガスライティングとは、嘘の情報を相手に信じ込ませて追い詰める心理的虐待のことだそうなのですが、確かにジェファンソンは序盤から結構強気ですし、隙も全く見えないとても強いリリンに見えました。

そんなソンにルネはまんまと騙されてしまったし、個人的にスビンさんのルネは幻想にはまってしまうお芝居が本当にお上手。
後半なんてもう髪の毛もボサボサで、顔もどこか疲れて見えるし、もうボロボロになってしまっていて。
他のソンとのスビンルネを知りませんが、かなり最初の方からソンが主導している感じに見える(結末を知っているからかもしれませんが)から、ルネがそう思ってしまうのも無理ないのかもしれない…。

参考サイト

・演出家부새롬さんインタビュー
(このインタビューがもう最高にためになる。プログラムよりも詳しい。)

・연극열전「M.Butterfly」ページ

・혜화로운공연생활「M.Butterfly」勉強放送youtube


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