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ミュージカル『IF/THEN(イフゼン)』

日本でも上演歴のある『Next to Normal』の製作陣で送る『IF/THEN』韓国版。(日本版は残念ながらコロナ禍で全公演中止になってしまったそう...)
韓国では2022年に初演、今回は再演を観劇です。
初演も観劇していますが、当時は自身の韓国語力も全然で、観劇直後はいまいちピンと来ず。が、自身の環境の変化もあったので、観劇後に歌詞を読んで映像を見て思い返したりしながらどっぷりはまった作品でした。
今回はちゃんと全体も見れたので備忘録代わりに!

2024.1221 夜
フォトブース
ペットボトルキャップ寄付イベント

社会運動家のルーカスにちなんで、ペットボトルキャップ10個寄付すると、後々そのプラスチックから作られたキーリングを貰えるイベントをやっていて良い取り組みだなぁと。私もペットボトルキャップ10個を日本から持って行きました(笑)

あらすじ 

エリザベスは40代目前、離婚をしてニューヨークに戻ってきます。ニューヨークの公園で久しぶりに友人と会う約束をしていましたが、まさかのダブルブッキング。
約束をしていたケイトとルーカス、それぞれに「私との約束を守るよね?」と迫られます。
その時、ケイトに着いていったなら…
ルーカスに着いていったなら…
ここを分岐点として、エリザベスの二つの人生が並行して進んでいきます。
エリザベスのことをケイトはリズと呼び、ルーカスはベスと呼び、
ケイトに着いていったルート:リズとしての人生
ルーカスに着いていったルート:ベスとしての人生
として進んでいくのです。
リズは恋愛に、ベスは仕事に生き、それによって周りの人の人生も変わっていきます。それぞれ嬉しいこと、つらいこと、色んなことを経験するエリザベス。

※以下ネタバレをたっぷり含みますので、ネタバレ避けたい方はお控えください。

リズの人生では軍医ジョシと結婚し、子供を産んで育てる中ジョシが戦場で死亡。失意に沈んだリズですが、彼の生前の思いを知り、遂には彼の死を受け入れ、1人で育てていくことを決意。
ベスの人生ではバリバリ働くキャリアウーマン。親友ルーカスと一夜を過ごしたことで妊娠しますが、中絶。
ちなみにベスの人生の最後には、(リズの人生では結婚した)ジョシと公園で出会うのです。

まったく違う二つの人生。もしも…と考え続けたエリザベスですが、最終的には未来に向かって歩き出します。

というのがおおまかなあらすじ。

感想

『Next to Normal』の製作陣の作品というのもあり、脚本だけではなく楽曲の力が素晴らしいです。耳に残るナンバーばかり。ただ今回アンサンブルの歌唱力が少々足りなかったような…気がしております…そこが少し残念だった点。もう一つ残念だったのは舞台美術が一新されたこと。初演で大好きだったバックの映像も新しくなり(特にニューヨークの街並みとか星空とかが無くなっちゃって)、盆も無くなってしまいました。初演はエリザベスを中心に、他のキャラクターがくるくる回っていったりする演出が個人的に好きだったのです。

でもそんなことは言いつつも、なんせこの作品が持つメッセージがとんでもなく良いので、大満足な観劇でした。
生きていると「あのときああすればなぁ…」と考えてしまうことはきっと誰しもあると思うのですが、
選ばなかったことが正解とか、実際の自身の選択が間違っていることは決してない。選択しなかったことを後悔として捉えるよりも、未来に向けて歩いていこうと教えてくれる、たくさんの観客の気持ちに寄り添ってくれる最高の物語です。
パンフレットにある演出家さんの言葉も載せてみよう。

ミュージカル『IF/THEN』では、エリザベスの選択によって異なる二つのパラレルワールドを見せることによって、私たちが人生においていつも後悔としてしまう「選択しなかったオプション」に対して考察します。

『IF/THEN』2024年版パンフレットより意訳

リズの人生もベスの人生も、どちらも間違いではなくて、人生には正解は無いと教えてくれる そんなミュージカルイフゼン。

どうしてもメイン(フォーカスが多いの)はリズルートなのでリズの感想に偏ってしまいますが、
結婚した軍医ジョシが亡くなって、1人で子供を育てることになったリズが歌う『Always Starting Over』に全てが詰まってるように思います。実際に1番有名な曲でもありますもんね。
エリザベスは作中で繰り返し「また失敗した」と口にしますが、もしも…と考えるということはきっと過去の選択に何かしら後悔を感じてるんだと思います。
でも最後に『Always Starting Over』を歌いあげ、過去ではなく未来に目を向けて進んでいく姿に拍手が止まらない!

この物語は「選択」がキーワードで、冒頭の曲『if/then』でもこう歌われます。

選択した瞬間、もう巻き戻せないし
それが高く飛び上がることに
もしくは墜落することになっても
あなたの選択はたった一つだけ

『if/then』意訳

この歌詞がとてつもなく好きです。ずっと胸に刻んでおきたい大切な歌詞のひとつ。
『Always Starting Over』では、毎日新しい始まりがあって、選択するたびに色んなことが変わっていくと歌われていて。
30代後半で新しい道を踏み出すエリザベスのように、何かを始めるのに遅いことなんてなくて、たとえ辛いことがあっても自分の選択によっていつでも新しい道を踏み出せるんだよと。
結局人生っていかに自分の選択を肯定するかだし、そうしないとずっと前を向くことはできないんですよね。
でもそれってわかっていてもなんとも難しくて。特に私はエリザベスみたいに「あのときああしていたら」といつも考えてしまうタイプですが、それでは自分がつらいだけだし、過去に囚われて何もできなくなってしまう。
リナさんのエリザベスが『Always Starting Over』を噛み締めながら、最後は満面の笑顔で歌うものだから、すごく心に沁みました。

リズが『Always Starting Over』で「また違う人生でもあなた(ジョシ)を愛するだろう」と歌うのですが、これがエピローグにもつながっているのも素敵です。
リズの人生で、ジョシと公園で二度も出会ったことを偶然(ではなくて奇跡か運命でしたっけ?ここらへん曖昧…)と話すと、ジョシは「あれはもう一度君と出会えるかもと思って公園に行ったんだ」(ニュアンス違うかもです)と答えます。
キャリアウーマンとして生きるベスの人生では、最初公園の場面でベスに声をかけるのを諦めるジョシですが、最後のエピローグでは、またジョシがベスに声をかけます。
ジョシはリズとベスどちらの人生でもベスと出会おうとしているのがまた素敵だなぁと思うポイントでした。

作品の中では、エリザベスの人生では眼鏡はかけず、リズの人生では眼鏡をかけて、と舞台上では区別しているのですが、『Surprise』でリズとベスの人生が交わる(二つのルートが同時に舞台上に存在する)場面が凄く面白い!
中央にいるエリザベスに向かって、左右から誕生日ケーキを持ったジョシ(リズの人生)とルーカス(ベスの人生)が近づいて、それぞれが「結婚しよう!」とプロポーズ。ここで1幕が終わるのですが、人生において違う選択をしたことでプロポーズする男性も変わり…と言うのが目に見えて 面白い演出だなぁと!この場面のどきどき、何度でもみたい!
エリザベス役の俳優さんは眼鏡をかけたり外したりと忙しそうです(笑)

キャスト別感想

リナさんのエリザベスは全体的に柔らかくて繊細で、気配りが上手そうなイメージ。
初演はソナさんで観たのですが、声量もとてつもなくてパワフルなエリザベスだったので、(リナさんももちろん声量もあってお歌がお上手でしたが)また違うエリザベス像を見れたような気持ちです。
笑顔がとてもかわいらしい、ちょっと抜けてるリナさんのエリザベス、個人的にはとてもハマってらしたなぁと思います。
みんなのことを思って頼まれたことは断れなさそうなキャラクターだなという印象。本当は弱い部分がたくさんあるけど、皆の前では気丈に振る舞っているんだろうなぁと感じたリナさんのエリザベス。そんなエリザベスの弱い部分に気づくのがソンミンジョシ…とってもお似合いでした!

ジョシのソンミンさんもすごく爽やかでとても良かった!お顔もとっても綺麗だからモテそうなのに恋人もおらず、その理由が「自分と合う人がいなかったから」というのもまた…メロすぎる。エリザベスに出会ってから表情がパッと明るくなるのが素敵でした。
ジョシ 自身が任務のために家を出た後、リズの友人達に「リズを宜しく」というメールを送信予約しておくなんて、なんて良い旦那さんなんだろう。

ヒョンソンさんのケイトは初演がとっても良かったので今回も楽しみにしていました。初演とはヘアスタイルが変わっていて、更に可愛らしくなってらっしゃる!パワフルでおちゃめで可愛らしくて笑顔がとても素敵なケイト。チャーミングという言葉がぴったりなキャラクターで、こんな明るくて楽しい先生に教えてもらえる幼稚園の子たちはきっと幸せだろうなぁと…
実はこの日の開演前アナウンスもケイト!
更に『No More Wasted Time』前の、우주의 땅콩이들(観客)との絡みも楽しかった!これから見に行かれる方がいらっしゃったら、ケイトに何か尋ねられたら「네~네~선생님!」と答えてあげてください(笑)
ヨンアさんのエンはケイトとはパワフルな部分は同じでもクールでかっこよくて、タイプの違うふたりだけど、バランスがよくてこちらも超お似合いカップル。

そして、お目当てのジョンウォンさんのルーカス!!
この方のルーカスを観れてよかったです。一生の宝物。
マルチーズみたいなルーカスがとってもかわいい。
デイビッドに顎を撫でられていて、ますますわんこ(笑)
『You Don't Need to Love Me』では少し自信無さげに、でもすごく一生懸命に歌うけど、『Some Other Me』でメガネを外してボロボロ泣きながら歌っていたのが印象的でした。
自分を愛する必要はないんだとリズに言うルーカスも、ルーカスの子を妊娠して一切断りもなく中絶するベスも、どちらの気持ちを考えても苦しいです。
ルーカスはきっとベスのことを心の底から愛してたし、ベスも友人として誰よりもルーカスのことを理解していたし、だからこそああいう選択を取ったのかもなぁと。
最初はルーカスが不憫に思えて仕方なかったんですが、
ベスがパートナーとして愛せないルーカスと結婚しても、ルーカスは本当の意味では幸せにはなれないかもしれないし。
ベスの選択も間違いじゃなかったんだろうなと2回目の観劇で納得できたような。

『Some Other Me』で、「今回の人生では愛し合う運命ではないけれど、違う人生だと僕たち2人は夫婦かもしれないし赤の他人かもしれない」とルーカスは歌います。
今回はそういう運命ではなかったけど、他の人生で出会ってなかったかもしれないし、この曲を終えてお互いを許しあって、ルーカスが一歩踏み出す姿にこれまた涙が止まらない。きっととても辛いのに、「또 다른 나는 락스타 멋지고 잘난 놈 이토록 초라한 바보는 아니겠지」と頑張って笑顔で歌うからまたまた苦しい。

リズの人生では友人として、リズの子供のベビーシッターとして側にいるルーカスですが、
ジョシを亡くした直後のリズを部屋に残して去る時も、何度も後ろを振り返ってリズのことを見つめていて。
きっとどの人生でもジョンウォンルーカスはリズの良い相棒なんだなぁとルーカスを見ながらやっぱり涙が止まりません。相変わらずルーカス贔屓で見てしまうそんなイフゼンでした。

他のキャストはあまり印象には残らずでしたが、思い出したらまた追記していこうと思います。
少し人生が生きづらい人、そうでない人にも皆さんに見て頂きたいミュージカル『IF/THEN』!

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