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1. コロナワクチンを打つと、精子の数は増える?

「コロナワクチンを打つと不妊になる」
などという話を聞きます。
実際のところ、どうなのでしょうか。
 
米国医師会雑誌に2021年6月17日公表された論文を紹介します。
Sperm Parameters Before and After COVID-19 mRNA Vaccination
 
マイアミ大学の研究グループが、18―50歳の健康な男性45人(年齢中央値28歳)のボランティアを募りました。ファイザー社かモデルナ社のmRNAワクチンの接種を受ける前と、2回受けた後に、精液サンプルを提供してもらいました。ワクチン接種後のサンプルは、2回目の接種から中央値で75日後に提供されました。
 
さて、その結果です。
 
接種前と接種後を比べると、精子濃度は1mL あたり2600万から3,000万、総運動精子数は3,600万から4,400万と、接種後の方が高くなりました。精液量と精子運動率も、接種後の数値が高くなりました。
 
びっくりですね。

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ただし、です。 
研究者の結論は、ワクチンの接種後に、精子に関する検査数値が「増加した」、ではありません。「統計的に意味のある減少はなかった」です。「減少しなかった」と結論しています。

 
その理由として、つぎの3点などを挙げています。
 
①男性45人のうち8人は精子の数の少ない乏精子症だった。このうち7人は、接種後の方が検査数値が高かった。接種前の数値がたまたま低く、接種後のデータの方が、より本来の値に近い可能性がある。
②今回見られた程度の数値の増減は、正常範囲の変化である。
③精子サンプルを提供する前の禁欲期間が、ワクチンの接種前(中央値2.8日)より接種後(3日)のほうが長かった。そのため、精子濃度などが高くなった可能性がある。
 
また、今回の研究の限界として、以下の点などを挙げています。
①対象者の人数が少ない。
②若くて健康な男性が中心で、それ以外の男性にも同じ結果が当てはまるかは留保が必要。
③ワクチン接種を受けない比較群を設定していない。
④精子に関する検査数値を調べているが、不妊そのものを調べているわけではない。
 
けっきょく研究者が言いたいのは、こういうことかと思います。
「精子に関する検査数値は、ワクチン接種前よりも接種後のほうが高いという結果だった。ただしこれは、ワクチンの接種が原因となって、検査数値が増えるという結果をもたらしたわけではないだろう。乏精子症の人が多かったことなどが理由で、たまたまこのようなデータになったと考えるべきだ。もっとも重要なメッセージは、ワクチンの接種の後に、不妊につながるような精子に関する数値が、すくなくとも減少はしなかった、という点だ。」
 
じっさい研究者は、つぎのように述べています。
「ワクチンに含まれているのは、ワクチンのメッセンジャーRNA(遺伝子)であり、生きたウイルスではないので、ワクチンが精子の検査数値に影響を与える可能性はひくい」
 
いろいろ解釈の余地のあるデータですが、この論文が発表された「米国医師会雑誌」は、世界の医学専門誌のなかでもトップ3に入るインパクトがあります。それだけこの問題に、関心を持つ人が多い、ということでしょう。
 
最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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