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怠惰

鉛色の空が雲を圧迫し、大地に降り注ぐはずの陽は見えずにただわたしの身体を蝕んでいく。

水戸橋の欄干で凝視ていた川面の小さな波紋を呼吸に変えてゆっくりと丁寧に歩き出した。

夕暮、真白の景色が紅色の様子を見せそこかしこに終焉のような街は、静かでまるでわたし以外の存在がないようであった。

隣町のmに会いに行き、怠惰でわたしたちは見つめあった。
そこにあったのは怠惰以外の何が両者にあっただろう。

怠惰、それに尽きる。なにもかもがけだるく、感覚がゼロになって、力が抜けていく。
わたしたちはお互いの身体を知り尽くし、そしてこの無情に辿り着いたのだった。

お互いに好きなものは似通っていた。
本の趣味も、音楽の趣味も、わたしたちは交互にそれらを受け入れ血肉とした。
文学的な死は、わたしたちにとって無用なものだった。
わたしは生きている限り誰かを傷つける可能性について恐れていたし、かといって仮に宗教に身を投じていたとしても、殉教者の真似をしようとはつゆほどに思っていなかった。

彼はわたしを軽蔑していた。魂の純度がないことに。

わたしは彼を軽蔑していた。臆病な故に汚れを知らないことに。

わたしは彼と別れて、焼残山からの強風で身を縮めながら、水戸橋を歩いて、雪の欠片に触れた。
わたしは彼をこの欠片のように優しく抱きしめるべきだったことに気がついた。

だが、もう遅かった。わたしたちは坂のように下りながら、終点のない道を、ただ、怠惰で両者を蝕んでいくのだろう。

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