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集合場所

「また明日」
って言って別れたい。
自分にも、あなたにも。



大きいくせに軽いランドセルを揺らしながら家に帰り、
玄関で靴を履き替えサッカーボールを手に取る。
錆が目立つチェーンにすら気づかずに自転車にまたがり、
みんなが待っている公園へ。

街中の”良い子”が家に帰っても、
サッカーボールを追いかけてた。
「おれのクラス、明日席替えなんだよ!」
そんな話に花を咲かせたあと、
「また明日な。」
と言って真っ暗闇の中自転車の小さいライトを頼りに解散する。

「学校だるいな。
てか、昨日の進撃の巨人見た?」
着慣れた制服を纏い、目ヤニをほじりながら住宅街を抜けていく。
夕焼けが広がるグラウンドの方々から聞こえる元気な声を背に門を抜ける。新作マンガの話が盛り上がってきたタイミングで分かれ道。
「またあしたな~。」
と言って各々の放課後へ。

「うわ、お前まだ飲めるだろ!抑えてんなよ~!」
どこで覚えたのかわからないコールを吹っかけていたと思ったら、
目の前の電柱のふもとに腹に入れておいたはずの夢をばら撒く。
朝焼けが鳥たちの合唱を指揮しているのにも関わらずフラフラと帰路に向かう。
騒がしい頭重感を抱えながら長方形のディスプレイ上で指を踊らす。
「また飲もうな。」
と送り、すぐさま眠気を満たす。

「うちの会社忙しくてさ。それに結婚とか考えてるし。
まずはお金貯めなきゃだから。」
シワが目立ってきた制服を纏い、四角いデバイスをスクロールしてたら最寄り駅。
いつしか地下鉄特有の騒音すらも気にならなくなった。
インスタの投稿頻度の高いあいつの素性を勝手ながら推測しては腹が立つ。
「金ねえのに好きな事ばっかやってるからどうせ数年後落ちぶれてんだろ。」
と思ってたら、仕事の時間。



ずっと明日があるんだと思ってた。
また集まる場所があるんだと思ってた。
どっかでまた会えるんだろうなと思ってた。

あるシンガーは大声で歌っていた、
「同じ空の下で」って。
でも今頃集合したってサッカーボールを追っかけるわけじゃないし、
お互いの夢を語って夜が明かせるわけじゃない。
せいぜいアルコールの力に頼ることしかできないじゃないか。

「君はいいね。好きなことが出来て。」
いつかの誰かに言われた。
僕からしたらあなたはどうなんだと言いたくなった。
まるで不条理な社会に背を向けて鼻歌まじりで白昼夢を見ているかのように。
僕があなたにとってそう映っているような気がした。

僕はただ一生懸命に生きているだけだ。
来たる明日に向けて一生懸命に生きようとしているだけだ。
謎に満ちた自分自身の機嫌を取りながら、社会との接点を探しているだけだ。
それのどこが白昼夢なのだ。
僕が不条理な社会や汚れた残酷さを知覚していないとでも思っているのか。

先に並べたように、
生きるというのは変わっていくことだ。
集合場所は変わっていくんだ。
馳せる明日も変わっていくんだ。
それは何も悲しい事ではない。
社会に出る残酷さを示すものではない。
ただ生きているだけだ。
ただ変わっていってるだけだ。

であれば、
変わった集合場所でまた集まればいいではないか。
変わっていく”馳せる明日”について語り合えばいいじゃないか。
社会の残酷さに汚れた者同士、笑い合えばいいじゃないか。
ただ生きていくことをやめないでいようじゃないか。

誰が先に到達するのかという話なんかは余計なお世話だ。
誰がたくさんのモノを持てるかという話はあの世でやれ。
僕と、あなたがそれぞれ生きてきた足跡を、
ただそれだけを持ち物に、
また明日。

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