しょーもないmvのための数日間
0910
mvの撮影まであと5日しかないことに気がついて焦って気が狂い、機材屋のバイトを休んで葛西臨海公園に行って石を拾う。その辺が地元のカトーももかに連れて行ってもらった。mvのセットが宇宙ぽい感じにして欲しいと言われていたので、月の表面を作ろうと思って退廃的な物があればなんとかなると思ったから。鉄クズとかあればいいだろうとか思っていたが、普通に考えて海に鉄クズがあるわけなかった。(まず先に海に沈むから)鉄クズが見つからず、落胆して加藤家のベランダ的なテラスでchillをしようとしたが、全然chillどころではなく、私は顔が真顔だった。カトーももかが、あれはどう?これは?とアイデアを提案してくれたが、耳に入ってこなかった。こんなことしてらんない、と加藤家を飛び出して2時間かけて帰宅した。なんだったんだろうこの1日は。バイト行けば良かったのに。
0911
夜に、ヘアメイクの話し合いのために溝の口のカラオケ屋に集まった。妹にメイクを頼んだので妹を連れて行った。なんだか意味がわからなくて、やっぱりこういうことに家族を連れ出すのは面倒だからこれからはやめようと思った。私の知り合いと妹が絡んでいるのは普通に考えて意味がわからないというか、画的におかしい。メイクの話し合いと同時に、いろいろと他のことも話し合う。なんだかイライラしてきてしまった。どうしてこんな他人の曲なんかに、金も払われないのに、というか私も赤字になってまで、ここまでしないといけないのか。もうmvなんか作っても私にとってほとんど意味はないし、別に好きでもない曲なんかどうだっていい。こんなにも労力を削られながら、要望を受け入れ、こちらの要望を否定される。これはどう?と言っても、いやそれはちょっと、と必ず返される。私は便利屋か。調子に乗って簡単に引き受けた私が馬鹿だったと、とても後悔し始めた。このmvは2本目で、1本目を頼まれた時は私もまだカメラの使い方さえも知らないような感じだったから、報酬はなしで、掛かるお金は割り勘でというお試し形式だった。それは仕方ないと思うが、今回もなぜか同じ感じで進んでいる。いや、確かに報酬を請求するのはまだ早いが、掛かるセット代とスタジオ代ぐらいは全て払っていただきたい。スタジオで撮影したいと言ったのはそっちでしょう、全部払えや!私はスタジオなんかで撮影するものに興味はない。という怒りが生まれてきた。だがもうお金のことをはじめにちゃんと話していなかった自分も悪い。だが向こうの、全部要望通りにやってくれて当たり前みたいな態度にイライラして仕方なくなって、黙ってしまった。帰りの電車で、妹にこう言われた。金を払ってないにしては、あいつらおかしいよ、絶対もうやめなよ。私は妹が味方でいてくれて良かったと、涙を流しそうになった。
0912
機材屋のバイトに行き、もくもくと働く。やっぱり手を動かして働くのは清々しいと思う。帰って、日が昇るまで絵コンテを描き続ける。だが全然、ここまで来ても作りたいという情熱が湧いてこない。苦しかった。
0913
昼に起きて、髪を切りに行く。大して髪は伸びていなかったが、髪を短くしたら気合いが入るかも知れないと思って、切りに行った。美容師さんと話すのが楽しく感じた。この美容師さんはいつも頼んでいて、勢いよく豪快にめちゃくちゃ切ってくれるので、お得感があるのだ。頭が涼しくはなったが、あまりやる気的なものは変わらなかった。家に帰って絵コンテを描く。23時からzoomで全員での話し合いがあったから絶対に終わらせなければいけなかった。そして香盤も終わらせなければいけなかった。18時ぐらいから助監を頼んでいるとても信頼できる琴実という女と、電話をして香盤を作り始めた。頭の中がパンクしそうだった。効率よく撮るためにはめんどくせー綿密な撮影スケジュールが必要だった。勢いで描いた絵コンテなので、馬鹿みたいにカット割り、シーン転換をしていて普通に撮り終わるのはワンチャン無理かもという感じだったから。香盤を作り終わったのはギリギリの時間だった。どちらも疲れ切っていた。琴実に申し訳ないと思った。こんなにも面倒な作業をさせてしまって。やはり自分でやれないことはやるべきではない。話し合いでは、まだまだテキトーに描いただけの絵コンテを、あたかも立派なものかのように説明した。それでもまだ、あとこんなカットが欲しいんですうとか言われて、ブチギレそうになってしまった。話し合いが終わって、やっぱりこれは撮り終わるわけがない、撮り終わらなくて嫌な気持ちになりたくないと思い、絵コンテを描き直すことにした。だがもう眠すぎて寝た。
0914
寝過ぎて昼に起きた。絵コンテを描いている夢を見ていた。寝起きは汗まみれでもう全てから逃れて海で泳ぎたいと思った。それでも、仕方ないのでまた絵コンテを描き始めた。夕方琴実から電話が来る。大丈夫?と心配してくれた。絵コンテ描き終わったら香盤また組み直そうと言ってくれて、本当にありがたい女だと思った。結局絵コンテが描き終わったのが朝の4時ぐらいだったので、さすがに琴実に電話を掛けるのはやめておいて、セットを準備することにした。銀メッキスプレーで空き缶とか木片とかを銀にして、宇宙ぽいものを作っていく。もう宇宙ぽいとかやめてくれと思う。宇宙ぽいとかいうアホみたいな要望を聞き入れたのが馬鹿だったと思う。宇宙と言ってもいろいろあるし、宇宙は場所だが、場所にしてはデカすぎるという問題があり、一体それのどこを汲んでほしいのか、多分本人もわかっていなそうなのが非常にイライラした。もう宇宙という言葉アレルギーになりそうだった。セットで使うものを前日というか当日に作っている自分にも幻滅した。日が昇ってから布団に入った。
0915
mv撮影当日になってしまった。香盤表が出来ていない。夜23時から撮影が始まるから、それの前にどうにかして作るしかない。だが柳澤さんの結婚式に参列するという大切なイベントがあったので、それが終わってから琴実と電話をして香盤を組んでいった。もうこの辺まで来ると逆にどうでもよく感じられて、すらすらと香盤を書き終えていった。諸々の荷物を準備して、たったの20分だけ仮眠をとって、スタジオに向かった。眠すぎて死にそうだった。こんな死にそうな感じで全て撮り終えられるのかとても不安になった。駅に着くと、急に雨が大量に降ってきた。バンドメンバーが先に到着していて、撮影陣はまだ来ていなかった。雨が降っているねえ、どうするー?と呑気な口調で言われて私はまたイライラし始めた。だからどうしようってんだ、じゃあタクシー呼びますか?全員分の傘買いますか?と言っても、それはお金かかるから、と言われ、じゃあ黙っとれと、またブチギレそうになってしまった。寝不足だったのでかなりキレキレだった。スタジオに着いてからもキレキレででかい声を深夜テンションで出していた。そうしたら割と順調に撮影が進んでいった。あまりにこだわりがなさすぎて、ほとんど2テイクぐらいまででokにしていた。全てどうにでもなりなさいという思いばかりで進めていたので、90分巻きで終わって、朝日が昇りゆく池袋の汚い街を眺めながら、たばこを吸っていた。隣にはひとつ年下で映像専門学校に通っている音花という孫のような女の子がいて、私のいろいろな文句を聞いてくれていた。いつだって友達に助けられて生きている。
0916
大量の荷物を持って朝9時ぐらいに家に帰ってきた。クソ疲れて、眠いを超えて何が何だかわからなかった。昨日がどれかわからない。結婚式が2日前で、この撮影が昨日のことのように思えて混乱した。全て1日の出来事だっていうのに。風呂に入って布団に入って、目覚ましをかけ忘れていた。残念!バイトに寝坊した。フィルムカメラの方のバイトで、店主のコダマさんにLINEして、急いで向かう。まだ全然眠い、言うて4時間しか寝ていない。店に着いて飛び込むと、なんで寝坊したんや!と当たり前にオコられた。なので罪滅ぼしに出来る限りテキパキと働いた。ネガを切り、フィルムを取りに行き、レタッチをして、データをメールで送り、最後に床をホウキで掃いて、落ちているゴミを全て路上に掃き出しておいた。コダマさんに、これらのmvの撮影のことを話したら、わかるよその気持ちは、絶対忘れたらあかんよ。と言われた。多分、忘れないと思う。