中部ブロック代表・愛知県立津島北高校『ジンコちゃんの世界』(作、畑澤聖悟)

演劇部概要

部員は25人(2020年8月現在)。練習場所として最近まで体育館を使っていましたが、改修工事に入ったので現在は教室で練習しています。津島北高校は部活では運動部、特に陸上部が強い学校。演劇部はもともと小さな部活で、過去の記録を見ても総文祭に出るのは初めてだということです。

あらすじ

『ジンコちゃんの世界』は今大会にも出場している青森中央高校の畑澤聖悟先生の作品。主人公の高校生・サチコはテストで赤点を取り、生物教師のシミズに瓶を渡されます。「中の生き物を観察してレポートを提出しなさい」。瓶の中にいたミジンコ「ジンコ」たちの世界とサチコの日常が行ったり来たりする中で、サチコが置かれている境遇が明らかになっていきます・・・。

唯一の“2年連続参加校”

今年の総文祭には去年の佐賀から2年連続出場した学校は1校もありません。それほどに高校演劇で全国大会に出場することは難しいのですが、今回唯一2年連続で総文祭に“参加”した学校が津島北高校でした。2019年の佐賀総文祭に、生徒講評委員として津島北高校演劇部から部員の千賀理緒さんが参加していたのです。生徒講評とは、生徒講評とは全国大会に出場できなかった高校の演劇部の生徒たちが、公演作品を観て公開で討論し公表しあうもので、2019年の高校演劇特集でも音声を紹介しました。全国大会で生徒講評委員をしたことが、全国大会への初出場につながっていくのです。

「先生を中部大会に連れていきます」

津島北高校演劇部は顧問の酒井和美先生曰く「地区大会レベルの弱小演劇部」でした。千賀さんたち部員は、ブロック大会出場を目標にしていましたが、1年生、2年生の時は県大会で敗退。2年生で引退するつもりだった彼女の「来年(3年生)は観る側だな」というつぶやきに、顧問の酒井先生が「いや、こっち側にいるでしょ」と返しました。その言葉で彼女は引退を撤回し演劇部に残る決心をします。「先生を中部大会に連れていきます」、そう誓った千賀さんら演劇部員たちは当初、顧問の酒井先生の脚本でブロック大会を目指そうとしましたが、酒井先生の答えは「私の脚本ではブロック大会まではいけない」。そこで、彼女たちが選んだ作品が『ジンコちゃんの世界』でした。この作品は、彼女たちが1年生の時に脚本を「こういうのをやりたいんだよね」と酒井先生に渡されていましたが、そのときの彼女たちの返事は「こんなのムリ」。ブロック大会を目指すという目標のなかで再び脚本を読んだ彼女たちは「いまならできるかもしれない」と上演作品に選びました。彼女たちのやる気に応え、顧問の酒井先生は中部ブロックの全国大会常連校・岐阜県立岐阜農林高校との合同練習をセッティングしました。全国レベルの学校との合同練習で演劇としての基礎力の高さを体験した千賀さんは「これは敵わん」と感じ、発熱したそうです。一方で、基礎の高さでは岐阜農林には勝てないので、違うところを伸ばす必要性に気づかされます。2020年の総文へは中部ブロックからは2校出場が可能、なんとか2位通過を目指す、千賀さんたちの模索が始まりました。

全国大会の経験を自分たちの舞台に生かす

2019年の地区大会後、彼女は大会結果が出る前に佐賀総文祭へ参加しました。それまでTVでしか見たことがなかった総文祭でしたが、千賀さんは不思議と「同じ高校生じゃん。大丈夫だ」と思い、「全国」が身近に感じられたといいます。彼女は生徒講評委員としていくつもの作品を観るうちに、全国大会に出場する学校は「一貫した何か」が、わかりやすく伝わってくると気が付きました。また、全国大会に出場する学校はその学校にしかない武器を持っていることもわかってきました。千賀さんの分析では「津島北高校はひとり一人の技量では他の学校の芝居には敵わない。ただ、一つの目標に向かって全員で突っ走れるチームワークは津島北の圧倒的な武器だ。顧問の酒井先生は生徒を成長させること、組織作りにおいてはどんな強豪校の顧問にも負けない技術やセンスを持った人だ。武器を伸ばすには、一つの武器をひたすら集中して磨くしかない」。千賀さんは全国大会を経て「引く作業」の重要性に気が付きます。「私たちはいいと思ったから全部を詰め込むのではなくて、冷静に取捨選択していって美味しい部分をもっと美味しくしていく方が向いている。上級者を小手先だけで真似をしてはいけなかったんだ」。そのことに気が付いてから、「ここの動きはお客さんに与える情報量が多いから削ろうか」といった引く演出をつけるようになったといいます。県大会を突破して、はじめて臨んだブロック大会で、初めての全国大会出場を決めた千賀さんは「上演後ベスト3に残ったと確信したが、まさか1位通過とは思わなかった。1年生の時には県大会に出るだけでもすごいと思っていた。そんな状況からスタートして結果を残して演劇部人生を終えられたことが良かった。特に津島北の名を残せて、顧問の酒井先生を全国に連れていけたことが良かった。将来は先生として高校演劇の世界に戻ってきたい」と語りました。千賀さんは現在、表現型の大学に通いながら劇団に加入し、演劇を続けています。

作品はこちらからご覧いただけます。(著作権の関係で音声がミュートされるシーンがあります)

https://www.websoubun.com/dept/theater/page/006.html

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