300字小説『いつか来た道』
高校三年の冬に祖父が亡くなった時、俺は大学受験の結果の方がよほど気掛かりだった。葬儀の事もほとんど記憶に残っていない。
そして今年、大学卒業間近の俺の元に母の訃報が届いた。
女手一つで俺を育ててくれたのに、俺は就活が終わらずに死に目に会う事ができなかった。
故郷を離れていた俺に代わり、伯母が喪主を務めてくれた葬式で流れたシーナ&ロケッツの『この道』を聴いて、ふと祖父の葬式を思い出した。
曲調こそ違うが、こんな曲が流れていたような。
葬儀が終わって調べてみると、元は古い童謡らしい。
俺のスマホを覗いて、伯母が言った。
「おじいちゃんがよく歌ってくれたんだ。お母さんはこのカバーが好きだったんだよ」