短評「なみだ坂診療所」(2018年10/12号)
今号の「週刊漫画TIMES」誌(2018年10/12号)連載中の「なみだ坂診療所」(向後次雄・宇治谷順)、いつもよく練られた医療ドラマで感心するところが多く、楽しみにしている連載であるが、今回は、いくつか気になる点が多かった。以下ややネタバレ注意である。
まず、ワルファリンは「高血圧の治療薬」ではない。登場する患者は中高年の女性で、健康に気をつけている人物。肥満などもなく、特に脳梗塞や心筋梗塞やってる感じではないし、肺塞栓起こしてる感じもない。このような患者像をみるに、ありえそうなのは、DVTなどの深部静脈血栓症ではなかろうか? あるいは多忙で移動の多そうな職種というところからエコノミークラス症候群も考えられるが、いずれも、最近はDOAC(NOACとも言われる)を使うことが多いので、ワルファリンはやや古めの処方になりそうだ。
また、食品(今回はマンゴー)によるワルファリン作用増強が、重要な道具立てになっている。納豆や青野菜などによるワルファリンの作用減弱は有名だけど、食品による増強はめずらしく、自分も知らなかった。エーザイの「Warfarin適正使用情報 第3版」をひいてみても論文一つ挙がってるだけ。それもLetterであり、アブストラクトもついてないので、購入しないと内容が分からない。かなりトリビアルといってよいネタである。
さらに調べると、食品との相互作用についてもう少しつっこんだレビューがあるが(2014)、そのアブストラクトにはこういった相互作用について「エビデンスがほとんどない」と記載されている。そんな状況。
今回は、患者が急に大量のマンゴーを食べて、出血傾向が増強され、その後転落してひどく出血してしまったというエピソードなので、つじつまは合っているのだが、とにかくワルファリンは食品・薬剤ともに相互作用が多いクスリなので、ひょっとしたら、併用してるサプリメントも一因かもしれないと思わされる。
ちょっとここで考えてみるのだが、マンゴーよりも確立されている相互作用として、ミコナゾールゲルによるワルファリンの増強作用を利用したエピソードはどうだろうか。
たとえば、婦人科あたりで併用薬をチェックせず、膣カンジダなどのためにミコナゾールゲルを処方され、そのまま併用してしまって出血イベントを起こす。これは実例もあるし、診療科が異なることからもありがちなピットフォールであろう。
また、現実問題としては、既往歴を確認するためにお薬手帳を調べる、みたいなくだりがありそうだ。お薬手帳は、健康に気をつけている患者なら、まず携帯しているはずである。けっこう重要なツールになりつつある。