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薬煉(天鼠:クスネ)の製作

薬煉は弦の中仕掛けや、弓の握り革を巻くときに使う松脂製の接着剤です。
大学1年生の時から作り続けています。
高校時代は接着剤というと、木工用接着剤や瞬間接着剤でしたが、大学時代はオール薬煉でした。

薬煉の作り方については、『紅葉重ね・離れの時機・弓具の見方と扱い方(浦上 榮 著)』に次のように記されています。

「天鼠(くすね)の作り方」は、材料として胡麻か大豆の油二十滴(茶匙(ちゃさじ)一杯)、松脂五、六匁(新しいほど良い)、茶碗または土瓶(瀬戸物を用い、金属品は引火することあり)、このほかに茶呑茶碗に水一杯入れて用意する。作り方は茶碗か土瓶に二十滴の油を入れ、五匁の松脂を砕いて入れ、「とろ火」に掛け全部溶解した時、火より下ろし、用意した茶碗の水の中に一滴落とし、水の中で拇指の爪と食指の腹とで強く押してみる。冬は切れる程度、夏は爪型の半分通るくらいがちょうど良い。もし柔らか過ぎたら砕いた松脂を少量加え、溶解したら再び一滴水に落として試みる。堅ければ油を適度に入れて火に掛け、この時は少し長く煮る。ちょうど良い時、火から下ろしドロドロの時天鼠革(くすねがわ)に取る。残りはそのまま保存し、入用(いりよう)の時トロ火または蒸気等で熱を加え天鼠革に取る。今述べた方法は、およそ十月中旬頃のもので季節により硬軟がちがう。

1.はじめに

上述のような薬煉革(薬煉を革に盛り付けて挟み込んだもの)ではなく、竹ベラにクスネを盛り付けた『薬煉棒』の作り方について述べていきます。

2.準備するもの

すべて自然由来の材料です。

【材料】
松脂(しょうろ)のブロックと胡麻油です。
松脂は漢方薬局(喘息の薬として販売されています)から購入。胡麻油は普通にスーパーマーケットで購入しました。
【使用する道具】
水の入ったバケツ、フォンデュ用鍋(陶器)、カセットコンロ、竹ベラ、切出し、使い古しの握り革、切ったシャフトです。

実際には、屋外で松脂と胡麻油を溶解させます。

3.松脂と胡麻油を加熱・溶解させる。

フォンデュ用鍋に松脂と胡麻油を入れて、カセットコンロにかけて溶かし混ぜます。
火力は無論トロ火です。強いと速く溶けますが、気化した油分に引火しとても危険です。

当初は、空き缶に松脂と胡麻油を入れてトロ火で煮ていましたが、あっさり引火してしまいましたので、以来フォンデュ用鍋で作っています。

現在、おでんの出汁と同様に継ぎ足しで作っています。
前回は一昨年の初夏に作った夏用の薬煉だったので、加熱開始と同時に胡麻油を適当に投入。
夏用薬煉は油分が少なく、パリパリなのでうっすらと油面が覆われる程度に入れました。
10分ほど煮込んで混ぜて、一応薬煉は完成。

4.竹ベラの準備

煮込んでいる間に竹ベラを準備します。
竹の表皮は、合成接着剤や塗料を塗ってもすぐに剥がれてしまいます(漆も寄せ付けません)。そのため、竹の表皮は切り出しですべて削ってしまいます。さらに、接着場所を傷つけずに薬煉を塗りつけるために、竹ベラに使い古しの握り革を巻きつけておきます。

竹ベラに握り革を巻いてみました。

5.薬煉の硬さを確かめた上で、竹ベラに盛る。

水を張ったバケツに溶解した薬煉を1滴垂らし、硬まるのを待ちます。
固まった薬煉を親指の爪と人差し指の腹で潰してみる。
しっかり潰れるようであれば冬用としては合格。
もし潰れ方が不足するようであれば、さらに胡麻油を若干加えて更にトロ火で煮る。

火を止めて、自然冷却して薬煉がドロドロになったら、すぐに竹ベラに薬煉を乗せていく。
あとは自然冷却で固まるまで待ち、クッキングペーパーに包んで完成です。

これが薬煉棒です。

6.こんなこともやってみました

大学時代にこんな実験をしてみました。
『薬煉に適しているのは、松脂と何の油か?』
候補その1)胡麻油・・・前述の通り浦上榮先生の著書より
候補その2)サラダ油・・・調理で使う油の代表格
候補その3)オリーブオイル・・・ヨーロッパ料理で使う油の主力
候補その4)機械油・・・自転車のチェーンによく使います

作ってみた結果、どの油でもいいのですが・・・
粘りっ気からいえば
胡麻油>サラダ油>オリーブオイル>機械油
でした。
粘度は重要ですね。

7.薬煉使用上の注意点

使う上での注意点です。
気温が低い環境では、寒さのために薬煉は硬くなってしまいます。
必ずヤカンの蒸気や体温で温めて柔らかくしてから使ってください。火気で温めると、薬煉から油分が蒸発してしまい、更に硬くなってしまいます。

8.最後に

前述の通り、わたしは中仕掛けや握りを作るときには必ず薬煉を使っています。
その理由は、
① 自然由来の接着剤であること。
② 薬煉で中仕掛けや握り革を巻くと、完成直後から弓を引くことができる。
③ 使えば使うほど溶けて接着力が強くなる。
④ 剥がした後に、薬煉がこびりついて残ることはない。
です。木工用ボンドだと、乾燥固化するのに最低一晩待たねばなりません。

もし、このようなエコな接着剤を使ってみたいと思ったら、作ってみてはいかがでしょうか。

長くなってしまいました。
読んでいただきありがとうございました。

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