亀すくいを2回…





「あんたいくら使ったんよぉぉぉぉぉぉ!」

リビングにそんな怒号が響き渡った

弟が母から大説教を喰らっている。






うちの地元では、2月頃に天神祭というイベントが二日間にわたり開催される。


屋台がたくさん並んで、小さいステージで楽器を演奏している人がいたりと毎年盛り上がる楽しい催しものだ。


弟はこのお祭りに友達数人と行ってきたらしい。


当時弟は小学5年生。お祭りとなると、ワクワクする年頃である。


お小遣いを握りしめて二日間、この天神祭を楽しんできたのだろう。



そんなある日


僕が学校から帰ってくると、玄関に見慣れない亀が水槽に入れられていた。


亀? 少し疑問に思いつつも、そこまで気にすることなくスルーした。


リビングに入ると、昼間お祭りに行ってきた弟がいた。


屋台で貰ってきたであろう景品たちをたくさん並べている。


その数々を僕に色々見せてきた。


「見てみて、このヨーヨー!ほらほら、このおもちゃ光るねーん!」


僕自身も、別にこういったお祭りの景品に興味がないわけじゃなかった。


だから弟が見せてくるおもちゃに対して、退屈はしなかった。


しかし、この時僕は弟が見せてくるおもちゃの数があまりにも多いなあと感じたが、そこまで深くは考えずに、引き続き獲得景品を紹介してもらった。




そして時は夜を迎える。


母親が仕事から帰宅する。


母はお祭りに行ってきた弟に、渡したお小遣いが残っていたら返して欲しいと催促した。


お祭りように渡したお金だから、余っていたら返すのは当然と言えるだろう。


しかし、どうやら弟の様子がおかしい。


もらったお小遣いを全て使ってしまったのだろうか。


いや、それに対しての同様じゃない。


それを見かねた母親の雲行きはどんどん怪しくなっていく。


そして母はあることに気付いたのだった。


母「なんかめっちゃおもちゃあるな」


そう、渡したお小遣いでは到底足りないほどのしょーもないおもちゃの数々。


弟の様子がおかしい。


何かを察知した母親が




「あんたいくら使ったんよぉぉぉぉぉぉ!」



母からの激しい怒号に対して、弟がついに口を開いた。






「8500円…」







「8500円⁈」


思いがけない額に母は驚愕した。

同じ部屋にいた父姉、僕までもがその額に驚く。

「8500円⁈」

「ぷっ…」

「あははははははーー!」父姉自分爆笑



母「8500円も何に使ったん?」

「あんた何考えてんのぉ?」


弟だんまり


母「その8500円何に使ったんが全部言っていって」

無謀な話である。


弟は8500円も使ったのだ。それの使い道を全て覚えているわけなどない。


一週間の食事、何食べたか全部教えてくれ。というほどに無茶な要望だ。


だが、母からしたら当然の話である。


だって弟は、たかがお祭りに8500円も使ったのだ。


お祭りなんて、2000円も使ったら。だいぶ使いすぎたなーって感じるほどである。


でも舐めてもらっちゃあ困る。弟は8500円も使ったのだから。


おそらくその二日間。屋台最高消費額ダントツのNo. 1だろう。


次点でも5000円くらいじゃないか?


そのNo.1の男がまさかの11歳のがきんちょ男の子。


どうかしてる


アルバイトでも8時間半ほど働いてやっともらえるような額。


それを全てお祭りの屋台のしょーもないゲームにつぎ込んだインディーズギャンブラーなのだ。


怒られる弟に対して、父はからかうように我々に追い討ちをかける。


「8500円やってーーーーー!笑笑」

「8500円なんか聞いたことないわー!」


「ぎゃははははははははーーー!」姉自分爆笑


それにつられて弟も思わず吹き出した。


それを見た母は


「あんたが何笑ってんのおーー!」


と怒りを飛ばす


怒られて当然だ。


だって弟は8500円も使ったのだから。




そもそも、何故弟はこんなにお金を持っていたのかを説明しよう。


おそらくお祭りのお小遣いとして母親からもらったお金は1500円程度である。

しかし弟は、もっとお金を持って行きたくて自分の貯金箱からもお金持っていっていいかと母親に交渉していたらしい。

当時弟は、おじいおばあからそれぞれもらえる1000円のお小遣いを、使い道もなかったので貯金箱に入れていた。

その箱に溜まっていた額が7000円。

母親からの返事はオッケー。

その7000円を全て持って行って、合計8500円を小5が持ち歩いていたという結論である。



そして弟はその8500円の使い道を少しずつ話し始めた。


弟「まず、たこ焼き食べて…」

母「はい、たこ焼き。いくら?」

弟「500円」


ちょっと高いとこのたこ焼きを食べてるなぁ

たこ焼き大体300.400円で食えるけどな


母「はい、他は?」

弟「スーパーボールすくい」

母「スーパーボールすくい、いくら?」

弟「400円…」



やっぱりちょっと高いとこでやってるなあ


300.200円でやれスーパーボールなんざ


ほんで2回すな、1回で満足せえ



その後も母による尋問が長々と続いた。


弟からしたら地獄、しかし我々からしたらある意味エンターテイメント


さあ、次は何くる?何くる?と楽しみで仕方なかった。

まだまだ終演の幕は下がらない。



母「はい、あとまだそれでも8500円にはいかんな?他まだなんかやったやろ?」



もはや取り調べやん。

まだなんか隠してることないか?のやつやん

追い詰めんなよそこまで

机の上に電気スタンド見えてきたぞ

そんな中、弟は必死に記憶の道筋を一歩ずつ辿っていった。



「射的やって…スマートボールやって…ボール投げて缶カン倒すやつやって」



めっちゃやってるやん。


バンバン金使ってるやん


一緒にいた友達どう思ってたんやろ?


コイツいくらでも金出てくるなあ…


そう感じていたに違いない。


ほんで缶カン倒すやつって何?

んなもんに金使うな



母「お金使いすぎ。他は?」

弟「亀すくいを…」



はいっ?

亀すくいっっ⁇

え、何それ?

金魚じゃなくて?

亀ぇ?

もっと耳馴染みないやつきた



母「亀すくいいくら?」


弟「600円…」



いや、亀すくい高いなぁ。

ほとんど敵屋やろその額


母「何回やった?」

弟「2回…」


だから1回で満足せえって!


なんでどの店もどの店もリピーターになりたがるねん。


ほんで亀すくうのに1200円もかけんな。


玄関で見た亀、お前がすくうてきたやつやったんかい。



弟「亀持ってかえんのに100円…」



何から何まで金取るやんその店。


足元ガン見されとんなお前。




その後も母からの説教は続いたが、弟も流石に全ては覚えておらず、なんとか尋問は終わりを迎えた。

その後もしばらく、父、姉、僕の笑い声が耐えることは無かった。


8500円。



この額を聞いただけで今でもこの事を思い出してしまう。


本当に馬鹿やな。そう思う。


ちなみに弟は8500円もどうやって屋台に使ったのか?


全ては覚えてないが、参考までに弟の天神祭消費リストを作ってみよう。



天神祭 2days 消費額

たこ焼き 500円×1
スーパーボールすくい 400円×2
射的 500円×3
スマートボール 300円×8
缶カン倒すやつ 300円×3
亀すくい 600円×2 + 持ち帰り代100円
ポテト 300円×1
唐揚げ 300円×1
その他もろもろ 400円


最後、母親が弟に聞いた


母「楽しかったん?」


弟答える


弟「楽しかった…」


母「ほなええけど」


いや、それで済まされへんほどのボルテージ叩き出してたで?

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