ええもん見せたろか?
僕は生粋のおじいちゃん子だった。
おじいちゃんおばあちゃん家は大阪市内
実家からは離れているため夏休みや正月など、大型連休の際にしか会いに行けなかった。
遊びにいった時には、おじいちゃんに必ずと言って良いほど、どこかに連れていってもらった。
近所の公園に行ったり、交通科学博物館に行ったり、天保山に行ったりと2人で色々な場所へ訪れたものだ。
もしかしたら、おじいちゃんは男の子供がいなかったから、孫として初めて男に生まれた僕のことが可愛くて仕方なかったのかもしれない。
おじいちゃんはものすごく穏やかな性格で、怒ったところを一度も見たことがないほどに温厚で優しい人だった。
母親に話を聞いても、ほとんどおこつたところを見なかったらしい。
だが唯一、一度だけブチギレてる所を見たことがあるらしい。
母親の妹、僕でいう叔母が野球中継が流れていたテレビのチャンネルを勝手に変えたときに
「なんしてんコラァァァァ!」
と突然怒ったのだという。
彼にとって野球中継は何よりの楽しみだったのかもしれない。
それにショックを受けた叔母が、「もう家出する!」と言って、ペットボトルくらいしか入らないカバンに荷物を詰め始めたらしい。
普段温厚なのに、意外なところに地雷があった。
逆におっかないかもしれない。
そんな一面を持つおじいちゃん、僕達孫からは"じじ"という愛称で呼ばれていた。
そして、時は遡る
僕がまだ小学生になるかならないかぐらいの事
その日は3つ上の姉と僕の2人でおじいちゃんおばあちゃんの家に泊まりにきていた。
おばあちゃんちというと、意外と退屈なイメージがあるかもしれない。
家に着いて、久しぶりー!的な会話を終えた後は、はっきり言ってすることがない。
この年頃の子供は、世間話に花が咲かない。
しかし、ウチのおばあちゃんの家にはスーパーファミコンがあった。
これのおかげで僕はおばあちゃんちに来ても退屈しなかった。
むしろこれが楽しみでもあったからだ。
おばあちゃんちに着くなり、僕はすぐスーパーファミコンのスイッチを入れる。
だが、その暇つぶしも長くは続かない。
数分後、ゲームに飽きた僕が退屈そうに寛いでいると、それを見かねたじじが僕にこう言ってきた。
「良いもん見せたろか?」
か細い声から聞こえるだいぶアバウトな問いかけ。
何故、こういう時ってはっきり言わないんだろう?
少しでも驚きを増幅させたいのか?
シークレット感ある方が楽しみが大きいのか。
まあでも、本人が良いもんと自負している。
そんな楽しいものを見ないわけがない。
僕は迷うことなく、じじに「見せてー!」といかにもわんぱくな返事を返す。
すると、じじがクローゼットの上から1つの箱を取り出した。
少し埃が被った箱を開けてみる。
その中には、完成された小さな戦闘機のプラモデルが入っていた。
おそらくじじが何日もかけて、形になる日を楽しみに作ってきたプラモデルだろう。
それがついに完成したのだ!
そういえば、今度2人の孫がウチに遊びにくる。
そうだ、このプラモデルを見せてあげよう。
きっと喜んでくれるぞー!
そんな思いがこもっていたのかもしれない。
じじが作ったプラモデルを見た僕は、そのカッコいいフォルムにテンションが上がった。
すげえ!かっこいいー!
その姿を見たじじもご満悦
よしよし、良いリアクションを取っているなあ。
そう思っていたかもしれない。
気分を良くしたのか、じじが戦闘機を僕の手に持たせてくれた。
「ほら、飛ばしてみい。」
じじがそう言う。
へえ、これ飛ぶのか。
すごいな、どんな飛び方するんやろ?
面白そうやな。
そう思った僕は、その戦闘機を思いっきり投げてみることにした。
その、数秒後…
ガシャーーん‼︎
案の定と言う言葉以外見つからない。
僕はプラモデルの戦闘機をブン投げて壊してしまった。
小さいながらもその戦闘機が飛ばないことは分かっていたのかもしれない。
しかし子供は単純だ。
「飛ばしてみぃ」という言葉をそのまま受け取り思いっきり投げてしまった。
無惨にも畳に散らばる破片達。
それを見たじじから漏れる声。
「ああ……」
人間、本当に驚いた時って声が出ないのかもしれない。
汗と涙の努力の結晶が、虚しくも目の前で簡単に終わりを告げてしまった。
きっと後悔したことだろう。
「あーあ、持たせるんじゃなかった。」
多少怒りがあったのかもしれないが、可愛い孫には怒れなかったのかもしれない。
おそらくこれが叔母なら話は別だ。
ブチギレられて、ペットボトルサイズのリュックにあるもの無いもの詰めてたことだろう。
そんなじじが去年、我々に別れを告げた。
最期は親族みんなに囲まれて幸せだったことだろう。
もしかしたら、天国で成仏したプラモデルと再会を果たしているのかもしれない。
そうだとしたら、プラモデルの説明書にこう付け加えておきたい。
「完成品を孫に持たせないようにしてください。」
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