最近創想話のレビューが流行ってるみたいだけどぼくの作品のレビューが少ないので自分で書くよ
南条氏と言えば創想話でも『納得の正統派』として広く一般に知られているエンターテイナーでありますが、実のところぼくは流行りものに飛びついてしがみつくのが大好きなのです。
というわけで何だか最近創想話作品のレビューをちらほら見かけるため、そして見かけるにも関わらずぼくの作品がレビューが少ないので、もう自分でやることにしました。
脳髄揺さぶる傑作の数々、ここでご紹介していきたいと思います。
リグル・ナイトバグは蠢かない 作者:南条
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/184/1370648077
"読める伝説"
"疾走する574キロバイト"
"読了は夜明けとともに"
"悪魔のようなリグル"
"南条の原液"
"途中までは読んだ"
とりあえず真っ先に紹介したいのは、上記のような数々の異名を頂く言わずと知れた大長編、『リグル・ナイトバグは蠢かない』です。
リグルが鳥獣伎楽のライブを開催する話。言ってしまえばたったこれだけの話なのですが、そこに至るまでにあつらえられた数々のハードルを力づくで突破していくリグルにはある種の美しさすら感じます。最高です。書いてるとき脳汁が出っぱなしでした。
魔法の森に幻想入りしたなんの変哲もない1軒の家、しかしそれを拾ったのは変哲の化身、肉食系戯言遣いのリグル・ナイトバグでした。
作中でも約1年が経過する規模の大きい話であるため、オリキャラもバシバシ出てきます。オリキャラにしかできない仕事ってのがあるからね。『登場人物中の原作キャラの割合を幻想郷人口中の原作キャラの割合に近づける』とかね。そして彼らにもちゃんと見せ場を用意しているところがこの作品のすごい所なのです。ぼくは気配りのできる作者なのです。
吸血鬼、軍神、魔法使い。群雄割拠の幻想郷の中で、怪物としてあまりにも脆弱なリグルがその悪意と情熱と減らず口でその場をしのぎながら野望のために突き進んでいく姿は、きっとあなたを熱くさせてくれるでしょう。
オススメです。
"人間の武器が創造力であるように。
神様の武器が決断力であるように。
妖怪に武器は、いつだって暴力なのだから。"
風神の後、地霊の前 作者:南条
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/209/1449827958
現人神、地底へ挑む。
地底で巻き起こるハロウィンの謎に迫るべく、早苗が地底へ調査に出かける話です。でもさ、人間如きが興味本位で地底にまで行ってタダで済むわけないだろう? そんな話です。
ヤマメには子ども扱いされ、みとりには何もかもを見破られ、怨霊の大群には翻弄され。ただひたすら恐怖と絶望のはざまで希望に縋り付く早苗はやはりひ弱な人間でしかありません。巫女としてのプライドにしがみつきながら必死の抵抗を試みる姿はさながら神話生物を前にした探索者のようです。
じわじわと明かされていく醜悪な事実と、自分のルーツへの不信感。ここは旧地獄。旧なだけで地獄なのです。行って帰ってくるだけで無事では済まさぬ危険な異界だということがこれでもかというほどに描かれております。
不気味な話に浸りたい方にオススメの一品です。
"見透かされていた。
私の拙いその場しのぎなど、あの2人の前では児戯に等しかったのだ。
言葉のひとつひとつを、行動のひとつひとつを、一切の容赦もなく観察され、分析されていた。
私が思っていたよりも、ずっとずっと深くまで。"
今夜のおかずは敗北の味 作者:南条
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/215/1493899039
早苗ちゃんはかわいいですね。
短くまとまっていて我ながら非常に読みやすいです。『短く無駄なくテンポよく策にハマって呆然とする早苗』という切れ味抜群の話ですが、何より面白いのは早苗が徹頭徹尾全力で敗北に向かって突き進んでいる所でしょう。
よく正邪の『何でもひっくり返す程度の能力』を妙に誇張したとんでも能力として書く方がいますが、そうじゃないんです。そうじゃないんですよ。勝ったはずなのに負けていた。望んだ結果を得たはずなのに、前提を覆されるという爽快な逆転劇にこそ天邪鬼的な美学があるのですよ。わかりますか。最高ですね。
作中に出てくるクイズというかゲームはニムと呼ばれる類のものですが、2問目普通に難しいですよね。早苗の言葉を借りるなら『問題が一次元から二次元に格上げされただけでここまで複雑になるものなのか。』というところです。
ところでみなさん、縦5枚、横5枚、高さ5枚に並べられた125枚のコインがある。これを2人の人間が交互に拾っていくのだが、拾い方は『1枚』か『縦横高さ2枚の8枚』か『縦横高さ3枚の27枚』で、すでにコインが拾われている場所を含めて8枚、27枚とすることはできない。これをコインが無くなるまで続け、最後の1枚を拾った方を『勝ち』とする場合、このゲームは先手必勝である。○か×か。
読み終わると同時に最初を見返したくなるところがまさに天邪鬼です。
壁殴り代行始めました星熊勇儀 作者:南条
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/218/1515417991
壁殴り代行 本日開店!
地霊殿に届けられたチラシ。悪夢はここから始まります。この間あれだけ早苗を震え上がらせた場所とは思えないほどコミカルに話は進みます。やっぱり序盤中盤はコメディで進めた方が楽しいですよね。
地霊殿の大黒柱であるお燐は単身鬼へと挑みますが、あくまでも目的は事態の収束であり鬼退治ではないというところが南条ワールド。こいつは倒したってしょうがないんです。仕事が片付かないんです。
さとりとこいしの関係や温度差も完璧です。完璧に解釈一致です。だってぼくが書いたんですから。さとりはこいしのことは別に最優先でも何でもないところがグッときます。
タイトルもいいです。『壁殴り代行始めました』だけで終わらせず『星熊勇儀』と追加したセンスはさすがぼくです。いかにもろくでもないことが起きそうなタイトルですし、実際にろくでもないことが起こります。
ちなみにぼくが一番気に入っているセリフは下の奴です。燐とさとりの関係性のすべてが詰まっていると思います。
"「燐。目薬は必要なかったようね」"
出来立てグルメノート 作者:南条
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/221/1540394646
こころちゃんはかわいいですね。
一輪とこころちゃんが食道楽するだけの話なのですが、前任者たちのレビューからでは絶妙に予想できない店の様子がこころちゃんのフィルターを通して描かれていてとてもエモいです。
口コミらしく肯定意見ばかりでないところも、それぞれ着眼点が異なっているところも面白いです。このキャラならここを見るだろう。ここを気にするだろう。というところがにじみ出ていて大変すばらしいリアリティを醸し出していると思います。
話が進むにつれてこころちゃんに地味に成長がみられるところも最高です。最初は一輪についていくだけでしたが、正邪に打ち勝つ姿には力強さを感じさせます。後に行くにつれて他のレビュアーの名前がモノローグに現れてくるところもちょっとした仲間意識みたいに思えてとてもいいです。とてもです。ディ・モールトエモ。
ラストでは早苗があれだけ苦しんだ地底への道中をあっさり踏破するところちゃんがこころですし、地霊殿が新築みたいにピカピカなのは先日全焼して建て替えたからです。細かいところで世界観がつながっていて楽しいですね。でもそうなるとこいしはまだ鎖につながれながら仕事をさせられていることになるのですけどね。まあいいや。無限の可能性無限の可能性。
ところで世界観と言えばあのノート。どういう順番で誰の手に渡ってきたかはわかると思います。お客さん以外は原作キャラですし。とりあえず発端の天狗Aが天狗その二を巻き込み、犬走さんが鳥獣伎楽のプロデューサーに話をつなげ、蟲屋さんはあろうことか敵対していた魔法使いにノートを手渡し、さらにそれがユキエに渡ったわけです。ドラマですね。その際にどんなやり取りがあったのか考えると脳汁があふれてきますね。最高です。南条ワールドです。うちは全作品同じ世界です。キャラクターはどいつもこいつも健在です。
B氏についてはべつにいいか。
ところで制作秘話となりますが、創想話にお客さんっていう名前の作者さんがいるんですよ。めっちゃおもしろいの書く人。そしてその方の作品にぼくが出てきます。何を言っているのかわからないかと思いますが、エヌ氏です。せっかく楽しいことをしていただいたし、あなたの作品で煮るなり焼くなりしていいというので、ぼくなりにアンサーを書きたいなぁと思って見知らぬ誰かが後に続く話を書きました。
みんなも鈴奈庵のお客さんになりましょう。
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/218/1522547632
包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・橙
作者:南条
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1579706413
まさに創想話の歴史に残るレベルの傑作です。
これだよ。読者はこれを待ってたんだよ。
八雲の末席、橙色の黒猫が幻想郷の平和を守るために奔走します。これを読めば平和とは優秀な人材による不断の努力とほんのわずかな犠牲によって成り立つのだということがわかると思います。
そして橙正です。橙と正邪、誰もが心惹かれる素敵な組み合わせです。そこに女苑を混ぜるという挑戦的な内容でしたが、見事にマッチしていたと作者に称賛を送るべきでしょう。
動機付けという点でも完璧だと思います。それもこれも天子が針妙丸と紫苑を連れてくれているからです。橙正は公式。すべてがつながった気がしますね。いいと思います。
自立して動く腫瘍という悪意の塊のようなSCPオブジェクトに対し、持ちうる手立てを使ってにじり寄る橙たちですが、各々異なる武器と人脈を駆使しているところがポイント高いです。これなんですよ。これがいいんですよ。時代は多様性ですよ。『そいつならでは』が見どころなんですよ。女苑有能すぎますよ。肩は痛めましたが。
害虫との通信シーンは必見です。最高です。悪魔みたいなプロデューサーは今日も元気です。1回読むと巻き戻ってもう1回読みたくなるテンポをしています。
そして一難去ってまた一難。いったん解決したかと見せかけてからのどんでん返し。さすがはぼくです。基本をおろそかにはしません。
最後のリザルトシーンでは藍様からの評価と共に事の顛末がまとめられますが、ここでも話のオチのように害虫がやってくれます。橙、正邪、女苑、藍、そしてリグル。ロックな彼らの関係性の楽しさこそがこの話の肝なのです。
序盤中盤終盤隙のないハイクオリティな逸品です。もしかしたらぼくの作品の中で一番オススメかもしれません。
最後は橙さんの意気込みを引用して締めたいと思います。
"私は管理者だ。
八雲の末席だ。"
終わりに
改めて自分の作品を見返してみると、なんかもうみごとに『問題と解決』の話ばかりでテンションが上がります。ぼくはこれを極めようとしてますからね。キャラが変わっても舞台が変わっても、誰かが何かを成し遂げる話なんですよね。これからも突き進んで行きましょう。
ところで、やはりというかなんというか、話を作ることに慣れてくると自分の思想というか哲学めいたものが世界観に現れ始める気がします。
もちろんこれはぼくだけに限った話ではありませんが、作者の考えってのはキャラのセリフや行動ではなく、主人公に訪れる結末に垣間見えるのではないかと思います。
『それをしたらこうなるはずだ』という作者にとってのリアル。それがにじみ出るのは、やはり世界観なのだと思います。
それを踏まえてぼくのはどうかというと、この『納得の正統派』と呼ばれる南条が思い描く哲学はたったひとつ。
何をしてでも結果を出した奴が勝者だってことです。
そんな話ばっかりです。