公認読手体験記~未公認の部第3話

専任読手の先生に叱咤激励され、重い腰を上げてようやく公認読手を目指していくことにした私。

講習会の翌日は大会が開催されていて、専任読手の先生も読みに入っていました。
実を言うと、専任読手が試合で読んでいるのを生で聞くのは、この時が初めて。それまでは、読み上げ機「ありあけ」でしか聞いたことがありませんでしたから「いつも聞いてるあの声が聞けるんだな~」くらいの軽い気持ちで会場に行ったのですが・・・想像していた以上の迫力に、発声の瞬間鳥肌が立ちました(大げさに書いているのではなく本当にそうなりました)
人の声に圧倒されるという事が人生初めてのことで、自分の中でそれはすごく衝撃的なものでした。あぁ、これが専任読手のレベルなのか、と。

正直な事を言うとですね。
この時までは、心のどこかでは「自分は人よりも多少上手に読める」「公認出してもいいよと言ってもらったこともあるのだし、結構それなりのセンは行ってるのでは」という根拠のない自信みたいな気持ちが、多少なりともあったと思います。っていうか、ありました(苦笑)
読手やろうと思う人は多かれ少なかれ、そういう気持ちって心のどこかに持ってるはずです。自分はそんな風に思ってないよ、という人もいらっしゃるでしょうが、「自分は下手だから・・・」と本気で思っている人は、そもそも人前でなど読んだりはしないのです。少しは上手く読めるという気持ちがあるから読手をやるわけです。
別に、そう思うのが悪いという事ではありません。上手になるためには、(これは選手でも同じことが言えますが)ある種の自己陶酔みたいなものが多少はあった方が良いと思います。それは過ぎてしまうと「慢心」とかそういうものになってしまうので、注意は必要ですが。
私もその例に漏れず、どこかで思っているフシはありました。自分はそれなりには上手いのだと。

ですが、その時に生で聞いた専任読手の読みに、そういう気持ちは見事に粉砕されました。それはただの思い上がりで、こんなにもレベルが違うものなんだという事を、ハッキリと思い知らされたわけです。

帰ってからの私が何をしていたかというと、専任読手の読みをひたすら真似して読んでいました。何かに取り憑かれたみたいに何度も何度も同じ音源を聞き続けては、何度も何度も同じように読んでいました。気持ち悪いですね(苦笑)

繰り返しやった結果、ある事に気が付きます。
「ただ真似をした所で、それは劣化版にしかならない」
やる前から分かっていることですが、試した結果思ったのは、そういう事でした。

そのくらいまでやった時に、異変が起きます。
何と、自分の読みが完全に分からなくなってしまいました。「猿真似」をやりすぎたせいで、自分の読みが出来ないのです。どうしたら読めるか思い出せなくなってしまったため、ここから2・3か月ほどの間、まったく読まずに取りの練習ばかりするようになってしまいました。
この時、自分の中では読みの練習のためと思っていたことが仇になったように感じました・・・が、これは自分にとって必要なプロセスだったかもしれない、というのは後になってから思うことだったりします。必死な時は、いろいろな事が冷静に見えないものです。
ともかく、「上手なつもり」な今までの自分の驕った読みは、完全に破壊されたのでした。

読むのが怖くなってしまったので、練習では人に読んでもらうか、読み上げ機のどちらか。人が読む時は自分はひたすら取るほうの練習に専念していたので、地方の大会で優勝してみたり公認大会で入賞したりと、選手方面が好調になってきていました。

そんな矢先に、首の関節に異常が見つかってしまいます。取ることに関してはお医者さんによる制限が出てしまいましたので、しばらく逃げ続けていた読みの方に再び向き合う事にしたのですが、びっくりするほど読めません。当たり前です、練習してないんですから。

そういう頃に隣県のかるた会の合同練習に行く機会があったので読みもやったのですが、恐らくこの時点の読みが自分の中で最底辺。声はか細く、安定感の無い発声、リズムもバラバラ。よくこんな読みで人前で読もうと思ったなというレベルで、私を知ってる人には「え?コレって誰の読み?」と不思議がられるくらい別人の読みになっていました。

ここまでどん底に行ったら、もう上がるしかないわけで。
「自分はこんなにも下手な読みしか出来ない、ちゃんと読めてないんだから、基本からキチンとやり直そう」と思い、練習のし直しが始まりました。

・発声練習をキチンとやる
・とにかくテキストに書いてある通りに読む
・4-3-1-5のリズムに合わせることに集中する
(※上記は2015年7月の話です。2020年4月より「5-3-1-6」となります)

以上の3点をとにかく守ること。それ以上でも以下でもなく、ただそれだけに徹して読んでいました。

そのように練習を続けていた所、関東支部の読手講習会の案内が来ました。勇気を出して参加してみることにしたのですが、何しろこのような状態なので、自信なんてまるでありません。
でも、録音を提出すればアドバイスはして頂けると思うので「悪い所をしっかり指摘してもらって、それを直してチャレンジしてみればいいじゃない」と考えることにしました。そう思うと気が楽になるものです。

初めて参加した講習会から3年、再び上京した私を待ち受けていたものは―――次回のお話に続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?