特に高みは目指さないけど読みは覚えたいと思っているあなたへ④よくある読み間違い
さて今回は、読みを始めたばかりの人がよくやりがちな「読み間違い」について書いていきたいと思います。
まずは、頻出度が高い間違いから。
我が袖は汐干に見えぬ沖の石の
人こそ知らね乾く間もなし
(小倉百人一首92番・二條院讃岐)
はい、これ何と読むでしょう?
ふりがなはこちら。
わがそではしおひにみえぬおきのいしの
ひとこそしらねかわくまもなし
正しく読めましたか?良くある間違いが「汐干に見えぬ」の「しおひ」を「しおい」と読むパターン。サラッと「わがそでは~しおいにみえぬ~」と読む人いらっしゃるんですよ。何故これを間違うのかというと・・・
百人一首は歴史的仮名遣いで書いてある
↓
歴史的仮名遣いでは「ひ」は「い」と読む
↓
Aさん「しおひにみえぬ」・・・「ひ」が出てきた!変換して読まなきゃ!
↓
Aさん「しおいにみえぬ~」
専任読手「そこは『しおひ』ですよ」
Aさん「(´・ω・`)」
という風になるわけですね。「歴史的仮名遣いである」ということだけに意識が行ってしまって間違うパターンです。
確かに「こひすてふ」→「こいすちょう」とか、「かひなくたたむ」→「かいなくたたん」という風に、「ひ」と書かれていて「い」と読むものが多いです。だから「しおひ」と書かれているものをつい「しおい」と言いたくなるわけです。お気持ち分かります。
しかしこれは、言葉の意味を理解して読むと間違えなくて済みます。
読み札をよく見てください。「しおひ」は「汐干」もしくは「潮干」と書かれていませんか?そう、これは「潮干狩り」の「潮干」です。
だから「ひ」は「ひ」のまま。「干からびる」の「ひ」という事なんですね。
同じく「村雨の」の歌にも「干(ひ)」と読む部分が出てきます。
村雨の露もまだひぬ槙の葉に
×まだいぬ
〇まだひぬ
となります。ここでの「ひ」は干からびるの「ひ」です。
「まだ干ぬ=まだ乾いてない」という意味の歌だと分かって読んでいれば、そうそう間違えたりはしないので、言葉の意味を理解して読みに臨むと良いでしょう。
こちらも注意したい読み。
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ
わが衣手は露にぬれつつ
(小倉百人一首1番・天智天皇)
これの読み方。
あきのたのかりおのいおのとまをあらみ
わがころもではつゆにぬれつつ
ここでは「かりほ」ではなく「かりお」と発音します。こちらは歴史的仮名遣いを現代仮名遣いの発音に直しているパターンです。
「仮庵(かりいほ)」が縮まって「かりほ」となっているもの(約音:続いている音節の中間にある母音が脱落すること)ですが、「刈り穂(かりほ)」との掛詞にもなっている言葉。
同じ「かりほ」なワケですが、ある時から歴史的仮名遣いで書かれている「はひふへほ」は、言葉の途中にある場合には「あいうえお」もしくは「わいうえお」と現代仮名遣いがあてられることになったため「庵(いほ)」は「庵(いお)」という発音をするようになりました。一方、「刈り穂」は「かりほ」のままでOKな言葉(刈り/穂、「穂」は独立した言葉なのでそのまま「ほ」と読む)発音上は別物なため、掛詞が活かされてない感じになってしまいます。
・・・じゃあ、結局のところはどっちが正しいのよ、という話になりますが、テキストとしては「かりお」で発音していきます。
読み札も取り札も歴史的仮名遣いで書かれているので、どっちをどう読むのか悩む部分ですが、言葉として変換すべきでないもの、変換して読まなければいけないものがいくつもあるので、確認しながら読んでいきたい所ですね。
最後にもう一つ、たまに間違う人がいるのですが・・・
下の句の最後の「もがな」
これの伸ばしを、例えば「くるよしもーがなー」ってやってしまう人が時折見受けられるのですが
「もがな」は「もがな」のままで「もがなー」です。
下の句を読む時は通常「(例)〇〇〇~〇〇〇〇~〇〇〇〇〇~〇〇~」という風に、最後の2文字をまとめています。例えば「にしきなり~けり~」とか「あまのかぐ~やま~」という感じで2文字になっているパターンが多いので、つい、その形に合わせてしまうのでしょう。
中には3文字まとまるパターンのものもありますね。
例えば「ものをこそーおもえー」など。「思へ」と書かれているのでそこでは切りにくいという事は誰でも判断でき「おもえー」と間違わずに読んでいます。これを「ものをこそおーもえー」と読み間違えるのはあまり聞いたことがありません。
でも「もがな」に関しては、あまり聞きなれない言葉ゆえに認知度が低めなためか、うっかり「もーがなー」としてしまう人が出てくるわけですが・・・
「もがな」は願望を表す終助詞です。
はい、学生さんが拒否反応を示す単語出てきました。終助詞、非常に嫌な言葉ですね!私もそういう勉強はあんまり好きじゃないのですが、覚えておくとテストに出た時に役に立つかもしれません(あっ!これ百人一首で見たやつだ!って)
例として「いまは」の下の句の終わり。
言うよしもがな
これは「いうよしーもがなー」と読みます。
「言う」はそのまま「言う」という意味。「よし」は「由」・・・手段とか方法を表す言葉。それに願望を表す「もがな」と続いています。あわせて「言う手段があれば良いのに」という現代語訳になります。歌の意味が分かると覚えやすいですね。
余談ですが「もがな」の仲間に「もがも」があります。「世の中は常にもがもな・・・」ですね。「もがもって何」と疑問に思う人がたくさんいると思うのですが、これも同じで願望を表す終助詞。この歌では「世の中が常(変わらない)ままであればいいのになぁ」という訳になります。参考までに。
最後の部分を3文字つなげて読む形になっている歌は以下の通り。
もがな(4首):あらざ・なにし・わすれ・いまは
おもふ(2首):わび・せ
おもへ(2首):ながか・みかき
なくに(2首):たれ・みち
ものを(1首):うか
以上の合計11首は、下の句の最後が3文字です。
これだけをしっかり覚えておけば、迷うことはありません!
このように、うっかり読み間違ってしまう歌がいくつかありますので、読む時は気を付けてくださいね。
ご覧頂き、ありがとうございます。
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