NEC Mate魔改造-MateにRyzenを積もう!-
NEC Mateといえば、NEC(現在はNECパーソナルコンピュータに移管)の法人向けデスクトップパソコンである。ディープブルーとホワイトグレーの配色が美しいデザインのPCだ。
筆者は2024年10月ごろにNEC Mateの魔改造を行った。家族用PCをWindows11搭載機に更新するついでに、NEC MateにAMD Ryzen CPUを搭載しようという試みである。
本記事では、NEC Mate魔改造において、行った改造と注意点などについて備忘録的に書く。
ちなみに本記事はNEC Mateの改造を推奨するものではなく、「NEC Mateを改造するのは、やめておけ」と警鐘を鳴らすものである。
独自規格だらけのメーカー製PCを改造するのなんて、ろくなものじゃない。しかし、Intel CPU搭載機ばっかりのビジネス向けPCにAMD CPUを載せるの冒涜的で、乙なものだろう?
魔改造のきっかけ
NEC MateにAMD CPUを搭載する。
なぜ、そんな珍奇で冒涜的な行為をしたかというとNEC PC-8001mk2FR(おおよそ40年前に発売されたNEC製PC)の中身を最新Ryzen搭載機に改造する動画に触発されたのがきっかけだ。
外見オンボロで中身最新なんて男心がくすぐられるではないか。あとintel製CPU搭載機ばっかりのビジネス向けPCにAMD製CPUを載せるの冒涜的だし。
というわけで、外見が好きな古いPCであるNEC Mate(タイプML 第6世代i5-6400搭載機)ケースを使用して、中身最新に仕上げようではないか。
(発売日2018/01/19と比較的最近で、保障が切れたのも最近じゃねーか! という声もあるだろうが、この筐体の見た目が好きだから仕方ない)
以降では、改造前のNEC Mateを「Mate」、改造後のNEC Mateを「ReMate」と呼称する。命名は英単語のremake(作り直す)と言葉を掛けている
改造前と改造後のパーツ構成
改造前(Mate_MKM27L-1)と改造後(ReMate)の中身の違いは表1の通りである。
CPUはintel Core i5-6400からAMD Ryzen 5 8600G、メモリはDDR4-2400 4GB 2枚からDDR5-6000 16GB 1枚、ストレージはHDDからM.2 NVMe Gen4 SSDといった具合。性能だけで言えば、グラボを搭載しないミドルレンジ帯辺りだろうか。
流用したのはケース、光学ドライブ、フロントのオーディオ端子、表に記載されていない電源スイッチやアクセスランプのみ。ほぼ全てのパーツが入れ替わっている。
魔改造するといっても家族のPCの用途は、ネットブラウジング、officeソフトの使用くらいのもので、そこまで高度なことはしない。Mateケースはスリム筐体で空間容積が小さく、背の高いCPUクーラーを搭載できない(ケース外形幅89mm)ので、Ryzen 7以上のCPUやグラフィックボードを搭載すると冷却しきれない恐れがある。そのため、内臓GPUを搭載し、そこそこの性能のRyzen 5 8600Gを選んだ。
外見的な違いとしては、フロントパネルにUSB Type-Cポートを追加したことだ。今後、USB Type-Cの周辺機器が増えていくことを考えるとフロントパネルにUSB Type-Cポートは必須だ。
Mateケースの改造
まずMateはメーカー製PCである。一般的な自作PC筐体と異なり、最初から特定のパーツを組み付けることが前提の設計になっている。融通が利かない設計になっているのだが、マザーボードや電源ユニット、ケースファン、HDDマウントサイズについては、一般的な規格を採用している。
マザーボード:Micro-ATX
電源ユニット:TFX電源
ケースファン:80mm x 80mm
HDDマウント:3.5インチサイズ
しかし、一般規格を採用しているといっても一般流通している規格品と完全に同一ではないし、一般品がそのまま取り付けられるわけではない。
ケースファンとHDDマウントは、完全に一般流通しているものと同規格なので、問題は無い。問題はマザーボードと電源ユニットだ。この2つが相当な食わせ物である。
マザーボードはMicro-ATXサイズである。ネジ位置も一般的なMicro-ATXと同じで、ねじがミリねじであることを除けば、"取り付け"には支障ない。問題はMate純正マザーボードのCPUソケット中心位置が一般的なマザーボードより30mmほど左にあることだ。つまり、Mateケースに一般的なマザーボードを搭載するとCPUクーラー位置が本来の位置から30mmほど右に寄ることになる。これが大問題なのだ。
図2を見てほしい。CPUクーラーと光学ドライブ/HDDマウント部が干渉寸前なのだ。余裕は2mm程度しかない。搭載しているCPUクーラーは全高37mmという低さを誇るNoctua NH-L9A-AM5。一般的なトップフロー型CPUクーラーでは干渉してしまうだろう。
Mateに取り付けるマザーボードはCPUソケット位置、CPUクーラーの大きさに注意が必要だ。
電源ユニットは、ユニットの"ねじ穴間隔寸法的には"TFXサイズである。だが、ユニットそのものは一般的なTFX電源サイズではない。
Mate純正TFX電源は一般流通品より幅が3mmほど小さい。またケーブルはCPU電源供給用4pin端子とマザーボード電源供給用14pin端子の2つしかない。特に14pin端子はLenovoの独自端子らしい。電源容量は180Wと小型PC向けには十分と言える容量だが、流用は不可能である。
一般的なTFX電源をケースに取り付けるためにはケースの電源ユニット部分の金具を切断/ねじ穴位置を広げる加工をする必要がある。また電源ユニットの奥行きも一般サイズより20mmほど小さいため、光学ドライブ/HDD取り付け部分の加工も必要となる。
加工にはフライス盤やハンドグラインダー、金属ヤスリが必須になる。一般家庭では無理だろう。
またマザーボードASRock B650M Pro RS WiFiの電源用ケーブルと光学ドライブ/HDDマウント部の支柱部分が干渉したため、そこも加工している。
MateフロントI/O部品の改造
PCの顔とも言えるフロント面だ。MateのフロントI/Oは以下のようになっている。
電源ボタン
電源ランプ
HDDアクセスランプ
USB3.0 Type-Aポート x 2
オーディオジャック(イン/アウト)
これらの端子も独自規格であり、そのままでは一般的なマザーボードには取り付けられない。しかし、USB3.0 Type-Aポート以外はジャンパーケーブルで配列を入れ替えることで、流用が可能になる。
電源ボタン、電源ランプ、HDDアクセスランプは7列2行の14pinメス端子にまとめられている。なお、そのうち8pinはケーブルに繋がっていない。正直、これらの配線は簡単で、どのケーブルがどこに繋がっているかを見れば簡単に判別できる。配線表は図6に示す。
配線のプラスとマイナスを間違って刺しても問題は無い。電源ボタンは通電さえすれば事足りるし、電源ランプ、HDDアクセスランプはLEDなのでプラスマイナスを入れ間違えていても点灯しないだけだ。
ちなみにMateはシステム上で電源ボタンがリセットボタンも兼ねているため、この端子にはリセットボタン配線がない。リセットボタンについては別途購入してマザーボードに刺しておこう。
USB3.0 Type-Aポートケーブルとオーディオジャック配線は1つのユニットに収められている。しかし、薄い鋼尺やマイナスドライバーでこじ開けてみれば、なんのことはない。単純な作りである。(スナップフィット破壊に躊躇せず、こじ開けよう)
オーディオジャック配線の方は、これまた7列2行の14pinメス端子の独自配列だが、ジャンパーケーブルで入れ替えれば流用ができる。配線表は図8に示す。
先の電源ボタンやアクセスランプの14pin端子と同様、5pinはケーブルに繋がっていない。オーディオジャック配線は本数が多いが、ケーブルに色が付いているので区別はしやすいだろう。ジャンパーケーブルの方が色が少ないのでマザーボードに刺すときに困るかもしれない。
ちなみにMateオーディオジャック配線については次のWebサイトを参考にした。このWebサイトで改造しているMateはHaswell世代(第4世代)のもので、今回、筆者が改造しているSkylake世代のMate(第6世代)より型式が古いものだが、紹介されている配線を試してみた結果、問題は無かった。
(リンク先で紹介されている配列と図8の配列とは番号の振り方が異なるので注意)
USB3.0 Type-Aポートケーブルについてはマザーボードに接続する端子が独自コネクタなので流用は不可能である。マザーボード側端子がPCI Express x 1に似ているが微妙に違うし、ピン数も異なる。USBポートケーブルの流用は諦めるほかない。
なので、USBポートケーブル自体を交換してしまおう。
図10のようにポートケーブル自体が独立している(基板回路を介していない)ものを購入し、分解して、Mate純正USBポートケーブルとすげ替えてしまおうということだ。
Mate純正USBポートケーブルはフラットケーブル、すげ替えるUSBポートケーブルは丸ケーブルなので、カバーのケーブル経路はボール盤や丸ヤスリなどで丸ケーブルに対応できるように加工しよう。
ちなみにフロントパネルに追加したUSB 3.2 Gen1 Type-Cポートは、図11のようにトタン板を切り、折り曲げた治具に固定して取り付けた(Type-Cポートの隣にあるのはリセットスイッチ)。金属板加工だとアルミ板が加工しやすいが、わざわざトタン板を使ったのには理由がある。Mateケースがスチールなので、アルミだと電蝕するが、トタンなら電蝕しないからだ。
取り付けた部分の開口部分はケースに最初から開いていた。ご丁寧にネジ穴付きの開口部だったが、元々は何の用途の穴だったのだろうか?
ちなみに外装には開口部が開いていないうえ、ダボやリブと干渉するので、鋸とドリルとヤスリで寸法に気をつけながら開けよう。
光学ドライブは日立LG製の「ウルトラスリム DVDスーパーマルチドライブHL-DT-ST DVDRAM GUD0N」というものだが、これの電源供給ケーブルもマザーボード側が4pinメス端子と特殊になっている。そのため、SATA電源ケーブルを別で用意しなければならないが、光学ドライブ側がSATA電源コネクタではなく、Slimline SATAという電源コネクタであり、注意が必要だ。
筆者はAinexのSlimline SATA電源とSATAデータが一体化したものを使用した。
完成
完成した図が図11である。改造前の図12と比較するとマザーボード基板色が白と黒、VRMヒートシンクやM.2ヒートシンクが白色なこと、CPUクーラーの整流カバーがなくなったことによって、現代的でスッキリした印象となった。
起動もすんなり行え、CinebenchR23ベンチマークテストも大きな問題はなかった。(CinebenchR23マルチで、CPU温度がなぜか75℃上限だが、スコア13900くらいを発揮。通常使用時のCPU温度が50℃ぐらいと冷却不足感があったので、BIOS設定でCPU供給電圧を-20mVにして、40℃程度をキープ)
行った改造(パーツ変更を除く)を羅列すると以下のようになる。
TFX電源周り:取付金具除去、光学ドライブ周辺干渉部除去、取付穴拡大
マザーボード周り:マザボ電源供給コネクタへの干渉部分除去
電源ボタン/電源・HDDランプ:配線入れ替え
オーディオジャック:配線入れ替え
フロントUSBポート:ポートケーブル取り替え、Type-Cポート新設
光学ドライブ:電源/通信ケーブル取り替え
ケース塗装:グレーからホワイトへ
こう書くと改造内容は6つしかないが、問題確認/検討/検証/実行/結果確認を繰り返すのは、かなり手間だった。
改造した感想
素直に言おう。
「Mateを改造して中身最新にするのなんて、やめておけ」
先にも書いたが、用意したパーツとMateケースの組み合わせにおける問題確認/検討/検証/実行/結果確認を繰り返すのは、かなり手間だった。
TFX電源の取り付け金具の高さが合わず、TFX電源ユニットがケース内に収まらない時には「ふざけんな!」と叫んでしまったほどだし、マザボ電源ケーブルと光学ドライブ/HDDマウント部の干渉時には固いコネクタを外すのに苦労した。メーカー製PCケースは、いかに汎用性がないかというのを痛感する。
自分の家にはフライス盤やボール盤、ハンドグラインダーといった工作機械や工具があるため、ケースを加工できたが、一般家庭ではこのような加工は難しいだろう。
正直なところ、Mate……ひいてはメーカー製PCケースを流用した改造はおすすめしない。(Haswell世代以前や光学ドライブがなくなった現行世代のMateだと多少は無改造でいけるかもしれないが……)
ネットには、たくさんのNEC Mateの魔改造記事や魔改造動画がある。しかし、その内容が「CPUの同世代アップグレード」や「メモリ増設」、「グラボ追加」といった”魔改造”と称するには物足りない内容が多い理由を考えなければならない。
ケース流用を試みた者は皆、失敗し、諦めているのだ。
最後に
もし安易にNEC_Mateのケース流用を試みる者がいるなら、私は「Mateケースに夢を見るのは……やめておけ」と言う。
Mateケースの入手と改造のコストを使って、面白くて現代的なケースを買った方が総合的な満足度は高いはずだ。
もし本気でNEC_Mateのケース流用を試みる者ならば、是非、本記事の内容を役立ててほしい。