『願いが叶う』という現象はとても怖い事だったりする。
アレをやってみたい。けど怖い。
いい加減、この問題に着手したいんだけど勇気が出ない。踏ん切りが着かない。
うじうじ考えているうちに何も出来ずに数年が経過した。
そんな事をありとあらゆる分野で繰り返してきたけれど、いざやってみたらなんの事もなくすんなり完了してしまった、という経験が本当に多い。
三年以上やるかどうか悩んでいた事を、「えい」ってやってみたら1時間で完了させてしまった事もある。
「この迷い続けた数年間は一体なんだったんだろう」
と思いたくなるし、実際思うんだけど
でもどう足掻いても『今』でなければ出来なかった事なので
「もっと早くやれば良かったなぁ…」とか考えたところで仕方がないんだろうな。って結論に結局いつも至っている。
そんな事を繰り返してきたせいか
今、『やりたい事として頭に浮かんではいるけれど、着手できてはいない事』があったとしても
「タイミングが訪れればきっとすんなり始められるんだろうな。そして完了できてしまうんだろうな」
という経験則に基づく安心感が、なんとなくいつも心に存在するようになった。
稀(まれ)に。「こんなに悩んでいてもいずれすんなり始めちゃえる事が分かっているんだから、今やってもなんか大丈夫な気がする」
そう思ってすぐに「えいや」って始められる時もあったりする。非常に稀だが。
でもこの非常に稀だった「えいや」の頻度が、ここ最近、前よりも短いスパンで起こせるようになって
その事に私自身、非常に混乱している。
人生のスピードが上がっていてなんだか怖い。
『状況が一気に動いているんだけど大丈夫なんだろうか』ってビビり散らかしている。
そうやってビビり散らかしながらも色々と手を出していった結果、自分の精神が追い付かなくなって、一気に疲弊してしまったり。
なんか知らないけど生きているのがダルくなって、虚無感に近い感情を抱いたりしていたのが、ここ数ヶ月の私です。
実際に何があったのかの詳細は省くけれど、今年に入ってから今日までの間に、年単位で抱き続けてきた小さな願い事がいくつか叶った。
一般的なレベルで言えば、大したことのないレベルの願い事だったんだけど、
私にとって、それらの願いを叶えるために行動を起こす事は、とても大きな恐怖を伴うものだった。
そしてそれらが、こちらの予想に反してさっくりと叶ってしまった。
変なもので、
「達成したい」とあれほど願っていた物事を達成できてしまった結果、不安と恐怖に怯えてしまう人というのは、私も含めてかなり多いらしく、
例えば宝くじに高額当選した人が破産しやすいのも、せっかく素敵な恋人ができたのに自ら裏切るような行動を起こしたりするのも
「願いが叶っている状態が自分にふさわしいとは思えず落ち着かず、怖くて仕方がなくなり、
元の状態に戻りたくなるから」という理由が多いのだそう。
こういうのを『心理的ホメオスタシス』(=慣れ親しんだ環境に戻ろうとする恒常性。)という言葉で表現されたりするらしいんだけど
幸い今の私は、新しい環境が何だかんだ心地良いため、過去に戻りたいとは思わなかったものの
「進むのに疲れた」という『停止』の状態に長らく滞在しておりました。
というか、現在進行形でまだ滞在しております。
はたから見たら贅沢な悩みです。
でもちょっと疲れていました。
しかしこの、疲れて停止している時間の中で、
願いが叶っている生活に、少しずつ身体を馴染ませていたんだろうとも思っている。
そういった意味では、例えば経営している会社が軌道に乗ってイケイケどんどんの人とかは大変かもしれない。
静かに馴染ませる暇もなく、進み続けなければいけないのだから。
それにそういう悩みって、往々にして人には言いづらい。
人生が良い方向に回りだして怖い。
最高の恋人が出来たせいで生きているのが辛い。
年収が一億円を超えてしまって死にたい。
はたから見たら自慢話にしか聞こえなかったりするから、人には言いづらいでしょうよ。
そんなワケで私は、別に自分の理想にドンピシャの恋人が出来たワケでも、年収が一億円を超えたワケでもないけれど、身の回りの生活が少しだけ改善されました。
つまり、
最近の私は、『生活が改善されていく事がとても恐ろしかった』という事です。
…『人生が良い方向に進むのが怖い』って
『幸せになるのが怖い』って一体何なんでしょうね。
なんでそういう現象が存在するんでしょうね。
どうして、もう少し楽なメンタルで生きられないのかしらって、
いつも思っています、私。
ーー
初めて漫画賞を受賞してそれほど経っていない時期に、
漫画家を目指す事が急に怖くなって、高校で体調を崩した。
私の様子がおかしいと報告を受けたらしい担任の先生は
「今まで『夢』だったものが、現実的な『職業』として近付いてきた、そのギャップに怯えたんじゃないだろうか」と、
放課後、唐突に二者面談を開いてそう言った。