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激痛戦線とシュガートースト。
「私って全然使い物にならないな」って思わせられる状況に陥る時ってあるじゃないですか。
今年の5月末、前歯に激痛が走ったんですわ。
現在、私は歯列矯正の最中なんだけれども、ワイヤー矯正の段階は終わりを迎えて、マウスピース矯正に移行している。
つまり歯並びは大方整ったんだけど、あとはその位置から歯が動かなくなるまでマウスピースで固定させる段階に入った、ということ。
マウスピースを長期間嵌めないで過ごすと、せっかく移動させた歯が形状記憶を使って元の位置に戻ろうとするので、最低でも一日八時間、特に就寝時には装着して寝るよう担当医から言われていた。
そして数ヵ月に一度、矯正中に一番気を付けなければいけない虫歯と歯周病が起きていないかチェックしてもらう。という生活を続けているのだが、まあ経過はおおむね順調順調。
なのに。
なのに歯が思いっきり痛くなった。
歯周病のチェックをしてもらった日から間もなく下の前歯に激痛が走った。
激痛が走る以前からたびたび鈍い痛みは感じていたけれど、「多分マウスピースをはめてる影響でしょ」と思っていた。
「これマウスピースの影響じゃねえな」と悟ったその日に歯医者に電話。
レントゲンを撮ってもらったところ、過去に別の歯科医院で虫歯を治療した際、詰められた詰め物がなぜか神経に触れており、
実際歯を削って診てもらったら、神経の半分がものの見事に死んでいます、と言われてしまって、え…ってなった。
そんなワケで神経の治療が始まった。
そんでもって先に言っておくと、ここからが何かもう大変だった。「誰が?」って主に私が。
歯の神経の治療は過去にも経験があるんだけれど、この日はたまたま私のコンディションが悪かったのが災いしたんだと思う。麻酔針を刺した歯茎が化膿した。
歯科医院での麻酔経験者は分かると思うが、麻酔針は2回以上刺される事がある。
より奥に麻酔するために一度手前に麻酔する。手前の麻酔が効いてきたら奥までズップリ刺される。個人的にこの感触は何度経験しても慣れなくて、頭の中で「あー」とか「うー」とか言って気分をごまかしている。奥までズップリなんて字面だけ見れば卑猥だけど、卑猥を感じる余裕もなかった。こういう時こそエロ漫画家の底力を試されるんじゃないのか。お前は何のために漫画家になったんだ。
で。
前戯麻酔を刺さないと本麻酔が打てないような治療をしたのに、針を刺した箇所が化膿したらどうなるか。
麻酔が切れたその日の夜は地獄やで。
眠れないし、運良く眠れたとしても激痛で何度も目を覚ます有様。
身体を起こしている時間帯はまだ痛みは楽なのだが、横になると激痛が走る。神経が病んでる時特有の症状だそうで。
もらった痛み止めの錠剤もまるで効きゃあしねぇのでとりあえず冷やし続ける事にした。保冷剤と、水を入れたペットボトルを凍らせて、顎にあてがって夜は寝る。
顎に氷をあてがえば当然ながら結露が垂れて首と肩をダバダバに濡らしてくるのでね。ええ風邪を引きましたとも。
泣きっ面に蜂だよ。
口腔が荒れまくってるから食べられる物も少ない。豆腐とプレーンヨーグルト、辛うじて白米。(白いものばっかりだな)
ちょっとでも熱いもの、辛いもの、固いものは顔に熱を持つので避けなければならなかったが、何よりも避けなければならなかったのが意外にも砂糖だった。
砂糖の粒ですよ。(これも白いな)
後から調べたら、砂糖の粒と歯の象牙は大変相性が悪いらしい(無知)。気分転換に表面に砂糖がついているクッキーをちょっと割って口に放り込んだら顔が痺れて動けなくなった(無知の極み)。
痛みで口を閉じれないので唾液がこぼれる。顔がひきつって「あ゛…あ゛…」しか言えなくなった。
端から見たら完全にゾンビだった。
ウォーキングデッドや。
もうイヤ。
もうイヤ。しか考えられなかったわ。もうイヤ。
こういう時。
こういう時、どういう思考回路でいるのが美徳なのかは、一応解ってはいるんだ。
人は健康な時には健康をあまり意識しないじゃない。
怪我や病に見舞われた時に、初めて健康を意識する人の方が圧倒的に多いじゃない。戦争を経験しているから平和のありがたみを全身で感じる、みたいな。
だから病んでいる時は「健康がいかにありがたいものなのかを考え、感謝する時間にしましょう」と、あらゆる精神論者が色んなところで話してきたと思うんだけど、それを知ってて敢えて言おう。
くっそ痛ぇ。
痛ぇもんは痛ぇ。それ以外考える余裕が無ぇ。
何で俺がこんな目にあわなきゃいけないんだ。
治療済みの歯の神経が死ぬってどういう事だ。私が何をしたっていうんだ。
全然仕事が出来てねぇ。
締切は延びねぇ。
くっそ。
睡眠不足と食事が摂れないのと痛いのとで、この時はかなり苛立っていた。
悪口と不平不満はよくない。
知ってるって。
でも経験上こういう時は思いっきり声に出した方が健康的です。
あー痛ぇ。
もーイヤ。
イヤったらイヤ。
壁に人形の如くもたれかかって、文句を垂れ流すポンコツ、名仁川るい。
一人で言う分には周りに迷惑かけないもん。出すに限りますわ。
ところが真面目で誠実な人ほど、誰もいない空間でも絶対不満を洩らさなかったりするそうなんですね。わたくし心配になります。
個人的には誰もいない時くらい「あーどいつもこいつもバカばっかり」って叫んでもバチはあたらないと思うんだけれども。
ん?そんな事ばかり言ってるから私の歯茎は化膿したのかな?
でもねぇ、人と喧嘩したりすると言っちゃうんですよね。人間だもん。
話脱線しちゃったな。
でさ。
結局痛みが続いたり一旦落ち着いたりを何回か繰り返して、歯茎が完治したのは8月だった。
自然治癒はぶっちゃけ難しかった。最初の治療から数週間後に「痛みが続いてしんどいです」と相談したら、こちらの軟膏を処方されました。
(アフタゾロン 口腔用軟膏0.1% あゆみ製薬株式会社)
結果、塗って一週間くらいで朝まで眠れるようになり、食事も問題なく出来るようになった。(この軟膏、唾液で流れづらいテクスチャーで患部に密着してくれる。もっと早く欲しかった。)
そして神経の治療後、歯茎の刺し傷が完治してから暫く経ったある日、
無性にシュガートーストが食べたくなったので食パンを焼いた。
こちとら砂糖のお陰で、顔がバイオテロに侵されたゾンビみたいになったのでちょっと緊張したんだけれど。
マーガリンをうっすら塗ってコーヒーシュガーをサラサラかけて齧ってみる。
……………全然痛くない。
鳥肌が立った。
ああ、
これが幸せってやつか。
ひと口ひと口噛み締めながら完食しました。
ごちそうさまです。
え?何?
上白糖もマーガリンも健康に悪いって?
でも、おいしい物を食べると幸せホルモンがドバドバ出るの。ドバドバ出ると身体全体の免疫力が上がるってよく聞くじゃない奥さん。
ニキビ予防のためにチョコレートを我慢してたら、そのストレスでニキビが出たって言う人、結構いるじゃないすか。
ちょっとならいいのよ。歯磨きだってちゃんとしたもんね。
ん?そんな事ばかり言ってるから私の歯茎は化膿したのかな?
ただ歯科医院には誰しも、3ヶ月に一回はメンテナンスのために行った方がいいみたい。
とりあえず。
痛いとこが無いって、あまりにも素敵ね。
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