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「CCS/CCUS」という技術
「CCS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれています。「CCUS」は、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・利用・貯留」と呼ばれます。二酸化炭素を分離・回収してただ貯留するのではなく利用しようという技術です。生産を続けて来た古い油田の油層に二酸化炭素を圧入して、油層に残った石油を圧力で押し出しつつ、二酸化炭素を地下に封じ込めてしまおうというのが CCUS 技術です。
CCS も CCUS も地下の隙間の多い砂岩や炭酸塩岩などの岩石に二酸化炭素を送り込んで貯留するという点で、石油開発で培われた技術が応用できる分野です。
ただし CCS/CCUS を実現するためにはいくつかの課題があります。一つは二酸化炭素を分離して回収するためにはコストがかなりかかるということです。また、石油開発と同じように地下の貯留層まで圧入井を掘り、それを維持・管理するためにも莫大なコストがかかります。十分な量の二酸化炭素を貯留するための地層を見つけることも必要です。地表に漏れ出ないことを技術的に保証し、場合によっては継続したモニタリングも必要でしょう。
CCS は、二酸化炭素の排出を抑制するという大きな意味での価値はありますが、個々の事業によって価値ある生産物があるわけではなく、直接価値を生み出すわけではありません。CCUS でさえも、それで増産できる石油ガス資源でコストを回収するのはかなり厳しいはずです。したがってCCS/CCUS 事業にはそれを担う事業者が二酸化炭素を処理したことに対して補助金など利益が得られるような仕組みが必要です。
二酸化炭素を排出しない代替エネルギーや代替手法があれば、CCS/CCUS へのモチベーションも CCS/CCUS 事業に対して補助金を出すメリットも少なくなっていくわけで、CCS/CCUS 事業に最後までモチベーションを持ち続ける事業者は、どうしても二酸化炭素排出が抑えられない業界や石油天然ガス開発業界などということもできるかと思います。特に石油天然ガス事業にとっては事業を継続するための「延命策」という側面が強くなってくると思います。
資源エネルギー庁の資料「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」
(https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/036/036_005.pdf)
によると、世界のエネルギー起源CO2排出削減貢献度は2050年カーボンニュートラル達成時にこそCCUSの貢献度は約20%を示していますが、貢献度の増加はゆっくりしたものに見えます。
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International Energy Agency (IEA) の「Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector」
(https://iea.blob.core.windows.net/assets/deebef5d-0c34-4539-9d0c-10b13d840027/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector_CORR.pdf)
によると、CCUSはまだDemonstration (技術実証段階)や Prototype (試作機開発段階) のような位置づけで、実証実験がうまくいったとしても大きく貢献するまでにはまだ時間かかると思われます。
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CCS/CCUS は実際に大気中の二酸化炭素を地下に固定するということから、ダイレクトに大気中の二酸化炭素量を減らせる可能性があるという点において期待もできますが、今から急激に貯留量を増やせるわけではないという点、補助金など事業者の利益やモチベーションにつながるような仕組みが必要となる点、そしてそれらの仕組みに透明性を持たせないと二酸化炭素排出削減への効果もあいまいとなるだけでなく、不正の温床となりかねないことも懸念しています。
ブルー水素やブルーアンモニアと呼ばれるものは、製造の際に天然ガスや石炭を原料として使用し、その過程で排出されるCO2をCCU/CCUS技術を使用して回収・貯留した水素 (ブルー水素) やそれを原料として作られたアンモニア (ブルーアンモニア) のことです。形は水素やアンモニアに変わっていますが、どの段階で二酸化炭素を取り除くかという点が違うだけで、本質的には化石燃料にCCS/CCUS技術を組み合わせたものと言えると思います。
いずれにしろ二酸化炭素を出してから分離・回収・貯留するのではなく、できればはじめから二酸化炭素を出さない技術や出す量を減らす技術や出さないエネルギー資源に頼りたいと思います。
石油開発会社にいた私が言うのもなんですが、CCS/CCUS は化石燃料開発の延命には有効だと思いますが、それがかえって他の再生可能エネルギー促進のブレーキにならないことを願います。